[P2-B-0604] 若年健常女性の外反母趾角と歩行時関節モーメントの関係について
Keywords:外反母趾, 歩行, 関節モーメント
【はじめに,目的】
変形性膝関節症の患者は,外反母趾や扁平足などの足部変形をしばしば合併しており,インソールや足部に対する運動療法が処方されることがある。外反母趾患者における歩行解析の研究(Kao-Shang Shihら,2014)によると,歩行時の膝関節外的内反モーメントが増大するという報告があるが,外反母趾が変形性膝関節症の進行や発症にどのような影響を与えているかや変形性関節症発症以前の対象者の歩行における特徴などを報告したものはない。我々は,第49回日本理学療法学術大会において歩行中の荷重最大期の外反母趾角と下肢関節モーメントの相関関係を解析し,外反母趾角が大きいほど歩行時の各関節のモーメントは小さくなると報告した。今回の研究の目的は,若年健常女性を対象に外反母趾角の大きい群と小さい群の歩行時関節モーメントの特徴を明らかにすることである。
【方法】
対象は若年健常女性19名38足(平均年齢21.4歳±1.54歳)とした。足部形態計測項目は第I趾側角度(外反母趾角;以下HVA)と内側縦アーチ高率(以下MLA)を人体計測機器等を用いて体表から測定した。また,HVAの値からHVA16°以上の者をHVA群(9足),HVA11°以下の者を健常群(20足)に分類し,HVA15°~12°の者は比較対象から除外した。歩行解析は,三次元動作解析装置(ANIMA,MA-3000)と床反力(ANIMA,MG-1090)を用い,被験者任意の歩行速度による自由歩行を計測した。被験者に貼付する反射マーカーは,左右の上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側上か,外果,第5中足骨指節間関節の10点とした。得られた標点の位置データおよび床反力から,1)全立脚期:踵接地~足し離地,2)第1期:踵接地~第1ピーク,3)第2期:第1ピーク~第2ピーク,4)第3期:第2ピーク~足趾離地の周期に分類し各期間における平均関節モーメントを算出した。関節モーメントは,三次元動作解析システムから得られた三平面(XZ面:矢状面,YZ面:前額面,XY面:水平面)におけるモーメントと総合モーメントを用いた。解析はHVA群と健常群の2群間におけるアーチ高率,床反力,関節モーメントを対応のないt検定を用いて比較検討した(p<0.05)。
【結果】
2群間のアーチ高率は,HVA群(11.64±2.28%)が健常群(15.84±1.82%)に比べ有意に低値を示した。床反力における第1期のX成分(矢状成分)はHVA群(-4.84±1.24kg)が健常群(-6.29±1.79kg)に比べ有意に低値を示した。関節モーメントについては,全立脚期ではHVA群の膝関節XZ面,足関節XZ面,足関節XY面が健常群に比べ有意に低値を示した。第1期ではHVA群の股関節XZ面,膝関節XZ面,足関節XZ面,足関節XY面が健常群に比べ有意に低値を示した。第2期ではHVA群の膝関節XZ面,足関節XZ面,足関節XY面が健常群に比べ有意に低値を示した。
【考察】
今回の研究ではHVA群は健常群に比べ歩行時の関節モーメントが有意に低値を示す結果となった。また,その影響は特に立脚初期から中期にかけて膝関節の矢状面および足関節の矢状面,水平面において顕著であった。これらの結果から,HVAが増大すると前足部の支持性低下による歩行戦略もしくは前歩行周期中の蹴り出し不全の影響などから,初期接地の股・膝・足の矢状面上での負荷を減らす傾向があることが分かった。また,先行研究(金ら,2005)によるとHVA群における歩行時の重心軌跡は母指球から示指方向へ偏位することが報告されており,足関節XY面の結果はその影響によるものと考えられた。外反母趾患者は歩行時に膝関節の内反ストレスが増大するという報告があるが,今回の研究でそのような結果が得られなかった理由の1つは対象者を痛みの無い健常者としたことが考えられる。このことから,疾病に至る以前の若年者の動作は実際の患者とは異なる戦略を用いている可能性が考えられた。この結果は,前回の学術大会において我々が相関関係で示した結果をサポートするものである。
【理学療法学研究としての意義】
HVA群は健常群と比較して,歩行時の下肢モーメントが低下する歩行様式をとることが明らかとなった。若年者のHVAの増大による歩行の特徴を明らかにすることは,変形性関節症の発症や進行への影響を考察する基礎的データと成り得ると考える。
変形性膝関節症の患者は,外反母趾や扁平足などの足部変形をしばしば合併しており,インソールや足部に対する運動療法が処方されることがある。外反母趾患者における歩行解析の研究(Kao-Shang Shihら,2014)によると,歩行時の膝関節外的内反モーメントが増大するという報告があるが,外反母趾が変形性膝関節症の進行や発症にどのような影響を与えているかや変形性関節症発症以前の対象者の歩行における特徴などを報告したものはない。我々は,第49回日本理学療法学術大会において歩行中の荷重最大期の外反母趾角と下肢関節モーメントの相関関係を解析し,外反母趾角が大きいほど歩行時の各関節のモーメントは小さくなると報告した。今回の研究の目的は,若年健常女性を対象に外反母趾角の大きい群と小さい群の歩行時関節モーメントの特徴を明らかにすることである。
【方法】
対象は若年健常女性19名38足(平均年齢21.4歳±1.54歳)とした。足部形態計測項目は第I趾側角度(外反母趾角;以下HVA)と内側縦アーチ高率(以下MLA)を人体計測機器等を用いて体表から測定した。また,HVAの値からHVA16°以上の者をHVA群(9足),HVA11°以下の者を健常群(20足)に分類し,HVA15°~12°の者は比較対象から除外した。歩行解析は,三次元動作解析装置(ANIMA,MA-3000)と床反力(ANIMA,MG-1090)を用い,被験者任意の歩行速度による自由歩行を計測した。被験者に貼付する反射マーカーは,左右の上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側上か,外果,第5中足骨指節間関節の10点とした。得られた標点の位置データおよび床反力から,1)全立脚期:踵接地~足し離地,2)第1期:踵接地~第1ピーク,3)第2期:第1ピーク~第2ピーク,4)第3期:第2ピーク~足趾離地の周期に分類し各期間における平均関節モーメントを算出した。関節モーメントは,三次元動作解析システムから得られた三平面(XZ面:矢状面,YZ面:前額面,XY面:水平面)におけるモーメントと総合モーメントを用いた。解析はHVA群と健常群の2群間におけるアーチ高率,床反力,関節モーメントを対応のないt検定を用いて比較検討した(p<0.05)。
【結果】
2群間のアーチ高率は,HVA群(11.64±2.28%)が健常群(15.84±1.82%)に比べ有意に低値を示した。床反力における第1期のX成分(矢状成分)はHVA群(-4.84±1.24kg)が健常群(-6.29±1.79kg)に比べ有意に低値を示した。関節モーメントについては,全立脚期ではHVA群の膝関節XZ面,足関節XZ面,足関節XY面が健常群に比べ有意に低値を示した。第1期ではHVA群の股関節XZ面,膝関節XZ面,足関節XZ面,足関節XY面が健常群に比べ有意に低値を示した。第2期ではHVA群の膝関節XZ面,足関節XZ面,足関節XY面が健常群に比べ有意に低値を示した。
【考察】
今回の研究ではHVA群は健常群に比べ歩行時の関節モーメントが有意に低値を示す結果となった。また,その影響は特に立脚初期から中期にかけて膝関節の矢状面および足関節の矢状面,水平面において顕著であった。これらの結果から,HVAが増大すると前足部の支持性低下による歩行戦略もしくは前歩行周期中の蹴り出し不全の影響などから,初期接地の股・膝・足の矢状面上での負荷を減らす傾向があることが分かった。また,先行研究(金ら,2005)によるとHVA群における歩行時の重心軌跡は母指球から示指方向へ偏位することが報告されており,足関節XY面の結果はその影響によるものと考えられた。外反母趾患者は歩行時に膝関節の内反ストレスが増大するという報告があるが,今回の研究でそのような結果が得られなかった理由の1つは対象者を痛みの無い健常者としたことが考えられる。このことから,疾病に至る以前の若年者の動作は実際の患者とは異なる戦略を用いている可能性が考えられた。この結果は,前回の学術大会において我々が相関関係で示した結果をサポートするものである。
【理学療法学研究としての意義】
HVA群は健常群と比較して,歩行時の下肢モーメントが低下する歩行様式をとることが明らかとなった。若年者のHVAの増大による歩行の特徴を明らかにすることは,変形性関節症の発症や進行への影響を考察する基礎的データと成り得ると考える。