[P2-B-0607] 足部舟状骨の可動性が片脚立位時の重心動揺に及ぼす影響
Keywords:重心動揺, 内側縦アーチ, 舟状骨降下率
【はじめに,目的】
足部の機能には体重の支持,力や荷重の効率的な伝達,歩行時のエネルギー効率の向上などがあり,重力と床反力の影響を受ける。さらに足部の荷重伝達及び分散機能には,足部のみならず様々な身体機能及び形態が関与する。その荷重分散機能に関わる代表的機能の一つがアーチであり,中でも内側縦アーチは構造的にも変化しやすく,立位や歩行への関係も数多く報告されている。
本研究では,足部の機能における荷重位と非荷重位での舟状骨降下率に着目し,「降下率の差異は片脚立位時の重心動揺に影響を及ぼす」との仮説を立て検証を行った。
【方法】
足部に骨折・脱臼の既往のない男女71名(男性50名,女性21名,年齢20.7±1.3歳,身長167.3±7.7cm,体重60.5±9.2kg)に対し,Brodyらが報告したNavicular Drop Test(以下NDtest)と重心動揺計測を行った。NDtestは,非荷重位(端坐位)と荷重位(立位)にて,舟状骨結節から床面までの高さを測定した。坐位姿勢は昇降式ベッドにて端坐位姿勢とした。Brodyの報告に従って脛骨粗面と母趾を正面に位置させ,距骨下関節の中間位を触診にて確認した。更に股関節と膝関節が90°屈曲位になるように調整した。端坐位と立位にてNDtestを行い,立位から坐位の値を引いた数値をND値とした。BrodyはNDtestで10mm以上を異常値として捉えているため,本研究においても舟状骨下降が10mm以上群と10mm未満群に分類した。
重心動揺測定はANIMA社製G-620を使用し,開眼にて前方一点を固視させた状態で両上肢は前方にて組ませた。その後左脚を股関節90°屈曲,膝関節90°屈曲位とし,5秒間片脚立位を安定させてから30秒間を測定した。各群の重心動揺の総軌跡長,矩形面積,X軸方向移動距離,Y軸方向移動距離を比較した。統計処理はPASW Statistics 17.0を用いMann-whitney検定を行った。有意水準は1%未満とした。
【結果】
非荷重位と荷重位のND値の差が10mm以上群は24名,10mm未満群は47名となった。総軌跡長は10mm以上群で132.5±23.1cm,10mm未満群で112.4±22.1cmとなった。X軸方向移動距離は,10mm以上群は91.8±15.0cm,10mm未満群で79.0±18.6cmとなり,Y軸方向移動距離においても,10mm以上群は76.7±21.2cm,10mm未満群は64.9±11.9cmとなった。総軌跡長,X軸Y軸方向移動距離においては,10mm以上群が有意に大きい値を示した(p<0.01)。一方,矩形面積においては,10mm以上群が15.8±5.5cm2,10mm未満群が13.2±3.9cm2となり有意差はみられなかったが,面積が大きい傾向にあった。
【考察】
重心動揺において,ND値が10mmを越えると重心動揺が大きくなっており,アーチ降下率が重心動揺に影響を与えていることが示唆され,仮説が実証される結果となった。壇によると,距骨下関節が回内すると,距骨頭が底側踵舟靭帯を圧迫することにより,舟状骨が降下すると報告されている。その時,底側踵舟靭帯がバネのように伸張され衝撃緩衝をすることになるが,舟状骨降下が過度になるとこのバネの作用が低下することなり,衝撃緩衝と分散機能が低下することとなる。内側縦アーチ低下について,土居はアーチ高率の低下は足部剛性の低下と筋の易疲労性につながると報告している。足部の剛性に関しては,内側縦アーチが低下すると足部の構造的変化が起こり,後足部は回内し横足根関節の運動軸が平行となるため,柔軟性のある足部が形成され,その結果不安定な足部支持となることが考えられる。筋活動に関しては,直接舟状骨に付着する後脛骨筋や,アーチや重心に関わる内在筋や足外在筋の協調的活動性の低下が考えられた。さらに距骨から上部は足部肢位の影響を上行性運動連鎖として受けることになる。よって,足部構造の変化にともない身体制御機構の変化につながり,重心動揺の増加が起こったと推察された。
【まとめ】
今回は,足部構造に着目した重心動揺変化を考察したが,重心動揺は足関節ストラテジー,股関節ストラテジー,体幹機能といった姿勢制御機構が大きく関与しており,その点が本研究の限界である。今後の課題として身体全体への影響を検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
今回,荷重位と非荷重位においての舟状骨降下率が,重心動揺に影響を与えることが明らかになった。よって,重心動揺が大きい症例に対する足部の評価,足部構造の変化がみられる症例に対する重心動揺の評価が重要であることが示された。
足部の機能には体重の支持,力や荷重の効率的な伝達,歩行時のエネルギー効率の向上などがあり,重力と床反力の影響を受ける。さらに足部の荷重伝達及び分散機能には,足部のみならず様々な身体機能及び形態が関与する。その荷重分散機能に関わる代表的機能の一つがアーチであり,中でも内側縦アーチは構造的にも変化しやすく,立位や歩行への関係も数多く報告されている。
本研究では,足部の機能における荷重位と非荷重位での舟状骨降下率に着目し,「降下率の差異は片脚立位時の重心動揺に影響を及ぼす」との仮説を立て検証を行った。
【方法】
足部に骨折・脱臼の既往のない男女71名(男性50名,女性21名,年齢20.7±1.3歳,身長167.3±7.7cm,体重60.5±9.2kg)に対し,Brodyらが報告したNavicular Drop Test(以下NDtest)と重心動揺計測を行った。NDtestは,非荷重位(端坐位)と荷重位(立位)にて,舟状骨結節から床面までの高さを測定した。坐位姿勢は昇降式ベッドにて端坐位姿勢とした。Brodyの報告に従って脛骨粗面と母趾を正面に位置させ,距骨下関節の中間位を触診にて確認した。更に股関節と膝関節が90°屈曲位になるように調整した。端坐位と立位にてNDtestを行い,立位から坐位の値を引いた数値をND値とした。BrodyはNDtestで10mm以上を異常値として捉えているため,本研究においても舟状骨下降が10mm以上群と10mm未満群に分類した。
重心動揺測定はANIMA社製G-620を使用し,開眼にて前方一点を固視させた状態で両上肢は前方にて組ませた。その後左脚を股関節90°屈曲,膝関節90°屈曲位とし,5秒間片脚立位を安定させてから30秒間を測定した。各群の重心動揺の総軌跡長,矩形面積,X軸方向移動距離,Y軸方向移動距離を比較した。統計処理はPASW Statistics 17.0を用いMann-whitney検定を行った。有意水準は1%未満とした。
【結果】
非荷重位と荷重位のND値の差が10mm以上群は24名,10mm未満群は47名となった。総軌跡長は10mm以上群で132.5±23.1cm,10mm未満群で112.4±22.1cmとなった。X軸方向移動距離は,10mm以上群は91.8±15.0cm,10mm未満群で79.0±18.6cmとなり,Y軸方向移動距離においても,10mm以上群は76.7±21.2cm,10mm未満群は64.9±11.9cmとなった。総軌跡長,X軸Y軸方向移動距離においては,10mm以上群が有意に大きい値を示した(p<0.01)。一方,矩形面積においては,10mm以上群が15.8±5.5cm2,10mm未満群が13.2±3.9cm2となり有意差はみられなかったが,面積が大きい傾向にあった。
【考察】
重心動揺において,ND値が10mmを越えると重心動揺が大きくなっており,アーチ降下率が重心動揺に影響を与えていることが示唆され,仮説が実証される結果となった。壇によると,距骨下関節が回内すると,距骨頭が底側踵舟靭帯を圧迫することにより,舟状骨が降下すると報告されている。その時,底側踵舟靭帯がバネのように伸張され衝撃緩衝をすることになるが,舟状骨降下が過度になるとこのバネの作用が低下することなり,衝撃緩衝と分散機能が低下することとなる。内側縦アーチ低下について,土居はアーチ高率の低下は足部剛性の低下と筋の易疲労性につながると報告している。足部の剛性に関しては,内側縦アーチが低下すると足部の構造的変化が起こり,後足部は回内し横足根関節の運動軸が平行となるため,柔軟性のある足部が形成され,その結果不安定な足部支持となることが考えられる。筋活動に関しては,直接舟状骨に付着する後脛骨筋や,アーチや重心に関わる内在筋や足外在筋の協調的活動性の低下が考えられた。さらに距骨から上部は足部肢位の影響を上行性運動連鎖として受けることになる。よって,足部構造の変化にともない身体制御機構の変化につながり,重心動揺の増加が起こったと推察された。
【まとめ】
今回は,足部構造に着目した重心動揺変化を考察したが,重心動揺は足関節ストラテジー,股関節ストラテジー,体幹機能といった姿勢制御機構が大きく関与しており,その点が本研究の限界である。今後の課題として身体全体への影響を検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
今回,荷重位と非荷重位においての舟状骨降下率が,重心動揺に影響を与えることが明らかになった。よって,重心動揺が大きい症例に対する足部の評価,足部構造の変化がみられる症例に対する重心動揺の評価が重要であることが示された。