第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター2

発達障害理学療法1

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0619] 重度脳性まひ児の姿勢による循環系自律神経活動の応答

~健常者との比較より~

多田智美1, 中徹2 (1.鈴鹿医療科学大学保健衛生学部理学療法学科, 2.群馬パース大学保健科学部理学療法学科)

Keywords:重症児, 心拍変動, 姿勢

【はじめに】重症心身障害児(以下重症児)の理学療法では,姿勢保持へのアプローチは身体機能の維持向上やQOL保障に重要である。今までも腹臥位など前傾姿勢の有効性を示した報告はあるが,これらの姿勢が快適であるかは明らかではない。我々は本学会第48回大会において,重症児の自律神経活動と脳血流の関係について,脳性まひ児の運動障害の重症度で比較を行い,運動障害の重い児は姿勢変化に対して自律神経調整が低下している可能性を示唆した。今回,さらに健常者とのデータの比較を行ったので報告する。
【方法】運動障害群は,Gross Motor Function Classification System(以下GMFCS)による運動の重症度で分類した。運動障害が重度ではないGMFCSI-IV群(以下I-IV群)は,9名(男性8名 女性1名)18.2±7.7歳,GMFCSはIが3名,IIが1名,IIIが3名,IVが2名,運動障害が重度なGMFCSV群(以下V群)は,13名(男性8名 女性5名)13.2±3.1歳だった。対照群は,健常者11名(男性4名 女性7名)20.9±0.8歳だった。仰臥位,腹臥位,前傾座位の三姿勢を順不同に各15分間保持し,心拍のR-R間隔を周波数解析し得た高周波成分(HFms2)を対数変換したものを副交感神経活動の指標(以下logHF)とし低周波成分(LFms2)をHFで除したLF/HFを交感神経活動の指標(以下LF/HF)としてPOLAR-8000Xで測定,前頭部血流量(HEG:200×酸化ヘモグロビン/還元ヘモグロビン)をMediTECK社製nIR-HEGにて左前頭前野(FP1:脳波測定国際10-20法による)に測定装置をあて計測した。また,5分毎に心拍数(以下HR:bpm),血圧(mmHg)を測定した。測定は波音を流しエアコンで環境統制した部屋で行った。結果はMan Whitney検定,Friedman検定により有意水準5%で検討した。
【結果】環境統制の結果,どの群も騒音は60dB以下,室温25~29℃,湿度は40~60%の範囲内の環境で測定が行えた。姿勢間の比較では,LH/HFは対照群で腹臥位が前傾座位より低く,I-IV群では仰臥位は前傾座位・腹臥位より低かったが,V群では全姿勢で差がなかった。収縮期血圧は対照群では腹臥位が仰臥位より,I-IV群・V群では前傾座位が腹臥位より低かった。重症度の比較では,仰臥位ではLH/HF,logHF,HEG,HRは重症度による差がみられ,前傾座位ではlogHFとHEGに重症度による差がみられた。logHFは全姿勢で対照群がV群より高かった。LF/HFでは仰臥位で対照群・I-IV群がV群より,腹臥位で対照群がI-IV群より低かった。HRは仰臥位で対照群がI-IV群・V群より低かった。HEGは全姿勢でV群より対照群で低く,拡張期血圧は腹臥位でV群より対照群が低かった。
【考察】姿勢間の比較では,対照群は腹臥位に比べて前傾座位で交感神経が働く結果となったが,座位での先行研究より,健常者では60度ギャッチアップで交感神経指標が増加すると言われており,対照群では臥位である腹臥位より頭の位置が高い前傾座位で交感神経の働きが増加したと考える。一方,I-IV群では,仰臥位よりも前傾座位と腹臥位で増加したが,これは腹臥位も姿勢の大きな変化と感じ自律神経系の調整機能が働いたと考えた。しかし,V群ではどの姿勢でも自律神経指標の差は認めず,むしろ頭の位置が高い前傾座位よりも腹臥位で収縮期血圧の上昇を認めた。これは重症児では自律神経調整機能が低下し血圧調整にも影響を及ぼしている可能性があると考える。また,運動障害重症度での比較では,V群でlogHFが低くLF/HFの結果からも重症児では全姿勢で自律神経系の興奮性が高まりやすい可能性が考えられる。HRはV群が対照群に比べて全姿勢で高い傾向を示し特に仰臥位で高いことから,重症児では仰臥位において心臓への負担が健常者より大きい可能性が考えられる。HEGは全姿勢でV群が対照群よりも多かったが,今回の研究は安静時の測定であり健常者はどの姿勢でも安静状態が保たれ前頭部の血流が抑えられたが,重症児は保てなかったと考えた。
【理学療法的意義】腹臥位の有効性は認められなかったが,仰臥位が重症児にとって自律神経系で興奮性が高まりやすい姿勢であることを示された。このことから仰臥位が呼吸機能面だけではなく循環機能面でも重症児にとって不利である可能性を示したことで意義があると考える。