第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

発達障害理学療法1

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0622] 風に吹かれた股関節変形がおむつ交換介助の困難性に及ぼす影響について

大須田祐亮1, 堀本佳誉2, 今川祐子3, 繁田圭一4, 山本のどか5, 北川真実5, 綿谷るみ5, 齊藤千春1, 鈴木敦史1, 近藤健1, 樋坂悠佳1, 門間美和1, 小神博1, 津川敏1 (1.北海道済生会西小樽病院みどりの里, 2.北海道医療大学リハビリテーション科学部理学療法学科, 3.済生会横浜市東部病院サルビア, 4.伊豆医療福祉センター, 5.愛知県青い鳥医療福祉センター/済生会明和病院なでしこ)

Keywords:風に吹かれた股関節変形, 日常生活活動, おむつ交換介助

【はじめに,目的】重症心身障害児(者)(以下,重症児者)にみられる非対称変形のひとつにWindswept Deformityがある。このうち特に股関節の非対称性については,風に吹かれた股関節変形(以下,WHD)と呼ばれている。WHDを呈する症例では下肢の関節可動域の低下とその左右差が原因となって日常生活活動全般の介助に困難が生じる場面が多く見受けられる。特に排泄に関して全介助レベルであることが多く,おむつ交換介助の際に下肢の可動性の低さや左右差を起因とした困難性が,保清の妨げとなったり骨折などのリスクにつながったりすることが想定される。そこで本研究ではWHDの程度がおむつ交換介助の困難性に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】対象者の取り込み基準は,脳性麻痺の診断を有するものまたは生後1年以内に生じた脳の器質的病変に基づく中枢神経障害を呈すること,粗大運動能力が臥位レベルまたは座位レベルであること,および日常生活においておむつ交換介助を受けていることのすべてを満たすものとした。以上の条件を満たす施設入所する重症児者59名(男性36名,女性23名,年齢36.1±16.6歳,範囲7~84歳)を対象者とした。WHDの定量的評価としてGoldsmith Index法による計測を行った。計測方法は堀本らによって信頼性が確認されている手順に準じて行った。対象者の開始肢位は可能な限り体幹を左右対称位にした背臥位で,膝関節は70度屈曲位(不可能であれば可能な限りの屈曲位)で足底は可能な限りマット上に固定した。検者は対象者の両膝にL尺を挟みながら,両下肢を可能な限り一側に倒し,最終域でL尺に傾斜計を当てた。補助者1は,最終域において被検者の両側の上前腸骨棘に骨盤回旋角度計測機器を当てた。補助者2は,被検者の肩甲骨が浮き上がらないよう両肩をおさえ,傾斜計および骨盤回旋角度計測機器の目盛を読み取った。同様の手順を反対側でも行った。下肢の倒れた角度から骨盤回旋角度を引いた値を左右ともに算出し,その左右差をGoldsmith Index(以下,GI値)として計測した。2回の計測により算出されたGI値の平均値を代表値として用いた。おむつ交換介助の困難性の評価については,各対象者の担当職員(看護または介護職)に対して日常のおむつ交換介助について困難性を感じているかその有無を問い,困難性を感じている場合にはその理由を自由記載にて回答する質問紙により聴取を行った。その後回答内容について研究の意図を知らない理学療法士2名で,その記載内容についてディスカッションを行い,下肢の可動性に関する理由とそれ以外の理由に分類した。統計分析については,下肢の可動性を原因とするおむつ交換介助の困難性の有無を予測するGI値のカットオフ値をReceiver Operating Characteristic curve(以下,ROC曲線)を用いて分析した。なお統計処理にはRを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】WHDの定量的評価結果について,平均GI値は24.9±24.5,最小値は0,最大値は125であった。おむつ交換時の困難性について「あり」と回答があったのは40名,「なし」と回答があったのは19名であった。「あり」と回答のあった中で,下肢の可動性が原因でおむつ交換介助の困難性を有するものと分類されたのは32名であった。ROC曲線による分析の結果,カットオフ値は15,ROC曲線下面積(以下,AUC)は0.753であった(p<0.0005)。
【考察】ROC曲線による分析により,下肢の可動性を原因とするおむつ交換介助の困難性の有無を予測する上でのGI値のカットオフ値が15であることが示唆された。また,ROC曲線の予測精度を示すAUCも0.753であり,Moderate accuracy(AUC 0.7-0.9)と評価できることから,一定の精度が得られたことが示唆された。以上のことから,おむつ交換介助において困難性が生じる可能性が増加する目安として「GI値が15を超えるか」ということがひとつの基準として考えられた。
【理学療法学研究としての意義】現在,WHDの定量的評価はGoldsmith Index法のみが唯一信頼性を確認されている方法となっているが,対象者の呈する日常生活像とGI値の計測結果とがどのように結びつくのかということについてまでは明らかになっていなかった。本研究の結果は重症児者のおむつ交換介助に対する困難性とGI値の計測結果との関係性について具体的な示唆を与えるものであり,臨床的意義は大きいと考えられた。