[P2-B-0625] 重度脳性麻痺児における立位保持が頭部挙上に与える影響
Keywords:脳性麻痺, 立位保持装置, 頭部拳上
【はじめに,目的】
重度脳性麻痺児では頭部のコントロールが困難である場合が多く,抗重力位での活動や探索行動が制限される。抗重力下での姿勢をとる機会が少ない場合に,頭部の不安定性は体幹の非対称的な姿勢につながり,脊柱側弯変形を合併するリスクを生じさせるとされる。これに対して,重度脳性麻痺児においては,立位保持装置を用いた立位トレーニングが行われている。しかし,長期的な立位トレーニングによる骨強度に対する影響等は報告されているが,身体運動や筋活動への即時的な影響についての研究はほとんどみられない。立位保持装置を用いた場合,頭部・体幹にかかる重力の力学的要因が変化することから,腹臥位よりも頭部拳上を促せるため,頭部のコントロール向上につながる可能性があると考えられる。本研究では,重度脳性麻痺児に立位保持装置を使用させることにより,頭部挙上運動に与える影響について検討する。
【方法】
対象は,健常若年者10名(以下,健常群。平均年齢22.0±1.2歳,男性7名,女性3名)と,特別支援学校に通学する,抗重力位で頸部保持が不安定な重度脳性麻痺児5名(以下,CP群。痙直型4名,アテトーゼ型1名。男児4名,女児1名。平均年齢12.2±3.5歳,GMFCS4レベル1名,5レベル4名)とした。Delsys社製3軸加速度筋電計(Trigno Wireless System)を用いて,頸部伸展筋,腰部脊柱起立筋の筋活動を測定し,さらに加速度計を後頭隆起横に貼付して,頭部挙上時間を測定した。得られた筋電図はフィルター処理後,全波整流化し平滑化を行った。また,体幹に対する頸部の伸展角度を測定するため,POLHEMUS社製3次元磁気式位置計測システム(LIBERTY)を用いた。センサーは,後頭隆起直上と第2胸椎棘突起の位置に貼付した。ゴニオメーターを用いて計測した頸部伸展0°の位置を基準角度とし,基準角度を超えた時間を頭部挙上時間とした。健常群に対しては,安静時立位と三角マット上での安静時腹臥位を30秒間測定して解析対象とし,各姿勢における頸部伸展筋と腰部脊柱起立筋の筋活動の平均値についてt検定を用いて検討した。CP群に対しては,立位保持装置(前傾10°)上での立位と,三角マット上での腹臥位をとらせ,それぞれ前方からの声掛けにより1分間,頭部挙上運動を促し,1分間のうち,頭部挙上時間の合計が最多となる30秒間を解析対象とした。CP群において,頸部伸展筋と腰部脊柱起立筋それぞれの,腹臥位での筋活動に対する立位での筋活動の増加率と,頭部挙上時間の増加量の関係について,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。本研究における有意水準は5%とした。
【結果】
健常群において,頸部伸展筋の筋活動は,腹臥位の方が立位に比べ有意に大きくなり(p<0.05),腰部脊柱起立筋の筋活動は,立位の方が腹臥位に比べ有意に大きくなった(p<0.05)。CP群において,腰部脊柱起立筋の腹臥位に対する立位での筋活動の増加率と,頭部挙上時間の増加量に有意な正の相関がみられた(r=0.92,p<0.05)。しかし,頸部伸展筋においては,有意な相関はみられなかった(r=0.27,p=0.66)。
【考察】
健常群の結果より,立位では腹臥位と比べ体幹の正中軸に対する頭部のモーメントが小さくなるため,頸部伸展筋の筋活動は少なくて済むが,腰部脊柱起立筋においては体幹を抗重力位で安定させるために,立位時において筋活動が増加したと考えられた。したがって,立位に変化するときに頸部伸展筋を減少させ,腰部脊柱起立筋を増加させる必要があることが示唆される。CP群では,立位時に腰部脊柱起立筋の筋活動を増加させることができた児ほど,立位での頭部挙上時間が増加していた。したがって,立位保持で頭部を拳上するためには,頸部の過剰な活動を抑えられるかどうかよりも,体幹筋の活動の重要性を示唆していると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で得られた結果により,重度脳性麻痺児の運動機能向上に対するアプローチとして,立位保持装置を用いた立位練習の有用性を検討する手掛かりになったと考えられる。
重度脳性麻痺児では頭部のコントロールが困難である場合が多く,抗重力位での活動や探索行動が制限される。抗重力下での姿勢をとる機会が少ない場合に,頭部の不安定性は体幹の非対称的な姿勢につながり,脊柱側弯変形を合併するリスクを生じさせるとされる。これに対して,重度脳性麻痺児においては,立位保持装置を用いた立位トレーニングが行われている。しかし,長期的な立位トレーニングによる骨強度に対する影響等は報告されているが,身体運動や筋活動への即時的な影響についての研究はほとんどみられない。立位保持装置を用いた場合,頭部・体幹にかかる重力の力学的要因が変化することから,腹臥位よりも頭部拳上を促せるため,頭部のコントロール向上につながる可能性があると考えられる。本研究では,重度脳性麻痺児に立位保持装置を使用させることにより,頭部挙上運動に与える影響について検討する。
【方法】
対象は,健常若年者10名(以下,健常群。平均年齢22.0±1.2歳,男性7名,女性3名)と,特別支援学校に通学する,抗重力位で頸部保持が不安定な重度脳性麻痺児5名(以下,CP群。痙直型4名,アテトーゼ型1名。男児4名,女児1名。平均年齢12.2±3.5歳,GMFCS4レベル1名,5レベル4名)とした。Delsys社製3軸加速度筋電計(Trigno Wireless System)を用いて,頸部伸展筋,腰部脊柱起立筋の筋活動を測定し,さらに加速度計を後頭隆起横に貼付して,頭部挙上時間を測定した。得られた筋電図はフィルター処理後,全波整流化し平滑化を行った。また,体幹に対する頸部の伸展角度を測定するため,POLHEMUS社製3次元磁気式位置計測システム(LIBERTY)を用いた。センサーは,後頭隆起直上と第2胸椎棘突起の位置に貼付した。ゴニオメーターを用いて計測した頸部伸展0°の位置を基準角度とし,基準角度を超えた時間を頭部挙上時間とした。健常群に対しては,安静時立位と三角マット上での安静時腹臥位を30秒間測定して解析対象とし,各姿勢における頸部伸展筋と腰部脊柱起立筋の筋活動の平均値についてt検定を用いて検討した。CP群に対しては,立位保持装置(前傾10°)上での立位と,三角マット上での腹臥位をとらせ,それぞれ前方からの声掛けにより1分間,頭部挙上運動を促し,1分間のうち,頭部挙上時間の合計が最多となる30秒間を解析対象とした。CP群において,頸部伸展筋と腰部脊柱起立筋それぞれの,腹臥位での筋活動に対する立位での筋活動の増加率と,頭部挙上時間の増加量の関係について,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。本研究における有意水準は5%とした。
【結果】
健常群において,頸部伸展筋の筋活動は,腹臥位の方が立位に比べ有意に大きくなり(p<0.05),腰部脊柱起立筋の筋活動は,立位の方が腹臥位に比べ有意に大きくなった(p<0.05)。CP群において,腰部脊柱起立筋の腹臥位に対する立位での筋活動の増加率と,頭部挙上時間の増加量に有意な正の相関がみられた(r=0.92,p<0.05)。しかし,頸部伸展筋においては,有意な相関はみられなかった(r=0.27,p=0.66)。
【考察】
健常群の結果より,立位では腹臥位と比べ体幹の正中軸に対する頭部のモーメントが小さくなるため,頸部伸展筋の筋活動は少なくて済むが,腰部脊柱起立筋においては体幹を抗重力位で安定させるために,立位時において筋活動が増加したと考えられた。したがって,立位に変化するときに頸部伸展筋を減少させ,腰部脊柱起立筋を増加させる必要があることが示唆される。CP群では,立位時に腰部脊柱起立筋の筋活動を増加させることができた児ほど,立位での頭部挙上時間が増加していた。したがって,立位保持で頭部を拳上するためには,頸部の過剰な活動を抑えられるかどうかよりも,体幹筋の活動の重要性を示唆していると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で得られた結果により,重度脳性麻痺児の運動機能向上に対するアプローチとして,立位保持装置を用いた立位練習の有用性を検討する手掛かりになったと考えられる。