[P2-B-0646] 重心動揺計を用いた圧迫性頚髄症の評価
キーワード:頚髄症, 重心動揺, 深部感覚
【はじめに,目的】
近年,頚椎疾患の下肢機能評価に重心動揺計を用いた報告がみられ,客観的評価として有用性が示されつつある。しかし,重心動揺検査から客観的なデータが得られたとしても,日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(以下JOA score)や理学療法評価との関連について一定の見解が得られていない。今回われわれは,重心動揺検査において,術前のJOA scoreおよび理学療法評価からその結果が持つ意味について検討したため,若干の考察を加え報告する。
【方法】
対象は,2013年7月から2014年10月までの間に,当院で術前評価を実施した圧迫性頚髄症症例50例(男性41例,女性9例,平均年齢58.0±13.4歳)とした。疾患の内訳は,頚椎症性脊髄症35例,頚椎後縦靭帯骨化症9例,頚椎椎間板ヘルニア4例,頚椎症性神経根症1例,頚髄不全損傷1例であった。腰椎・胸椎疾患や他の神経疾患を有する症例は除外した。術前におけるJOA score,重心動揺検査,下肢深部感覚機能検査(振動覚にて測定),異常歩行の有無,MMTを評価した。重心動揺検査には,アニマ社製ツイングラビコーダGP-31Wを用い,開眼,閉眼での立位を30秒間保持し,外周面積,総軌跡長,面積ロンベルグ率を計測した。次に,今岡らのロンベルグ率健常者年齢別平均をもとに,平均値+2SD範囲内の正常群(38例),平均値+2SDを上回った高値群(12例)に分類し,JOA score合計と各項目の点数について比較検討した。また,正常群と高値群における深部感覚の有無を比較検討した。統計学的検討は,JOA scoreと重心動揺検査の関連についてはスピアマンの相関係数,JOA scoreにおける群間比較にt検定,深部感覚障害の有無における群間比較にはχ2検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
JOA score合計は外周面積閉眼,総軌跡長開眼において相関を認めた。各項目では,下肢運動機能は外周面積,総軌跡長,知覚下肢は外周面積閉眼,総軌跡長開眼,知覚体幹は外周面積開眼と相関を認めた。上肢運動機能,知覚上肢,膀胱機能に関しては相関を認めなかった。ロンベルグ率別によるJOA scoreにおいては,合計で正常群13.4±2.0点,高値群11.5±1.8点と高値群が有意に低値を示した。各項目では,下肢運動機能が正常群3.4±0.8点,高値群2.6±1.0点であり高値群が有意に低値を示し,知覚下肢では正常群1.3±0.7点,高値群0.8±0.8点で高値群が有意に低値を示した。膀胱機能では,正常群2.9±0.4点,高値群2.6±0.5点と高値群が有意に低値を示した。上肢運動機能,知覚上肢,知覚体幹においては有意差を認めなかった。ロンベルグ率別による深部感覚障害の有無については,正常群の深部感覚障害なし31例,あり7例,高値群の深部感覚障害なし6例,あり6例であり有意差を認めた。ロンベルグ率高値群のうち深部感覚障害を有する症例では83%に歩容の異常が認められた。
【考察】
術前のJOA score合計は外周面積閉眼,総軌跡長開眼と相関を認め,これまでの報告とほぼ同様の結果を示し,重心動揺検査は圧迫性頚髄症症例の機能評価に有効であることが示唆された。項目別では,下肢運動機能,知覚下肢,知覚体幹において相関を認めた一方,上肢に関する項目とは相関を認めなかったことから,JOA scoreにおける下肢・体幹機能が立位バランスに関連していることが示された。ロンベルグ率別の比較では,JOA score合計,下肢運動機能,知覚下肢,膀胱機能に有意差を認め,ロンベルグ率は歩行能力・下肢表在感覚との関連がある可能性が考えられた。深部感覚障害の有無と,ロンベルグ率の2要因間で有意差を認め,深部感覚障害とロンベルグ率に何らかの関連があることが考えられた。今回,深部感覚障害がない場合でもロンベルグ率が高値を示す群や,深部感覚障害を有し,ロンベルグ率が正常であった群も存在したが,痙性歩行や失調歩行といった歩行異常や下肢筋力等の要因は検出できなかった。また,本研究は深部感覚障害の有無を振動覚でのみ判定したが,他の評価指標での検討も必要であった可能性がある。今後立位バランスに直結する深部感覚の評価指標の検索と検証が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より,重心動揺検査は,圧迫性頚髄症症例におけるJOA score,理学療法評価を補う評価として有用であることが明らかとなった。一方で,立位バランスに直結する深部感覚の評価指標の検索・検証と更なる多角的な検討の必要性が示唆された。
近年,頚椎疾患の下肢機能評価に重心動揺計を用いた報告がみられ,客観的評価として有用性が示されつつある。しかし,重心動揺検査から客観的なデータが得られたとしても,日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(以下JOA score)や理学療法評価との関連について一定の見解が得られていない。今回われわれは,重心動揺検査において,術前のJOA scoreおよび理学療法評価からその結果が持つ意味について検討したため,若干の考察を加え報告する。
【方法】
対象は,2013年7月から2014年10月までの間に,当院で術前評価を実施した圧迫性頚髄症症例50例(男性41例,女性9例,平均年齢58.0±13.4歳)とした。疾患の内訳は,頚椎症性脊髄症35例,頚椎後縦靭帯骨化症9例,頚椎椎間板ヘルニア4例,頚椎症性神経根症1例,頚髄不全損傷1例であった。腰椎・胸椎疾患や他の神経疾患を有する症例は除外した。術前におけるJOA score,重心動揺検査,下肢深部感覚機能検査(振動覚にて測定),異常歩行の有無,MMTを評価した。重心動揺検査には,アニマ社製ツイングラビコーダGP-31Wを用い,開眼,閉眼での立位を30秒間保持し,外周面積,総軌跡長,面積ロンベルグ率を計測した。次に,今岡らのロンベルグ率健常者年齢別平均をもとに,平均値+2SD範囲内の正常群(38例),平均値+2SDを上回った高値群(12例)に分類し,JOA score合計と各項目の点数について比較検討した。また,正常群と高値群における深部感覚の有無を比較検討した。統計学的検討は,JOA scoreと重心動揺検査の関連についてはスピアマンの相関係数,JOA scoreにおける群間比較にt検定,深部感覚障害の有無における群間比較にはχ2検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
JOA score合計は外周面積閉眼,総軌跡長開眼において相関を認めた。各項目では,下肢運動機能は外周面積,総軌跡長,知覚下肢は外周面積閉眼,総軌跡長開眼,知覚体幹は外周面積開眼と相関を認めた。上肢運動機能,知覚上肢,膀胱機能に関しては相関を認めなかった。ロンベルグ率別によるJOA scoreにおいては,合計で正常群13.4±2.0点,高値群11.5±1.8点と高値群が有意に低値を示した。各項目では,下肢運動機能が正常群3.4±0.8点,高値群2.6±1.0点であり高値群が有意に低値を示し,知覚下肢では正常群1.3±0.7点,高値群0.8±0.8点で高値群が有意に低値を示した。膀胱機能では,正常群2.9±0.4点,高値群2.6±0.5点と高値群が有意に低値を示した。上肢運動機能,知覚上肢,知覚体幹においては有意差を認めなかった。ロンベルグ率別による深部感覚障害の有無については,正常群の深部感覚障害なし31例,あり7例,高値群の深部感覚障害なし6例,あり6例であり有意差を認めた。ロンベルグ率高値群のうち深部感覚障害を有する症例では83%に歩容の異常が認められた。
【考察】
術前のJOA score合計は外周面積閉眼,総軌跡長開眼と相関を認め,これまでの報告とほぼ同様の結果を示し,重心動揺検査は圧迫性頚髄症症例の機能評価に有効であることが示唆された。項目別では,下肢運動機能,知覚下肢,知覚体幹において相関を認めた一方,上肢に関する項目とは相関を認めなかったことから,JOA scoreにおける下肢・体幹機能が立位バランスに関連していることが示された。ロンベルグ率別の比較では,JOA score合計,下肢運動機能,知覚下肢,膀胱機能に有意差を認め,ロンベルグ率は歩行能力・下肢表在感覚との関連がある可能性が考えられた。深部感覚障害の有無と,ロンベルグ率の2要因間で有意差を認め,深部感覚障害とロンベルグ率に何らかの関連があることが考えられた。今回,深部感覚障害がない場合でもロンベルグ率が高値を示す群や,深部感覚障害を有し,ロンベルグ率が正常であった群も存在したが,痙性歩行や失調歩行といった歩行異常や下肢筋力等の要因は検出できなかった。また,本研究は深部感覚障害の有無を振動覚でのみ判定したが,他の評価指標での検討も必要であった可能性がある。今後立位バランスに直結する深部感覚の評価指標の検索と検証が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より,重心動揺検査は,圧迫性頚髄症症例におけるJOA score,理学療法評価を補う評価として有用であることが明らかとなった。一方で,立位バランスに直結する深部感覚の評価指標の検索・検証と更なる多角的な検討の必要性が示唆された。