[P2-B-0652] 在宅脊髄損傷者の褥瘡発生危険因子について
Keywords:脊髄損傷, 褥瘡, 危険因子
【はじめに,目的】
褥瘡は脊髄損傷者に生じる代表的な合併症であり,在宅脊髄損傷者においても発症のリスクは高い。発症すると活動の制限,廃用の進行,医療費の増大など多大なデメリットを被る。一方で,在宅脊髄損傷者における褥瘡発生の危険因子については十分に調査されていない。
今回,当院を退院され在宅生活を行っている脊髄損傷者に対して,退院後の褥瘡発生の有無と発生危険因子について,個人因子と生活状況をもとに調査し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
平成8年1月から平成17年12月の期間に,当院を退院された脊髄損傷患者310名を対象に郵送でのアンケート調査を行った。
対象者を退院後の褥瘡の有無によって褥瘡有り群,褥瘡無し群の2群に分類し,個人因子4項目[①退院時の年齢,②性別,③損傷レベル(頸髄・胸腰髄),④損傷の程度(完全損傷・不全損傷)]と,アンケートより得た生活状況の7項目[①調査時の介助量(自立・部分介助・全介助),②退院時と比較した介助量の変化(減少・変化無し・増加),③同居人の有無,④在宅サービスの利用の有無,⑤外出頻度(3回以上/週・1~2回/週・月2回未満),⑥就労・就学の有無,⑦自家用車の運転の有無]より,在宅での褥瘡発生危険因子を検討した。
統計解析は,年齢についてはMann-WhitneyのU検定を用い,その他の項目はカイ二乗検定を用いて比較した。有意水準は5%とし,統計ソフトはEZRを使用した。
【結果】
アンケート回収率は51%であった。内訳は男性128名,女性30名で,頸髄損傷者83名,胸髄損傷者53名,腰髄損傷者21名,不明1名であった。退院後の褥瘡発症の有無は有りが76名,無しが73名であり,未記入の9名を除いた約51%が退院後に褥瘡を発症していた。褥瘡部位は尾骨(25%),足部(25%),坐骨(22%),仙骨(21%)の順に多かった。
褥瘡有り群,褥瘡無し群の2群間の比較において,損傷の程度(p<0.05),調査時の介助量(p<0.01),介助量の変化(p<0.05),外出頻度(p<0.01)の4項目において有意差を認めた。褥瘡有り群において,完全損傷者,全介助者,外出頻度が月2回未満の者の人数が有意に多く,介助量の減少した者は有意に少なかった。また,完全損傷かつ全介助の脊髄損傷者の74%が退院後に褥瘡を発症していた。
年齢,性別,損傷レベル,同居人の有無,在宅サービスの利用の有無,就労・就学の有無,自家用車の運転の有無の7項目には有意差は認められなかった。
【考察】
今回の結果より,在宅脊髄損傷者における褥瘡発生危険因子として,完全損傷であること,介助量が多いこと,活動性が低いことが挙げられた。
完全損傷者の場合,損傷レベル以下の感覚脱失により褥瘡発生リスクが高まることは周知されている。当院では入院中に医師や看護師が褥瘡の基礎知識についての患者教育を行い,セラピストは座圧測定器を用いて各個人に適した環境調整,除圧動作指導を実施している。しかし今回の結果より,完全損傷者に対する褥瘡予防は十分でないことが示唆され,今後更に危険認識を高める必要がある。
先行研究では活動性の高い者や自動車運転者に褥瘡が多いとの報告があるが,今回の結果では自動車運転の有無に有意差は無く,介助量の多い者や活動性の低い者に多かった。また,褥瘡部位が足部や仙骨に多いことからも,褥瘡発症者の多くはベッド上で過ごす時間が長いことが推測される。さらに,同居者の有無や在宅サービス利用の有無においては褥瘡発生数に有意差が無いことから,同居者や地域スタッフによる褥瘡予防ケアが十分になされていないと考えられる。よって,家族や地域スタッフにも褥瘡のリスクを理解していただき,ポジショニングや皮膚チェックなどの褥瘡予防ケアの指導を入院中から十分に行い,在宅での定期的なチェック体制を整える必要がある。
また,今回の調査では栄養状態や体型は検討項目に含まれていないが,それらも褥瘡発生危険因子として知られており,今回挙げられた危険因子と混合することでより褥瘡発生リスクが高まると考えられ,一層の注意が必要となる。
【理学療法学研究としての意義】
褥瘡予防に対する患者教育が比較的充実している当院においても,約50%の脊髄損傷者が退院後になんらかの褥瘡を発症しており,予防の難しさを再認した。一方で,今回褥瘡発生危険因子についての知見が得られたことで,より発生リスクの高い患者の把握が可能となり,褥瘡予防のアプローチに役立つと考える。
褥瘡は脊髄損傷者に生じる代表的な合併症であり,在宅脊髄損傷者においても発症のリスクは高い。発症すると活動の制限,廃用の進行,医療費の増大など多大なデメリットを被る。一方で,在宅脊髄損傷者における褥瘡発生の危険因子については十分に調査されていない。
今回,当院を退院され在宅生活を行っている脊髄損傷者に対して,退院後の褥瘡発生の有無と発生危険因子について,個人因子と生活状況をもとに調査し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
平成8年1月から平成17年12月の期間に,当院を退院された脊髄損傷患者310名を対象に郵送でのアンケート調査を行った。
対象者を退院後の褥瘡の有無によって褥瘡有り群,褥瘡無し群の2群に分類し,個人因子4項目[①退院時の年齢,②性別,③損傷レベル(頸髄・胸腰髄),④損傷の程度(完全損傷・不全損傷)]と,アンケートより得た生活状況の7項目[①調査時の介助量(自立・部分介助・全介助),②退院時と比較した介助量の変化(減少・変化無し・増加),③同居人の有無,④在宅サービスの利用の有無,⑤外出頻度(3回以上/週・1~2回/週・月2回未満),⑥就労・就学の有無,⑦自家用車の運転の有無]より,在宅での褥瘡発生危険因子を検討した。
統計解析は,年齢についてはMann-WhitneyのU検定を用い,その他の項目はカイ二乗検定を用いて比較した。有意水準は5%とし,統計ソフトはEZRを使用した。
【結果】
アンケート回収率は51%であった。内訳は男性128名,女性30名で,頸髄損傷者83名,胸髄損傷者53名,腰髄損傷者21名,不明1名であった。退院後の褥瘡発症の有無は有りが76名,無しが73名であり,未記入の9名を除いた約51%が退院後に褥瘡を発症していた。褥瘡部位は尾骨(25%),足部(25%),坐骨(22%),仙骨(21%)の順に多かった。
褥瘡有り群,褥瘡無し群の2群間の比較において,損傷の程度(p<0.05),調査時の介助量(p<0.01),介助量の変化(p<0.05),外出頻度(p<0.01)の4項目において有意差を認めた。褥瘡有り群において,完全損傷者,全介助者,外出頻度が月2回未満の者の人数が有意に多く,介助量の減少した者は有意に少なかった。また,完全損傷かつ全介助の脊髄損傷者の74%が退院後に褥瘡を発症していた。
年齢,性別,損傷レベル,同居人の有無,在宅サービスの利用の有無,就労・就学の有無,自家用車の運転の有無の7項目には有意差は認められなかった。
【考察】
今回の結果より,在宅脊髄損傷者における褥瘡発生危険因子として,完全損傷であること,介助量が多いこと,活動性が低いことが挙げられた。
完全損傷者の場合,損傷レベル以下の感覚脱失により褥瘡発生リスクが高まることは周知されている。当院では入院中に医師や看護師が褥瘡の基礎知識についての患者教育を行い,セラピストは座圧測定器を用いて各個人に適した環境調整,除圧動作指導を実施している。しかし今回の結果より,完全損傷者に対する褥瘡予防は十分でないことが示唆され,今後更に危険認識を高める必要がある。
先行研究では活動性の高い者や自動車運転者に褥瘡が多いとの報告があるが,今回の結果では自動車運転の有無に有意差は無く,介助量の多い者や活動性の低い者に多かった。また,褥瘡部位が足部や仙骨に多いことからも,褥瘡発症者の多くはベッド上で過ごす時間が長いことが推測される。さらに,同居者の有無や在宅サービス利用の有無においては褥瘡発生数に有意差が無いことから,同居者や地域スタッフによる褥瘡予防ケアが十分になされていないと考えられる。よって,家族や地域スタッフにも褥瘡のリスクを理解していただき,ポジショニングや皮膚チェックなどの褥瘡予防ケアの指導を入院中から十分に行い,在宅での定期的なチェック体制を整える必要がある。
また,今回の調査では栄養状態や体型は検討項目に含まれていないが,それらも褥瘡発生危険因子として知られており,今回挙げられた危険因子と混合することでより褥瘡発生リスクが高まると考えられ,一層の注意が必要となる。
【理学療法学研究としての意義】
褥瘡予防に対する患者教育が比較的充実している当院においても,約50%の脊髄損傷者が退院後になんらかの褥瘡を発症しており,予防の難しさを再認した。一方で,今回褥瘡発生危険因子についての知見が得られたことで,より発生リスクの高い患者の把握が可能となり,褥瘡予防のアプローチに役立つと考える。