第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

地域理学療法6

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0672] 屋外歩行自立者の静的バランス能力にバランスエクササイズが与える影響

尾上仁志1, 浦辺幸夫2, 島俊也1, 大岡恒雄1, 白川泰山3 (1.マッターホルンリハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院, 3.マッターホルンリハビリテーション病院整形外科)

Keywords:転倒予防, 静的バランス能力, バランスエクササイズ

【はじめに,目的】
高齢者の転倒予防は重要である。高齢者の転倒予防のために,運動療法やトレーニング効果に関する研究でバランス能力が向上したとする報告は多い(Rooks et al.1997 Topp et al.1993)。一方で,バランス能力の改善は得られなかったという報告もあり(Latham et al.2004),効果が一定でない。その原因について,筆者らは対象の有するバランス能力に対して,エクササイズの内容が適切でなかったためではないかと考えた。
本研究では,静的バランス能力の評価として,開眼片脚立位時間(One Leg Balance Test:OLBT)を測定し,転倒リスクが高いとされる5秒以上と5秒以下の2群に分け(Tinetti.1986),静的バランス能力の違いによってバランスエクササイズの効果が異なるかを検証することとした。
【方法】
対象は,屋外歩行が自立している整形外科疾患の既往のある65歳以上の高齢者20名とした。大腿骨頚部骨折,圧迫骨折,変形性膝関節症などが含まれ,中枢神経疾患,感覚障害を有する者は除外した。
静的バランス能力の指標としてOLBTが5秒以上の者10名(男性2名,女性8名)平均年齢(±SD)は72.7±5.0歳と,OLBTが5秒以下の者10名(男性1名,女性9名)年齢は72.7±5.0歳の2群に分けた。また,動的バランス能力の指標として,10m歩行時間を測定した。
介入するバランスエクササイズにはアキテックラボが作製したバランスクッションを使用した。今回は,一辺が43cmの正方形の布製の袋に直径が8mm,長さが10mmの筒状のポリプロピレン素材を460g封入したものを使用した。このバランスクッションを7枚連結し,長さ約3mにしたものを平行棒内の歩行路に敷いた。この上を対象が2分間歩行し,1分間休憩後さらに2分間歩行するというプロトコルでバランスエクササイズ実施した。エクササイズは週に2回以上行い,それを2週間継続した。コンプライアンスは4回以上とした。介入前後で10m歩行時間と開眼OLBTを測定した。
統計学的分析には,OLBTが5秒以上の者とOLBTが5秒以下の者で各測定結果の差について対応のないt検定を行った。エクササイズの介入前後の群間の比較は,対応のあるt検定を用いた。いずれも危険率5%未満を有意とした。
【結果】
介入に対する脱落者はなかった。平均(±SD)4.9±0.5回のバランスエクササイズが実施できた。介入前の開眼OLBTはOLBTが5秒以上の者で77.4±45.2秒,OLBTが5秒以下の者で3.8±0.7秒だった。10m歩行時間はOLBTが5秒以上の者で6.7±0.9秒,OLBTが5秒以下の者で7.6±1.7秒だった。介入前の開眼OLBTと10m歩行時間の2群間の比較では,開眼OLBTに有意差がみられたが,10m歩行には有意差がみられなかった(p<0.05)。
介入後の開眼OLBTはOLBTが5秒以上の者で78.4±46.3秒,OLBTが5秒以下の者で8.6±5.6秒だった。10m歩行時間はOLBTが5秒以上の者で6.5±1.2秒,OLBTが5秒以下の者で7.1±1.3秒であった。OLBTが5秒以上の者は,介入前後で測定項目の数値は向上したが,有意差はみられなかった。これに対してOLBTが5秒以下の者は,介入後に各測定項目で数値が有意に向上した(p<0.05)。
【考察】
開眼OLBTが5秒以上の者は,介入前後で各測定項目に有意差はみられなかった。これは,本来静的バランスの高い者は動的バランス能力も高いという結果と一致している(北ら,2013)。開眼OLBTが5秒以下の者は,各測定項目が向上した。静的バランスの低下している者は転倒リスクが高いということから(新村ら,2009),このことは,開眼OLBTが5秒以下の者に対して,このような2週間という比較的短期間の介入でも,効果が得られることを本研究で示すことができた。静的バランス能力が低い対象に対して,バランスエクササイズを実施することの意義が大きいと考えられた。今回,OLBTが5秒以上の者と5秒以下の者の歩行能力は介入前に差が小さく,今後静的バランス能力と動的バランス能力の関係に注意して,エクササイズを実施する必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,静的バランスが低下している者は必ずしも歩行を含めた動的バランスが低下しているとは限らないが,バランスエクササイズの介入でバランス能力が向上しやすいことが分かった。これは屋外歩行が自立して歩行能力が高くても,静的バランス能力が低下している者の存在を示し,積極的にバランスエクササイズを実施する必要があることを意味する。よって,本研究のように静的バランス能力の低い者にバランスエクササイズを実施することは意義あることと考える。