第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

予防理学療法1

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0698] 地域在住高齢者の身体活動量と生活のひろがりとの関係について

鈴木誠, 川上真吾, 鈴木博人, 田中直樹, 三木千栄 (東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科)

キーワード:地域在住高齢者, E-SAS, 身体活動量

【はじめに,目的】
本学では,平成20年度から地域包括支援センターと協力体制のもと転倒予防事業に関わり地域在住高齢者の健康維持増進に寄与してきた。しかし,これまでの取り組みでは身体機能の調査が大半を占め,それ以外の心理社会的側面については十分に把握が出来ていなかった。そこで本研究の目的は,本学周辺の地域在住高齢者を対象に身体活動量及び生活のひろがりについて調査を行い,現状の把握と今後の具体的支援策を明らかにすることである。

【方法】
対象は測定会場に自ら来場し,研究の主旨に同意の得られた地域在住高齢女性40名(74.1±5.3歳)であった。調査は①日本理学療法士協会が開発した生活のひろがりについて検査するElderly Status Assessment Set(以下,E-SAS)を使用した生活機能に関連する質問紙での評価,②E-SASの評価項目に含まれた「歩くチカラ」を検査する方法として,総合的なバランス能力を評価するTimed up & go test(以下,TUG),③3Dセンサー搭載歩数計(TANITA®:FB-732)を使用した日常生活の身体活動量調査,の計3項目について実施した。データ処理は対象者の身体活動量を平成23年国民健康・栄養調査結果(厚生労働省)の年代別一日平均歩数と比較し,多い群(以下,高活動群)と少ない群(以下,低活動群)の二群に区分した後それぞれについて比較を行った。二群それぞれの結果について正規性を確認した後,比較には独立2群のt検定及びMann-WhitneyのU検定を行った。また,各群におけるデータ間の関係性を検証するためPearsonの積率相関係数(r)及びSpearmanの順位相関係数(rs)を用いた。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。

【結果】
身体活動量を指標に区分した結果,高活動群は29名(72.5%),低活動群は11名(27.5%)であった。この二群間の身体活動量には有意差が認められた(p<0.01)が,基本情報(年齢・身長・体重)において有意差は認められなかった。また,二群間の調査データを比較した結果,有意差は認められなかった。しかし,歩くチカラについては高活動群の方が速い傾向を示した(p=0.062)。各群において相関関係を分析した結果,高活動群では生活の広がりと身体活動量(rs=0.596),休まず歩ける距離ところばない自信(rs=0.578),歩くチカラ(rs=-0.482),人とのつながり(rs=0.411)についてそれぞれ相関を認めた。一方,低活動群ではころばない自信と休まず歩ける距離(rs=0.632),歩くチカラ(rs=-0.706)についてそれぞれ相関を認めた。

【考察】
高活動群では「身体活動量」と「生活の広がり」との間に関係性が示された。また,「休まず歩ける距離」という項目が「ころばない自信」や「歩くチカラ」,「人とのつながり」に対して関係性が示されたことは大変興味深い。高活動群の特徴であり,日頃の身体活動量の象徴でもある連続歩行の能力が生活圏を拡大し,様々なかたちで社会との接点を生み生活上の自信につながっている可能性が高い。一方で低活動群は高活動群のように「身体活動量」と「生活の広がり」との間に関係性が認められなかった。この要因の一つとして,低活動群の中には生活圏内の移動が自家用車や公共交通機関を利用した生活スタイルである可能性が高い。低活動群のバランス能力は高活動群と比較して低い傾向はあるものの,有意な差は認められなかった。ただ,低活動群では「ころばない自信」と「歩くチカラ」,「休まず歩ける距離」に高い相関関係が認められたことから,少なからず身体機能の低下が考えられる。このような状況を踏まえ,今後当地域の低活動群においては自主サークル活動などをひとつのきっかけとした外出機会(特に歩行による生活圏の拡大)の創生と身体機能(特にバランス能力)の向上に向けた運動プログラムの提供といった具体的関わりを地域包括支援センターと共に情報を共有していく必要がある,このような支援が地域在住高齢者のより質の高い自立生活に結び付くと考えられる。今後,さらに様々な地域特性を分析した上で,根拠のある具体的実践を積み重ねていきたいと考えている。

【理学療法学研究としての意義】
超高齢社会が目前に迫った本邦において,高齢者に対する健康維持増進への関わりは必須であり,中でも地域特性を考慮した上での関わりは,実情に合った生活再建や社会参加の支援など広範囲な効果が期待できる。今回の結果はその地域特性を浮き彫りにし,今後の理学療法士の具体的介入方法の根拠となり得る。