[P2-B-0701] 人工膝関節置換術後の活動性と影響を及ぼす因子の検討
Keywords:人工膝関節置換術, 活動性, 自己効力感
【はじめに,目的】
変形性膝関節症では疼痛や運動機能低下により歩行能力が低下し,屋外での活動性が低下することが広く知られている。活動性の低下は疼痛や歩行能力に起因することから,人工膝関節置換術による除痛や歩行能力の向上によって活動性が改善することが期待されるが,術後の活動性を経時的に検討した報告は少ない。変形性膝関節症者の活動性は健常者に比べ低下していることから,術後の活動性を向上させることは重要であるものの,どのような要因によって影響を受けるのかも明らかではない。そこで本研究では人工膝関節置換術後の活動性の推移を経時的に検討し,運動機能の改善が十分に得られるとされる術後6ヶ月の活動性に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象は変形性膝関節症を原疾患とし,初回人工膝関節置換術を施行する患者40名(男性9名,女性31名,年齢71.0±6.0歳,身長152.7±8.9cm,体重60.8±9.9kg)であり,歩行に影響を及ぼす他の疾患を有する者や反対側の人工膝関節を予定している者等は除外した。評価は手術約1ヶ月前,術後1ヶ月,3ヶ月,6ヶ月に実施し,活動性の評価にはLife Space Assessment(LSA)を用い,運動機能評価として膝関節可動域,膝関節伸展筋力,Timed Up & Go test(TUG)を計測した。さらに,歩行に関連した自己効力感の評価としてmodified Gait Efficacy Scale(mGES)を用い,疼痛評価にはNew Knee Society Scoring Systemにおける疼痛評価項目を用い,歩行時痛,階段昇降や坂道歩行時の疼痛評価を行った。統計学的解析として,各評価項目の経時的な変化を検討するため繰り返しのある一元配置分散分析およびTukey-Kramerの多重比較検定を行った。次に,術後6ヶ月におけるLSAと他の因子との関連性を検討するため,術後6ヶ月におけるLSAと身体属性および各評価項目の関連性をPearsonの相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用い検討し,有意な相関関係を示した項目を独立変数に,術後6ヶ月のLSAを従属変数に投入したステップワイズ重回帰分析を行った。いずれの解析も有意水準は5%とした。
【結果】
LSAおよびmGESは術前に比べ術後1ヶ月で有意な低下を示したが(p<0.001),その後改善を示し,術後6ヶ月には術前と有意差を認めなかった。膝関節伸展筋力も術前に比べ術後1ヶ月で有意な低下を示したが(p<0.001),術後6ヶ月には術前に比べ有意に改善を示した(p=0.001)。膝関節屈曲可動域は術前に比べ術後1ヶ月に有意な低下を示し(p<0.001),術後6ヶ月に改善を認めたが術前に比べると低下していた(p<0.001)。一方膝関節伸展可動域および疼痛は術後1ヶ月には術前に比べ有意な改善を示した(p<0.001)。術後6ヶ月におけるTUGは術前に比べ有意な改善を認めた(p<0.001)。また,術後6ヶ月のLSAと性別,mGES,術側および非術側膝関節伸展筋力,TUGは有意な相関関係を認め,重回帰分析の結果,TUG(p=0.01)およびmGES(p=0.01)が術後6ヶ月のLSAに影響を及ぼす因子として抽出された(R2=0.53)。
【考察】
本研究では術後の活動性の推移とそれに影響を及ぼす因子を検討したが,先行研究では術後6ヶ月における活動性は,術前と同程度まで改善するものの運動機能の改善に比べると改善の度合いが小さいと報告している。本研究においても筋力や移動能力は術後6ヶ月で術前よりも改善するものの,活動性は術前と同程度までしか改善しなかった。術後6ヶ月の活動性に影響する要因としてTUGに反映される移動能力や,mGESを指標とした歩行に関連した自己効力感が抽出されたことから,術後6ヶ月における活動性を改善するためには,移動能力をより改善することや,歩行に関連した自己効力感を高めるような理学療法が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
人工膝関節置換術後には運動機能や日常生活動作の改善を目的とした理学療法が行われることが多いが,近年では健康寿命を伸ばし,生活の質を向上させるために活動性を高めることが重要であると考えられている。本研究は術後の活動性の推移および関連因子を明らかにすることで,術後の活動性向上に寄与する非常に意義深い研究である。
変形性膝関節症では疼痛や運動機能低下により歩行能力が低下し,屋外での活動性が低下することが広く知られている。活動性の低下は疼痛や歩行能力に起因することから,人工膝関節置換術による除痛や歩行能力の向上によって活動性が改善することが期待されるが,術後の活動性を経時的に検討した報告は少ない。変形性膝関節症者の活動性は健常者に比べ低下していることから,術後の活動性を向上させることは重要であるものの,どのような要因によって影響を受けるのかも明らかではない。そこで本研究では人工膝関節置換術後の活動性の推移を経時的に検討し,運動機能の改善が十分に得られるとされる術後6ヶ月の活動性に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象は変形性膝関節症を原疾患とし,初回人工膝関節置換術を施行する患者40名(男性9名,女性31名,年齢71.0±6.0歳,身長152.7±8.9cm,体重60.8±9.9kg)であり,歩行に影響を及ぼす他の疾患を有する者や反対側の人工膝関節を予定している者等は除外した。評価は手術約1ヶ月前,術後1ヶ月,3ヶ月,6ヶ月に実施し,活動性の評価にはLife Space Assessment(LSA)を用い,運動機能評価として膝関節可動域,膝関節伸展筋力,Timed Up & Go test(TUG)を計測した。さらに,歩行に関連した自己効力感の評価としてmodified Gait Efficacy Scale(mGES)を用い,疼痛評価にはNew Knee Society Scoring Systemにおける疼痛評価項目を用い,歩行時痛,階段昇降や坂道歩行時の疼痛評価を行った。統計学的解析として,各評価項目の経時的な変化を検討するため繰り返しのある一元配置分散分析およびTukey-Kramerの多重比較検定を行った。次に,術後6ヶ月におけるLSAと他の因子との関連性を検討するため,術後6ヶ月におけるLSAと身体属性および各評価項目の関連性をPearsonの相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用い検討し,有意な相関関係を示した項目を独立変数に,術後6ヶ月のLSAを従属変数に投入したステップワイズ重回帰分析を行った。いずれの解析も有意水準は5%とした。
【結果】
LSAおよびmGESは術前に比べ術後1ヶ月で有意な低下を示したが(p<0.001),その後改善を示し,術後6ヶ月には術前と有意差を認めなかった。膝関節伸展筋力も術前に比べ術後1ヶ月で有意な低下を示したが(p<0.001),術後6ヶ月には術前に比べ有意に改善を示した(p=0.001)。膝関節屈曲可動域は術前に比べ術後1ヶ月に有意な低下を示し(p<0.001),術後6ヶ月に改善を認めたが術前に比べると低下していた(p<0.001)。一方膝関節伸展可動域および疼痛は術後1ヶ月には術前に比べ有意な改善を示した(p<0.001)。術後6ヶ月におけるTUGは術前に比べ有意な改善を認めた(p<0.001)。また,術後6ヶ月のLSAと性別,mGES,術側および非術側膝関節伸展筋力,TUGは有意な相関関係を認め,重回帰分析の結果,TUG(p=0.01)およびmGES(p=0.01)が術後6ヶ月のLSAに影響を及ぼす因子として抽出された(R2=0.53)。
【考察】
本研究では術後の活動性の推移とそれに影響を及ぼす因子を検討したが,先行研究では術後6ヶ月における活動性は,術前と同程度まで改善するものの運動機能の改善に比べると改善の度合いが小さいと報告している。本研究においても筋力や移動能力は術後6ヶ月で術前よりも改善するものの,活動性は術前と同程度までしか改善しなかった。術後6ヶ月の活動性に影響する要因としてTUGに反映される移動能力や,mGESを指標とした歩行に関連した自己効力感が抽出されたことから,術後6ヶ月における活動性を改善するためには,移動能力をより改善することや,歩行に関連した自己効力感を高めるような理学療法が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
人工膝関節置換術後には運動機能や日常生活動作の改善を目的とした理学療法が行われることが多いが,近年では健康寿命を伸ばし,生活の質を向上させるために活動性を高めることが重要であると考えられている。本研究は術後の活動性の推移および関連因子を明らかにすることで,術後の活動性向上に寄与する非常に意義深い研究である。