第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

予防理学療法1

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0704] 屋外暑熱環境下の自由歩行が高齢者の生体に与える影響

~商業地・公園の差に着目して~

國吉光1, 小久保礼子2, 岩橋佳子1, 周藤忠明1, 日下博幸3, 渡部厚一4 (1.筑波大学大学院人間総合科学研究科, 2.筑波大学大学院生命環境科学研究科, 3.筑波大学生命環境系, 4.筑波大学体育系)

Keywords:高齢者, 熱中症, 発汗量

【はじめに,目的】
近年,急激な温暖化に伴い熱中症患者の増加が問題となっている。2013年度の熱中症による救急搬送者数は過去最高となり58729人に昇り,内訳として65歳以上の高齢者が27828人と全体の約47%を占めている。成人と比べ,高齢者は熱中症になりやすいと報告されている。その一方で,健康日本21では70歳以上の身体活動量の目標を1日1300歩以上活動量向上の目標を掲げている。夏季においても身体活動量をある一定量維持することは健康維持・増進に重要であると考える。しかしながら,日本には四季があり,季節により身体活動量が異なり,高齢者の活動量も冬・夏は低いことが報告されている。そのため,これらの矛盾を解消し,安全に高齢者の身体活動量を維持・促進するような方法や対策が必要である。先行研究によると,屋外暑熱環境下での街路樹が多い道は,遮蔽効果によって最大約9℃低い値を示したことが報告されている。そのため歩く環境の選択を工夫することにより,身体負荷を軽減しながら活動量の維持に繋ぐことができる可能性があるものと考える。本研究の目的は,屋外暑熱環境下における自由歩行が高齢者の生体に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は,高齢者4人(73.0±4.1歳)(平均年齢±標準偏差)であった。実験は商業地・公園の2条件を設定し,2014年8月4日の正午~15時の間に実施した。対象者は,屋外での自由飲水後5分間休息をとり,生理測定を実施。測定終了後自由な速度で10分間歩行を実施した。再び歩行終了後に生理測定を行った。測定項目は,発汗量,唾液測定(唾液量,HSP70,分泌型免疫グロブリンA:SIgA),身体活動量(METS),飲水量,鼓膜温,熱中症指数とされるWBGT(湿球黒球温度)であった。発汗測定は,換気カプセル型発汗計(スキノス製:SKN-1020)を用い,前額部をアルコール綿で汗を拭き取った後,発汗検出プローブを装着し,1分間隔で2分間測定を行った。唾液の採取は,無菌綿花を1回/1秒のペースで1分間咀嚼して採取した。唾液中のSIgAのタンパク補正値は,ELISA法にて定量した。分泌型免疫グロブリンAの分泌速度(ng/min)は唾液分泌速度(1分間で歳出された唾液量;ml/min)とSIgA濃度との積から求め,測定を行った。身体活動量は,各対象者に休憩時,身体活動量計(ライフコーダEX,Suzuken,JAPAN,以下ライフコーダ)をウエスト部分に装着させ,竹島らの研究で報告している回帰式を参考にMETsを算出することにより運動中の活動量を測定した。鼓膜温は,耳式体温計(omron:MC-510)を用い,毎3回測定を行い,平均値を鼓膜温とした。商業地・公園のWBGTの差はMann-WhitneyのU検定で比較を行った。統計処理は,統計解析ソフトウェアSPSSver21(IBM)を用いて行った。統計的水準は5%未満(p<0.05)とした。
【結果】
WBGTを2条件で比較すると,商業地(30.2±0.4℃)が公園(28.8±0.5℃)と比べが有意に高い値を示した(p<0.05)。高齢者の商業地と公園での自由歩行後の発汗量を比較すると,公園(1.0±0.3)が商業地(0.4±0.3)(mg/cm2/min)より高い値を示した。運動後の唾液測定の結果は唾液量(商業地:1.3±0.3,公園:1.5±0.2mg/min),HSP70分泌速度(商業地:0.9±0.6,公園:1.6±0.3mg/min),SIgA分泌速度(商業地:58.9±9.6,公園:60.3±1.8ng/min)であった。自由歩行中の身体活動量は,商業地:2.4±0.3METs,公園:2.5±0.1METsであった。飲水量を比較すると,公園(312.0±89.6ml)が商業地(303±60.1ml)より高い値を示した。自由歩行後の鼓膜温は,商業地:36.5±0.2℃,公園36.5±0.3℃であり差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果として,熱中症指数とされるWBGTは商業地が公園と比べ有意に高い値を示した。一方で,各条件での自由歩行後の生理測定の差は認めなかった。今回,各条件での自由歩行時間が10分と短く,生体反応の違いには至らなかったと考える。そのため,今後はさらに対象者数を増やし検討していきたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,屋外暑熱環境下での自由歩行を行うという実際の生活場面を想定した研究である。夏季に高齢者の身体活動量の向上を促す際の基礎資料となったと考えている。