[P2-B-0727] 肺切除術患者における術前運動後心拍回復速度減少が術後運動耐容能および精神心理機能に及ぼす影響
キーワード:運動後心肺回復速度, 肺切除術, 自律神経異常
【はじめに,目的】
運動後1分間の心拍回復(Heart rate recovery at one minute of rest:HRR1)が12拍未満になると生存率が低下し,それらには心臓自律神経活動様態が関与していると報告がある。また,COPDと心不全患者のHRR1は生存率に関連があると報告されている。しかしながら,肺切除術患者とHRR1に関して報告している研究は少ない。肺切除は手術による心負荷により,自律神経異常が出現する可能性がある。そこで本研究では肺切除術患者における術前のHRR1が術後の身体機能および精神心理機能に及ぼす影響について検討した。
【方法】
本研究デザインは前向きコホート研究とし,調査期間は平成25年11月から平成26年9月とした。対象は当院にて肺切除術を施行した患者48名(男性33名,女性15名)とした。また,除外基準はβ-遮断薬使用患者とした。手術内訳は胸腔鏡胸下肺切除術3名,胸腔鏡補助下肺切除術43名,開胸術2名であった。方法は術前の6分間歩行試験(6MWT)後のHRR1によってHRR112拍以上(37名,男性24名,女性13名:A群)とHRR112拍未満(11名,男性9名,女性2名:B群)の2群に分類し各調査項目を比較した。調査は術前と退院前の2期とし,調査項目は患者背景因子(既往歴,術式,術後合併症,在院日数),術前後の身体機能は握力,下肢筋力(ANIMA社製ミュータスF-1),呼吸機能(VC,%FVC,FEV1,%FEV1:MINATO社製AutospioAS-407),6MWT(SpO2・HR・呼吸困難感・下肢疲労感・HRR1・距離),疼痛はVASを使用,ADLの評価としてNRADL,精神心理機能評価としてHospital anxiety depression scale(HADS)を調査した。統計学的分析は,2群間の比較にMann-Whitney U検定とχ2検定を用いた。各検定の有意水準は5%未満とした。
【結果】
2群間の比較に有意差を認めた項目は,年齢(A群67.2±8.8歳,B群72.7±5.1歳),術前はNRADL(A群97.5±3.1点,B群99.5±1.5点),6MWTは歩行直後HR(A群107±12.2bpm,B群84±15bpm),歩行直後の呼吸困難感(A群3±1.8,B群0.9±1.1),歩行終了1分後の呼吸困難感(A群2.2±1.7,B群0.5±0.9)であった。術後はHADS(A群9.8±8.1点,B群12.1±5.5点),6MWTは歩行前の呼吸困難感(A群1.0±1.7,B群1.6±1.4),HRR1(A群23±10.2拍,B群8±12.4拍),距離(A群433.6±48.1m,B群376.5±70.7m)であった。
【考察】
術前B群は運動後のHR上昇と呼吸困難感がA群より軽度であった。術後B群は安静時より呼吸困難感が増強し運動耐容能の低下がみられ,さらには精神心理機能も低下する結果となった。運動時のHR変動は心臓自律神経活動様態に関与しており,自律神経異常や加齢によってHRR1が減少するとの報告がある(Cole 1999)。また,6MWTは自由歩行試験であり,自律神経が不安定なB群は6MWTで最大負荷をかけることができなかった可能性がある。これらのことより術前B群はHR上昇と呼吸困難感がA群より軽度であったと示唆される。術後B群は肺切除術による自律神経の異常亢進と肺機能低下により,安静時の呼吸困難感が増強した可能性がある。また,運動中の迷走神経が亢進し心血管容量が低下することは6MWTの距離に関係すると報告がある(Rubim 2006)。これらのことより6MWT距離が減少した可能性がある。したがって安静時の呼吸困難感の増強と運動耐容能の低下が,日常生活に対する不安感が増強した要因のひとつとして推測される。
【理学療法学研究としての意義】
術前のHRR1が減少すると術後の運動耐用能及び精神心理機能が低下する可能性が示唆された。術前HRR1が減少している症例において,術後は運動耐容能及び精神心理機能を考慮した理学療法プログラム立案が必要と思われる。
運動後1分間の心拍回復(Heart rate recovery at one minute of rest:HRR1)が12拍未満になると生存率が低下し,それらには心臓自律神経活動様態が関与していると報告がある。また,COPDと心不全患者のHRR1は生存率に関連があると報告されている。しかしながら,肺切除術患者とHRR1に関して報告している研究は少ない。肺切除は手術による心負荷により,自律神経異常が出現する可能性がある。そこで本研究では肺切除術患者における術前のHRR1が術後の身体機能および精神心理機能に及ぼす影響について検討した。
【方法】
本研究デザインは前向きコホート研究とし,調査期間は平成25年11月から平成26年9月とした。対象は当院にて肺切除術を施行した患者48名(男性33名,女性15名)とした。また,除外基準はβ-遮断薬使用患者とした。手術内訳は胸腔鏡胸下肺切除術3名,胸腔鏡補助下肺切除術43名,開胸術2名であった。方法は術前の6分間歩行試験(6MWT)後のHRR1によってHRR112拍以上(37名,男性24名,女性13名:A群)とHRR112拍未満(11名,男性9名,女性2名:B群)の2群に分類し各調査項目を比較した。調査は術前と退院前の2期とし,調査項目は患者背景因子(既往歴,術式,術後合併症,在院日数),術前後の身体機能は握力,下肢筋力(ANIMA社製ミュータスF-1),呼吸機能(VC,%FVC,FEV1,%FEV1:MINATO社製AutospioAS-407),6MWT(SpO2・HR・呼吸困難感・下肢疲労感・HRR1・距離),疼痛はVASを使用,ADLの評価としてNRADL,精神心理機能評価としてHospital anxiety depression scale(HADS)を調査した。統計学的分析は,2群間の比較にMann-Whitney U検定とχ2検定を用いた。各検定の有意水準は5%未満とした。
【結果】
2群間の比較に有意差を認めた項目は,年齢(A群67.2±8.8歳,B群72.7±5.1歳),術前はNRADL(A群97.5±3.1点,B群99.5±1.5点),6MWTは歩行直後HR(A群107±12.2bpm,B群84±15bpm),歩行直後の呼吸困難感(A群3±1.8,B群0.9±1.1),歩行終了1分後の呼吸困難感(A群2.2±1.7,B群0.5±0.9)であった。術後はHADS(A群9.8±8.1点,B群12.1±5.5点),6MWTは歩行前の呼吸困難感(A群1.0±1.7,B群1.6±1.4),HRR1(A群23±10.2拍,B群8±12.4拍),距離(A群433.6±48.1m,B群376.5±70.7m)であった。
【考察】
術前B群は運動後のHR上昇と呼吸困難感がA群より軽度であった。術後B群は安静時より呼吸困難感が増強し運動耐容能の低下がみられ,さらには精神心理機能も低下する結果となった。運動時のHR変動は心臓自律神経活動様態に関与しており,自律神経異常や加齢によってHRR1が減少するとの報告がある(Cole 1999)。また,6MWTは自由歩行試験であり,自律神経が不安定なB群は6MWTで最大負荷をかけることができなかった可能性がある。これらのことより術前B群はHR上昇と呼吸困難感がA群より軽度であったと示唆される。術後B群は肺切除術による自律神経の異常亢進と肺機能低下により,安静時の呼吸困難感が増強した可能性がある。また,運動中の迷走神経が亢進し心血管容量が低下することは6MWTの距離に関係すると報告がある(Rubim 2006)。これらのことより6MWT距離が減少した可能性がある。したがって安静時の呼吸困難感の増強と運動耐容能の低下が,日常生活に対する不安感が増強した要因のひとつとして推測される。
【理学療法学研究としての意義】
術前のHRR1が減少すると術後の運動耐用能及び精神心理機能が低下する可能性が示唆された。術前HRR1が減少している症例において,術後は運動耐容能及び精神心理機能を考慮した理学療法プログラム立案が必要と思われる。