第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

神経・筋機能制御

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0774] 神経筋電気刺激と経頭蓋直流電気刺激の併用が脊髄相反抑制機構に及ぼす影響

武田和也1, 小山総市朗1, 後山耕輔1, 田辺茂雄2, 櫻井宏明2, 金田嘉清2 (1.河村病院リハビリテーション部, 2.藤田保健衛生大学医療科学部)

Keywords:電気療法, 経頭蓋直流電気刺激, 脊髄反射

【はじめに,目的】中枢神経障害者で見られる痙縮の一要因として,脊髄相反抑制機構の破綻が挙げられる。この脊髄相反抑制機構の改善には,深腓骨神経への神経筋電気刺激(Neuro Muscular ElectRIcal Stimulation,以下NMES)が有効とされており,脳卒中患者などにおいて前脛骨筋からヒラメ筋への脊髄相反抑制機構の改善が報告されている。また近年,一次運動野における当該筋支配領域の皮質興奮性が,脊髄相反抑制機構に影響を与えるとされている。そこで我々は,経頭蓋直流電気刺激(transcranial Direct Current Stimulation,以下tDCS)とNMESの同時刺激によって,tDCSおよびNMES単独と比較してより脊髄相反抑制機構を改善できると仮説を立てた。本研究の目的は,健常成人を対象として電気生理学的手法を用いた仮説検証を行うことである。
【方法】対象は健常成人9名(24.6±1.3歳)。研究はランダム化,単盲検化,被験者内比較デザインを用いた。条件はtDCS単独(tDCS群),sham刺激+NMES(NMES群),tDCSとNMESの併用(同時刺激群)の3条件とした。被験者は3条件全てに参加し,実験間隔は1週間以上空けた。tDCSはDC-STIMLATOR(neuroConn)を用いた。陽極は経頭蓋磁気刺激にて同定した右一次運動野前脛骨筋領域,陰極は左額部に貼付した。刺激強度は2mA,刺激時間20分とした。NMESは日本光電社製電気刺激装置SEN-8203,SS-140Jを用いた。陰極は左深腓骨神経直上,陽極は左前脛骨筋膨隆部に貼付した。パルス幅250μs,刺激周波数50Hz,刺激強度は前脛骨筋運動閾値直下,刺激時間20分,刺激サイクルは8秒ON-2秒OFFとした。tDCSとNMESは同期した。脊髄相反抑制機構は条件-刺激法によって評価した。被験肢位は股110度屈曲,膝50度屈曲,足10度底屈とした。条件刺激はNMESと同じ電極を用い,運動閾値の強度で刺激した。試験刺激の陽極は膝蓋骨直上,陰極は脛骨神経直上に貼付した。被検筋は左ヒラメ筋とした。刺激電極と記録電極の間には巻きアースを取り付けた。刺激強度は,安静時H反射振幅が最大M波振幅の30%となる強度とした。刺激中の条件刺激なしH反射振幅(Htest)は常に一定にした。条件-試験間隔は2ms(Reciprocal Inhibition,以下RI)と20ms(D1抑制,以下D1)とした。筋電は5-1kHzのバンドパスフィルタを通した後,サンプリング周波数2kHzでPCへ保存した。評価項目はRI,D1とし,刺激前後の変化および刺激中の変化を検討するため,刺激前後にHtest,RI,D1をそれぞれ15回,刺激中のNMES OFF時に10秒間隔でHtest,RI,D1を1回測定した。RIとD1はHtestに対するHcondの割合(Hcond/Htest)を用い,刺激中のRI,D1は10回毎に平均した。統計学的解析は,刺激前後では対応のあるt-検定,刺激中はRIとD1を従属変数とした時間と条件の繰り返しのある二元配置分散分析を用いた(p<0.05)。
【結果】刺激前後のRIは,tDCS群,NMES群,同時刺激群でそれぞれ92.7±10.6%から97.6±7.9%,100.8±11.6%から89.4±16.4%,99.2±9.7%から96.1±16.2%,D1はそれぞれ80.7±11.3%から89.5±8.8%,90.4±20.4%から81.3±19.7%,91.6±13.0%から82.9±13.3%であり,NMES群のみRI(p<0.01),D1(p<0.05)共に有意差を認めた。一方,刺激中はRI,D1共に,条件と時間の交互作用(RI:F(6,96)=0.84;P=0.55,D1:F(6,96)=0.17;P=0.98)は認めず,条件(RI,F(2,96)=0.13;P=0.88,D1,F(3,96)=0.22;P=0.80),時間(RI,F(3,96)=0.30;P=0.87,D1,F(3,96)=0.12;P=0.95)の主効果も認めなかった。
【考察】刺激前後においてNMES群のみRI,D1共に有意な改善を認めた。刺激中は,条件,時間共に有意な変化を認めなかった。NMES群の刺激前後における結果はこれまでの報告と一致するものの,同時刺激群では仮説と異なる結果であった。この結果の要因は明らかではないが,tDCSとNMESを同期することによってNMESによる脊髄相反抑制機能の改善効果が打ち消された可能性がある。したがって,本研究の手法を臨床応用するには,tDCSとNMESの刺激タイミングを独立変数としたさらなる研究が必要である。加えて,皮質興奮性の変化も同時に検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究によって,tDCSとNMESの両者を用いた脊髄相反抑制機構の変調は,tDCSとNMESの刺激タイミングが重要となる可能性が示唆された。tDCSとNMESは痙縮を軽減させる理学療法手法として注目されており,新たな介入方法の基礎的知見として本研究の意義は大きい。