第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

神経・筋機能制御

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0780] 温熱療法で拘縮関節の伸張性増加は得られるか?―ラットによる実験的研究―

原口脩平1, 沖貞明3, 白根歌織2, 積山和加子3, 梅井凡子3, 高宮尚美3, 小野武也3 (1.医療法人大植会葛城病院, 2.広島赤十字原爆病院, 3.県立広島大学保健福祉学部理学療法科)

Keywords:関節拘縮, 温熱療法, ラット

【はじめに,目的】近年,運動療法と温熱療法を併用することによって関節可動域の改善に大きな効果をもたらされることが報告されている。しかし,臨床現場では温熱療法を単独で行っていることも少なくない。温熱療法を単独で行うことで拘縮関節の可動性が向上する効果についての報告は少なく,それらの報告においても,動物実験により関節拘縮の発生抑制や改善を数週間にわたり観察したものであり,温熱療法直後においてどの程度の効果があるかは不明である。関節拘縮の評価では,関節可動域測定が一般的であるが,そのほかには関節を最大可動域まで他動的に動かす時に必要な力を定量的に測定する方法も報告されている。この方法を用いれば,温熱療法直後の関節の伸張性の向上についての評価ができるのではないかと考え,動物実験にて検討する事にした。
【方法】実験動物には8週齢のWistar系雌ラット12匹(平均体重239.6±12.7g)を用いた。実験初日に麻酔下にてラットの右側後肢足関節の最大背屈角度を測定した。測定するにあたっては,ひずみゲージ式変換機を中足部に対して垂直にあてて0.3Nの力を加え,足関節最大背屈位とした。基本軸は外果と腓骨頭を結ぶ線からの垂線,移動軸は踵骨底面とした。関節可動域測定後,すべてのラットの右側後肢足関節に対してジエチルエーテル麻酔下に尖足位でギプス固定した。固定の範囲は下腿~足部とした。ギプスは1日1回麻酔下にて除去し,再固定を行った。固定開始1週間後に温熱療法群とコントロール群の2群に分け,麻酔下でギプス固定を除去した後に関節可動域測定を行った。温熱療法群においては,麻酔下に恒温水槽にて20分の渦流浴(42℃)を施した。その後,中足骨頭部にひずみゲージ式変換機をあて,約10度/秒の速さで力を加えて足背部が下腿前面に接する肢位まで他動的に足関節を背屈させ,その間に必要な力の最大値(以下,最大抵抗力とする)を測定した。コントロール群に関しても麻酔を続け,ギプス除去後20分経過した後に,温熱療法群と同様の方法で最大抵抗力を測定した。実験期間中のラットは飼育ケージ内にて自由に移動でき,全てのラットにおいて水と餌は自由に摂取可能とした。実験終了後に麻酔の過量投与により安楽死させた。統計処理には統計ソフトExcel統計2008を使用した。両群間の比較にはマンホイットニー検定を用い,危険率5%をもって有意差を判定した。
【結果】ギプス固定開始前の最大背屈角度は,コントロール群の中央値は42.0°,温熱療法群の中央値は40.0°であり,両群間に有意差はなかった。次に1週間のギプス固定終了後における最大背屈角度はコントロール群の中央値が-25.5°,温熱療法群の中央値が-20.0°であり,両群間での有意差は認められなかった。最大抵抗力に関しては,コントロール群の中央値は3.00N,温熱療法群の中央値は2.82Nであり,両群間での有意差は認められなかった。
【考察】1週間のギプス固定終了後における最大背屈角度は,コントロール群と温熱療法群の間に有意差は認められず,両群において同程度の関節拘縮が生じていた。また,温熱療法として使用した渦流浴の条件に関しても,水温を42℃に設定した浴槽で20分間温浴を行った場合,最も深部にあるヒラメ筋を40℃まで加温することができるとされており,本実験においても実際の温熱療法の効果は十分であったと考えられる。しかし,最大抵抗力に関しては,コントロール群と温熱療法群の間に有意差はみられず,温熱療法を施行しても拘縮関節の伸張性の向上は認められないという結果であった。本実験では,麻酔により神経が関与する疼痛緩和作用・筋緊張低下作用の影響は除外されているため,コラーゲン線維の伸張性増大作用が単独に影響する条件下であった。しかし,関節の伸張性の向上は認められなかったことから,今回の条件での温熱療法によるコラーゲン線維の伸張性増加作用は不十分であったということになる。
【理学療法学研究としての意義】温熱療法直後の関節の伸張性の増加は,コラーゲン線維の伸張性増加作用よりも,疼痛緩和作用,筋緊張低下作用の影響が大きいのではないだろうかと考えた。さらに,運動療法と温熱療法を併用することが効果的であるという理由も,疼痛緩和・筋緊張低下での運動による効果が大きいのではないかと考えた。