第50回日本理学療法学術大会

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運動制御・運動学習5

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0509] 片脚立位時の上肢への重錘負荷が腹横筋厚に及ぼす影響

松本浩希1, 安江啓太1, 初瀬川弘樹1, 蔦幹大1, 湊哲至1, 木本真史1, 吉岡大輔2 (1.彩都リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.彩都リハビリテーション病院放射線科)

キーワード:超音波画像解析, 腹横筋, 片脚立位

【はじめに,目的】
臨床において,Duchenne徴候やTrendelenbrug現象に対し片脚立位時(以下,OLS)や歩行動作時に重錘負荷を上肢へかけ,アライメントの変化や跛行の増減を評価することがある。これは,Pauwelsの理論から中殿筋の筋活動を変化させ,その反応を観察するものである。しかし,姿勢制御の評価を行う上で,体幹の安定性を維持する機能があるとされる体幹深層筋にも着目する必要がある。先行研究では,重錘負荷を上肢へかけたOLS時の体幹表層筋に対しての調査報告はあるが,体幹深層筋の変化を調査した報告は少ない。
今回,姿勢制御時における体幹深層筋の変化を明らかにすることを目的とし,超音波診断装置を用いて片脚立位時に上肢へ重錘負荷をかけた際の腹横筋の変化について調査した。
【方法】
対象は,下肢・体幹に整形外科的・神経学的疾患のない健常者10名(男性:7名,女性:3名,25.4±2.6歳)とした。身長は166.8±6.1cm,体重は55.4±8.6kgであった。測定には超音波診断装置(東芝メディカルシステムズ株式会社NemioMX SSA-590A)を使用し,測定はBモードで行った。測定筋は左右腹横筋とし,測定部位は前腋窩線上の肋骨下端と腸骨稜との中央部より下部で微調整を行い決定した。方法は,安静立位時,体重の5%の負荷を肩関節外転90°で右上肢遠位へ加えた肢位での立位時(以下,重錘立位),一般的なOLS,体重の5%の負荷を肩関節外転90°で右上肢遠位へ加えた肢位でのOLS時(以下,右重錘OLS),体重の5%の負荷を肩関節外転90°で左上肢遠位へ加えた肢位でのOLS時(以下,左重錘OLS)の最大筋厚を各々3回測定し,その平均値を求めた。OLSは,すべて右下肢を立脚側とした。測定は,すべて安静呼気終末時に実施した。その後,安静立位時に対する各肢位の腹横筋厚変化率(以下,変化率)を算出した。各OLS時において,1N未満の指先支持を許可し,OLS動作を安定させた。支持圧はハンドヘルドダイナモメーターを用いて確認した。左右の変化率の比較には二元配置分散分析を用い,各肢位の変化率にはTukeyの多重比較検定を用いて左右それぞれ比較した。
【結果】
各肢位の変化率は,重錘立位時が右0.95±0.13,左1.00±0.12,一般的なOLS時が右0.99±0.12,左1.13±0.23,右重錘OLS時が右0.99±0.18,左1.04±0.15,左重錘OLS時が右1.16±0.18左1.08±0.32であった。
統計学的検討では,左右の変化率に有意差は認められなかった。各肢位間の変化率は,右腹横筋は左重錘OLS時に対する安静立位時(P<0.05),重錘立位時(P<0.01),一般的なOLS時(P<0.05),右重錘OLS時(P<0.05)に有意差を認め,そのほかの肢位間では有意差を認めなかった。左腹横筋は各肢位間においてすべて有意差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果,左重錘OLS時,つまり立脚側中殿筋に負荷をかける肢位にのみ各肢位間との有意差を認めた。これは,立脚側中殿筋の筋活動が高まったことにより,中枢部の固定作用として腹横筋が活動したのではないかと推測した。また,重錘負荷の影響で,重心が挙上側へ移動し体幹部のアライメント変化が生じ,そのアライメントを修正するために腹横筋が活動した可能性もある。左の変化率に有意差を認めなかったのは,左腹横筋は遊脚側のため,固定作用としての腹横筋の活動が少なかったためであると推測した。また,左の変化率に有意差を認めなかったことから,遊脚側では重錘負荷で生じるであろう体幹部のアライメント変化に対する腹横筋の変化が確認できなかった。本研究では測定部位から考えると,腹横筋中部線維の筋厚を測定している。Urquhartらは,腹横筋の上部線維が胸郭を安定させる作用があることを述べており,腹横筋中部線維には上肢重錘負荷の影響が少なかったため腹横筋の変化が確認できなかったのではないかと推測した。
今回,OLS時の下部体幹において,立脚側中殿筋の活動が高まれば中枢部の固定作用も高まる可能性が示唆された。中殿筋の筋活動を変化させその反応を観察する際には,腹横筋の影響も考慮する必要があるかもしれない。体幹の安定は,上部体幹と下部体幹とが協調して活動することで維持されていると考えられており,今回の研究では腹横筋上部線維の変化を調査できていない。今後は,腹横筋各線維の関係,三次元動作解析装置や重心動揺計を併用しOLSアライメントの影響も詳細に調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,姿勢制御の評価を行う上で腹横筋の固定作用を検討する際の一助となると思われる。