[P2-C-0512] 下腿三頭筋の筋緊張が高い脳卒中片麻痺症例における,調整機能付き短下肢装具の撓み度を変化させた条件下の歩行時筋活動
Keywords:歩行, 調整機能付き短下肢装具, 表面筋電図
【はじめに,目的】
脳卒中によって片麻痺を呈した患者において,筋緊張の亢進が歩行時の阻害因子となり,筋緊張をコントロールするために短下肢装具を処方することがある。脳卒中患者に処方する短下肢装具を評価するための装具として,当院には調整機能付き短下肢装具(以下,APS-AFO)がある。装具作成時に行う評価として,足継手の種類,底背屈方向の角度制限を検討する報告は多いが,底背屈方向の撓み度を検討した報告は少ない。下腿三頭筋の筋緊張亢進が著明な症例に対して,APS-AFOの後方平板支柱の強度を変化させることで,歩行時下肢筋活動に与える影響を検討した。
【方法】
対象は中大脳動脈領域の梗塞によって左不全片麻痺を呈した50歳代の女性であった。Brunnstrom Recovery Stageは上肢III,手指I,下肢IV,Ashworth Scaleは足関節背屈がグレード3であった。APS-AFOの平板支柱はアルミ,リジッド,セミリジッド,スタンダード,フレキシブル(曲げ剛性:13,500,9,500,7,700,4,000,1,000GPa・mm4)をそれぞれ使用し,麻痺側下肢に装着して直線歩行を行った。APS-AFOの足関節底背屈角度の可動範囲は底屈-2°,背屈はフリーとした。各条件における歩行中の麻痺側下腿三頭筋,前脛骨筋,内側広筋,内側ハムストリングスの筋活動を表面筋電計km-818MT(メディエリアサポート社)で計測した。10歩行周期を抽出し,階級幅10%で正規化を行い加算平均した。また,独立変数を5種類の平板支柱の曲げ剛性条件,従属変数を各歩行周期における筋活動量として統計ソフト(FreeJSTAT)を用いて多重比較を実施した。有意差は5%未満とした。
【結果】
下腿三頭筋では一歩行周期の70~100%においてアルミ,セミリジッド,スタンダードよりフレキシブルが有意に高い筋活動を認めた。(p<0.01,0.05)前脛骨筋では10~20%,30~40%においてセミリジッド,スタンダードはアルミより有意に高い筋活動を(p<0.05),40~50%においてセミリジッド,スタンダードはアルミ,リジッドより有意に高い筋活動を(p<0.05),50~80%においてフレキシブルはリジッドより有意に高い筋活動(p<0.01)を認めた。内側広筋では60~70%,80~90%においてフレキシブルはリジッドより有意に高い筋活動(p<0.05)を認めた。内側ハムストリングスでは40~50%においてスタンダードはリジッドより有意に高い筋活動を(p<0.05),50~60%においてアルミはリジッド,スタンダードより有意に高い筋活動を(p<0.05),60~70%においてスタンダードはアルミより有意に高い筋活動を(p<0.05),70~90%においてフレキシブルはリジッド,セミリジッドより有意に高い筋活動(p<0.01,0.05)を認めた。
【考察】
下腿三頭筋の筋緊張亢進が著明な症例に対して,可撓性の低い装具が底屈筋の筋緊張抑制に働くとの報告がある。本調査においても可撓性の高いフレキシブルを使用した際に,遊脚期において下腿三頭筋の有意に高い筋活動認めた。そのため底屈方向への可撓性が下腿三頭筋の緊張を亢進させた原因ではないかと考えた。痙性により生じる下腿三頭筋の筋緊張を抑制するためには,足関節背屈筋群の筋活動が重要であると述べられている。また,前脛骨筋の筋活動量に装具の底屈制御は影響しなかったと報告がある。本調査においても下腿三頭筋が有意に高い筋活動を示した時期において,装具の可撓性の違いによる前脛骨筋の筋活動に有意な差は認められなかった。また,フレキシブルを使用することで下腿三頭筋とともに内側広筋でも有意に高い筋活動を示した。よって,下腿三頭筋の筋緊張亢進に伴って足関節,膝関節の伸展パターンが出現したのではないかと考えた。これらのことから,下腿三頭筋の筋緊張亢進が認められる症例に対して可撓性の高い支柱を使用することで,下腿三頭筋の筋緊張亢進を助長する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
支柱の強度の変化が歩行時下肢筋活動に影響を示す可能性が示唆された。下腿三頭筋の筋緊張が高い症例は臨床上多い。装具の可撓性の違いに伴い下腿三頭筋の筋緊張を亢進,もしくは抑制する可能性があることを,下肢筋活動を測定し報告した点において意義がある。
脳卒中によって片麻痺を呈した患者において,筋緊張の亢進が歩行時の阻害因子となり,筋緊張をコントロールするために短下肢装具を処方することがある。脳卒中患者に処方する短下肢装具を評価するための装具として,当院には調整機能付き短下肢装具(以下,APS-AFO)がある。装具作成時に行う評価として,足継手の種類,底背屈方向の角度制限を検討する報告は多いが,底背屈方向の撓み度を検討した報告は少ない。下腿三頭筋の筋緊張亢進が著明な症例に対して,APS-AFOの後方平板支柱の強度を変化させることで,歩行時下肢筋活動に与える影響を検討した。
【方法】
対象は中大脳動脈領域の梗塞によって左不全片麻痺を呈した50歳代の女性であった。Brunnstrom Recovery Stageは上肢III,手指I,下肢IV,Ashworth Scaleは足関節背屈がグレード3であった。APS-AFOの平板支柱はアルミ,リジッド,セミリジッド,スタンダード,フレキシブル(曲げ剛性:13,500,9,500,7,700,4,000,1,000GPa・mm4)をそれぞれ使用し,麻痺側下肢に装着して直線歩行を行った。APS-AFOの足関節底背屈角度の可動範囲は底屈-2°,背屈はフリーとした。各条件における歩行中の麻痺側下腿三頭筋,前脛骨筋,内側広筋,内側ハムストリングスの筋活動を表面筋電計km-818MT(メディエリアサポート社)で計測した。10歩行周期を抽出し,階級幅10%で正規化を行い加算平均した。また,独立変数を5種類の平板支柱の曲げ剛性条件,従属変数を各歩行周期における筋活動量として統計ソフト(FreeJSTAT)を用いて多重比較を実施した。有意差は5%未満とした。
【結果】
下腿三頭筋では一歩行周期の70~100%においてアルミ,セミリジッド,スタンダードよりフレキシブルが有意に高い筋活動を認めた。(p<0.01,0.05)前脛骨筋では10~20%,30~40%においてセミリジッド,スタンダードはアルミより有意に高い筋活動を(p<0.05),40~50%においてセミリジッド,スタンダードはアルミ,リジッドより有意に高い筋活動を(p<0.05),50~80%においてフレキシブルはリジッドより有意に高い筋活動(p<0.01)を認めた。内側広筋では60~70%,80~90%においてフレキシブルはリジッドより有意に高い筋活動(p<0.05)を認めた。内側ハムストリングスでは40~50%においてスタンダードはリジッドより有意に高い筋活動を(p<0.05),50~60%においてアルミはリジッド,スタンダードより有意に高い筋活動を(p<0.05),60~70%においてスタンダードはアルミより有意に高い筋活動を(p<0.05),70~90%においてフレキシブルはリジッド,セミリジッドより有意に高い筋活動(p<0.01,0.05)を認めた。
【考察】
下腿三頭筋の筋緊張亢進が著明な症例に対して,可撓性の低い装具が底屈筋の筋緊張抑制に働くとの報告がある。本調査においても可撓性の高いフレキシブルを使用した際に,遊脚期において下腿三頭筋の有意に高い筋活動認めた。そのため底屈方向への可撓性が下腿三頭筋の緊張を亢進させた原因ではないかと考えた。痙性により生じる下腿三頭筋の筋緊張を抑制するためには,足関節背屈筋群の筋活動が重要であると述べられている。また,前脛骨筋の筋活動量に装具の底屈制御は影響しなかったと報告がある。本調査においても下腿三頭筋が有意に高い筋活動を示した時期において,装具の可撓性の違いによる前脛骨筋の筋活動に有意な差は認められなかった。また,フレキシブルを使用することで下腿三頭筋とともに内側広筋でも有意に高い筋活動を示した。よって,下腿三頭筋の筋緊張亢進に伴って足関節,膝関節の伸展パターンが出現したのではないかと考えた。これらのことから,下腿三頭筋の筋緊張亢進が認められる症例に対して可撓性の高い支柱を使用することで,下腿三頭筋の筋緊張亢進を助長する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
支柱の強度の変化が歩行時下肢筋活動に影響を示す可能性が示唆された。下腿三頭筋の筋緊張が高い症例は臨床上多い。装具の可撓性の違いに伴い下腿三頭筋の筋緊張を亢進,もしくは抑制する可能性があることを,下肢筋活動を測定し報告した点において意義がある。