第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習5

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0515] 当院におけるロボットスーツHALの歩行練習における即時効果について

工藤公晴, 西山保弘, 村井祥二 (医療法人社団仁泉会畑病院)

Keywords:HAL, 即時効果, 後期高齢者

【はじめに,目的】

近年,日本のロボット産業の急成長に伴い,医療,介護,福祉分野においてロボット技術が展開されてきている。リハビリテーション分野では,神経,筋活動を利用したロボティクスリハが活用された治療の期待が高まってきている。CYBERDYNE社製ロボットスーツHybrid Assistive Limb福祉用(以下,HAL)の臨床応用されてきている。しかし,使用頻度や適応疾患など,その有用性は確立されておらず,今後,日本の高齢化が急速に進みHALを活用した治療体系を確立する必要がある。本研究の目的は,1回20分間のHAL歩行練習で後期高齢者の歩行機能に与える即時効果を検証することにある。
【方法】

対象は,発症から半年以上経過し,HAL装着に理解を得られた当院外来・入院の独歩もしくは杖歩行可能な後期高齢患者15名(入院3名,外来12名,平均年齢81.26±7.47歳,性別男性6名,女性9名)である。疾患の内訳は脳血管疾患4名,運動器疾患9名,神経疾患2名である。対象には電極を両側使用したHALを装着して,20分間の歩行練習を実施した。時間は休憩を除く積算時間総数を20分とした。HAL装着前後の移動能力の検査項目として,①10m歩行時間,②10m歩数,③Timed up and Go Test(以下,TUG,)④Functional Reach Test(以下,FRT)である。1回の検査に測定は2回行い,その平均値を使用した。その他の検査として,①機能的自立度評価尺度(以下,FIM)②30秒間立ち上がりテスト(以下,CS-30)③Berg Balance Scale(以下,BBS)をHAL装着前のみ1回行った。統計処理はSPSS J13を用いて測定前後の移動能力評価を対応のあるt検定で分析したさらにt検定で最も高い項目を従属変数とし,その他の項目を独立変数とした単回帰分析,重回帰分析を行い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】

装着前後の各測定値の有意差(危険率)は,10m歩行時間P=0.0006,10m歩数P=0.03,FRTP=0.174,TUGP=0.07であった。次に,従属変数を装着後の10m歩行時間,独立変数を10m歩数,TUG,FRTの単回帰分析を行うと10m歩数(R=0.897)とTUG(R=0.086)に高い相関を認めた。独立変数に装着後の歩数,TUG,FRT,年齢,FIM,CS-30,BBSとした重回帰分析(強制投入法)は,重相関係数R=0.973,決定係数R2=0.946となった。さらに重回帰分析(ステップワイズ法)を行うと独立変数は歩数,TUG(R2=0.912)有意となった。年齢,FIM,CS-30,BBSの独立変数ではCS-30(R2=0.605)のみ寄与率が有意となった。
【考察】

先行研究では,大岡らは,維持期脳卒中患者で,1回のHAL歩行練習で,歩幅の増大及び歩行速度の改善が認めたと報告している。
本研究の結果は,後期高齢者においては短い20分間のHAL歩行練習により10m歩行時間の短縮及び歩数の減少(歩幅の増大)が認められた。また,即時効果は,単回帰分析,重回帰分析より歩数とTUGが独立変数として有意となり,その他の機能評価項目では,CS-30の立ち上がり機能が有意な関係となった。即時効果の10m歩行時間の短縮は,前方への推進力による歩幅の増大,TUGとCS-30に含まれる椅子から立ち上がり動作の敏捷性が効果出現に関与することが示唆される。要因として①HALの20分の歩行練習は通常の歩行練習よりもアシストされた能動性と随意性の要素が加わり,容易に歩行練習が可能。②効率的に反復された歩行練習により,運動学習効果が即時効果に繋がった。③渡邊らは,HAL即時効果は,HALの歩行練習により,電極に貼付された筋活動の増大によるものと述べ,CS-30で示唆される筋出力のポテンシャルが関与が考えられる。その結果,平均年齢81.26歳の後期高齢者が20分のHAL歩行練習で歩行時間の短縮や歩幅の増大などの即時効果に繋がったのではないかと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】

今回,後期高齢者に対する20分間のHAL歩行練習前後の即時効果を検証した。結果,歩行時間の短縮,歩数の減少が認められた。今後は症例数を増やし,HAL歩行練習がより信頼性の高い運動療法に繋がり,質の高い効果を患者に提供できるよう継続研究を続ける。