第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

生体評価学2

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0531] EC-FRT(functional reach test with eyes closed)に影響を及ぼす要因

井原雄彦1, 大田尾浩2, 八谷瑞紀2 (1.医療法人ひらまつ病院リハビリテーション科, 2.西九州大学リハビリテーション学部)

Keywords:高齢者, 重心移動距離, 下肢筋力

【はじめに,目的】Functional reach test(FRT)は,立位バランスの評価法として用いられている。しかし,FRTのみで転倒を予測するのは不十分との指摘もあることから,閉眼にて行うFRT(functional reach test with eyes closed:EC-FRT)が考案された。EC-FRTは,Berg balance scaleやTimed up and go test(TUG)との関連からFRTよりもバランス能力をより反映するとされている。また,EC-FRTの信頼性は高く測定誤差は少ないことが確認されており,加齢に伴うバランス能力の低下や高齢者の転倒リスクをEC-FRTの測定値は反映することが報告されている。しかしながら,EC-FRTの測定値はどのような能力を捉えた指標なのかは明らかにされていない。本研究の目的は,EC-FRTの測定値に影響を及ぼす要因を検証することである。
【方法】対象は,通所リハビリテーションサービスを利用する高齢者102名(平均年齢80.5±7.6歳,男性31名,女性71名)とした。対象の取り込み基準は自力での歩行が可能なこととし,研究参加への同意が得られなかった者は分析対象から除外した。測定項目は,EC-FRT,年齢,身長,体重,握力,大腿四頭筋筋力,開眼片足立ち,5m歩行時間,TUG,老健式活動能力指標とした。また,重心動揺計を用いて,EC-FRT測定時の両足圧中心移動軌跡を計測し,左右方向の両足圧中心移動距離,前後方向の両足圧中心移動距離,単位時間軌跡長を求めた。統計処理は,EC-FRTと各測定値の関連をピアソン相関分析による単変量解析にて説明変数を絞り込んだ。次に,EC-FRTに影響を及ぼす因子を抽出するために,従属変数をEC-FRT,独立変数は単変量解析で有意であった項目とし,ステップワイズ法による重回帰分析にて分析した。統計解析にはSPSS 21(IBM)を用いた。
【結果】EC-FRTと各測定項目とのあいだに有意な相関を認めたのは,握力(r=0.19,p<0.05),大腿四頭筋筋力(r=0.37,p<0.01),開眼片足立ち(r=0.21,p<0.05),5m歩行時間(r=-0.27,p<0.01),TUG(r=-0.33,p<0.01),前後方向の両足圧中心移動距離(r=0.27,p<0.01),老健式活動能力指標(r=0.22,p<0.05)であった。これらを独立変数とした重回帰分析を行った結果,EC-FRTに影響を及ぼす要因として選択された項目は,大腿四頭筋筋力(p<0.01)および前後方向の両足圧中心移動距離(p<0.05)であった。ANOVAは有意(p<0.001)であり,適合度はR2=0.43,多重共線性(VIF=1.01)に問題はなかった。Durbin-Watson比=2.08であり残差の異常はなかった。EC-FRTへの影響度を編回帰係数の大きさから判断すると,大腿四頭筋筋力(β=0.34),前後方向の両足圧中心移動距離(β=0.23)の順に強かった。
【考察】EC-FRTに影響を及ぼす要因を検討した結果,選択されたのは大腿四頭筋筋力と前後方向の両足圧中心移動距離であった。高齢者の転倒や動的バランス能力は,下肢筋力との強い関連があることが指摘されてきた。EC-FRTに影響を及ぼす要因に大腿四頭筋筋力が選択されたのは妥当であろう。また,従来のFRTにおいても足圧中心の移動距離と測定値とのあいだに関連があること報告されている(Duncan 1999)。このことから,EC-FRTに影響を及ぼす要因に前後方向の両足圧中心移動距離が選択されたのは妥当な結果であると思われる。本研究の結果からEC-FRTの測定値は,リーチ動作時の重心移動能力や下肢筋力を捉える指標であることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,EC-FRTは高齢者のバランス能力および下肢筋力を反映する指標であることが明らかとなった。このことから,EC-FRTは信頼性と妥当性が確認され,短時間で簡便に計測できることからも臨床的有用性が高い指標であることが確認された。