第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0541] Kinectを用いた歩行計測システム開発のための精度評価

安川洵, 増田正 (福島大学大学院共生システム理工学研究科)

キーワード:歩行分析, 歩幅, 定量的評価

【はじめに,目的】
加齢や疾患による歩行パラメータの変化を定量的に評価することは臨床現場において非常に重要であり,歩幅や立脚時間などのパラメータは多くの疾患において評価指標として用いられる。
一般的な評価方法には観察的分析があるが,信頼性の乏しさも指摘されており,臨床的に有用な歩行計測手段が求められている。従来の3次元動作解析装置ではセンサやマーカなどが必要だが,近年はマーカレスモーションキャプチャシステムの応用が期待されている。その中の一つであるMicrosoft社のKinectTM(以下,Kinect)は,赤外線ドットパターンを被写体に投射して得た深度画像から自動的に人体骨格モデル(スケルトン)を適合し,20個の関節点座標を計測することができる。
このKinectを利用することにより,臨床現場でも利用可能なマーカレスモーションキャプチャシステムが低コストで構築できるものと期待される。この目標に向かって,我々はKinectを用いた歩行計測システムを開発しており,今後の開発のための基礎実験として,今回はシステムの精度検証を行った。
【方法】
対象は健常成人男性3名(年齢21.7±1.5歳,身長176.3±3.5cm,体重66.3±3.1kg),計測機器はKinect一台,デジタルビデオカメラ(以下VC)2台,フットスイッチ(以下FS)を用いた。運動課題は7mの直線歩行路歩行とした。条件は①快適速度・快適歩幅,②速い速度・快適歩幅,③遅い速度・快適歩幅,④快適速度・広い歩幅,⑤快適速度・狭い歩幅の全5条件を各3試行実施した。Kinectから得られた左右の足関節点の位置情報を解析し,歩幅(以下SL,単位はm)と立脚時間(以下ST,単位はs)を算出した。また比較のために,歩幅はVC,立脚時間はFSを用いて計測した。歩幅は,床面に目印として格子状にテープを貼り,前方と側方からVCで撮影し,足部の接地位置を画像解析して求めた。FSはメンブレンスイッチを用いて自作し,母指球と踵の下に粘着テープで貼付けた。Kinectでは歩行周期中の正確な相分けが難しく,FSから得た立脚時間に対して大きくなることが予想されたため,FSの値に近づくよう補正を行った。
【結果】
以下では左右の数値を“右(標準偏差)/左(標準偏差)”と記載する。条件①において,SLについて,Kinectでは0.59(0.04)m/0.55(0.03)m,VCでは0.57(0.03)m/0.57(0.03)mだった。Kinectからの差は-0.02(0.04)m/0.02(0.04)mとなり,2cmの違いが見られた。条件②~⑤においても,KinectとVCとの差は0~5cmであった。データ数が少ないために統計解析は行っていないが,条件による大きな違いは見られなかった。3名の被験者間の違いも特段見られなかった。
STについては,条件①において,Kinectは0.83(0.04)s/0.81(0.04)s,FSでは0.69(0.02)s/0.66(0.02)sとなった。Kinectからの差は-0.14(0.05)s/-0.15(0.02)sであり,0.15s程度の差が見られた。条件②~⑤においても,KinectとFSとの差は0.10~0.16sであり,常にKinectの方が大きな値を示したが,条件による大きな違いはなかった。
STにおける違いを補正するために,3名の被験者の全ての条件におけるKinectとFSとの差の平均-0.13 s/-0.14 sを,各被験者,各条件でのKinectのSTから差し引いた。その結果を用いて改めてFSとの違いを計算すると,条件①では0.70 s/0.73 sとなった。これはFSに対して右2%と左10%の誤差であり,時間にして0.01sと0.07sであった。条件②~⑤でも右に比して左で誤差が大きくなったが,最大でも14%,0.11sの差であった。
【考察】
SLについてはVCとの差が2cm程度であったが,標準偏差が4cm程度見られた。今回の用いたKinectが自動抽出するスケルトンでは,全身の深度画像情報との適合性を優先していることが考えられる。そのため下腿や足部の部分的なモデルを独自で作り,深度画像を適合させることで精度の向上を図ることができると考えている。
Kinectから得られたST数値を補正すると,FSとの誤差は大きくても0.1秒程度の範囲に収まることから,臨床的な評価を行う上では有用であると考えられる。左右で精度に違いが生じたが,この点は計測範囲に入る足の順序を各試行で交互に入れ替えれば,Kinectからの距離が左右で異ならないようにすることで解消できると考えられる。
Kinectでは被写体までの距離の制限があるので,10mの歩行路を1台のKinectでカバーすることはできない。そのため,複数台のKinectを連動させ,歩行路全体での計測が行えるようにするためのソフトウェアも開発中である。
【理学療法学研究としての意義】
本システムの開発は,臨床現場において定量的かつ効率良く歩行評価を実施するために重要である。