[P2-C-0559] 当院における人工膝関節全置換術術後の身体機能変化とホームエクササイズとの関連性
Keywords:人工膝関節全置換術, 身体機能変化, ホームエクササイズ
【はじめに,目的】
現在,当院で片側の人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後症例は約2週間で退院となる。早期の社会復帰を目指し,入院中からホームエクササイズ(以下,HE)を指導し,退院後も継続的に実施するよう指導している。そこで本研究の目的は,HEがTKA術後症例における退院後の身体機能変化に及ぼす影響について明らかにすることである。
【方法】
対象者は平成25年5月~平成26年4月に当院で変形性膝関節症と診断され片側のTKAを施行した症例で,HE実施のアンケートの回答を得られた39例(男性8例,女性31例)で,平均年齢76.3±6.5歳(64-87歳)であった。また,対象者は,退院時に歩行補助具で歩行自立しているものとした。
対象者に対し,術後2週目(退院時),術後8週目に膝関節可動域(以下,ROM),運動時疼痛,10m最大歩行速度(以下,10mMWS)を測定した。また,それぞれの項目において術後2週目(退院時)から8週目の差を求め,改善値とした。膝関節ROMは他動運動での屈曲伸展最終域の値を測定した。運動時疼痛,歩行時痛はVisual Analog Scaleを用いて測定した。10mMWSは,歩行補助具の使用を許可し,2回測定し,最速値を実測値とした。HEの実施状況は記述式の評価用紙を用い,毎日実施時間を記入した。HEの内容は膝関節可動域練習(屈曲・伸展),歩行練習を指導した。
HEにおいて,膝関節屈曲練習は上肢を下腿前面で組み,後方へ引き寄せるようにして膝関節を屈曲させ最終可動域で15秒間止め,これを繰り返しゆっくりと行うように指導した。膝関節伸展練習は上肢(手掌)で膝関節前面を押すようにして膝関節を伸展させ,最終可動域で15秒間止め,これを繰り返しゆっくりと行うよう指導した。歩行練習は無理のない範囲で歩くこと,さらに日常生活動作の中でも可能な限り歩くように指導した。
統計処理はHE実施時間と術後2週目(退院時)~術後8週目の改善値の関連性にはSpearmanの順位相関係数を,術後2週目(退院時)と術後8週目の各項目の比較にはWilcoxonの符合付順位和検定を用いた。解析ソフトにはSPSS15.0を使用し,有意水準はp<0.05とした。
【結果】
HEの1日の平均実施時間は,膝関節屈曲練習で28.1±25.0分,膝関節伸展練習で25±25.9分,歩行練習で53.1±46.0分であった。各項目においてHEを全く行わなかった症例はいなかった。
身体機能として,術後2週目(退院時)の平均値は屈曲ROM118.6±15.6°,伸展ROM-2.9±3.5°,10mMWS 9.2±3.4秒,屈曲時疼痛58.2±28.1mm,伸展時疼痛22.9±29.3mm,歩行時疼痛9.1±17.9mmであった。術後8週目の平均値は屈曲ROM131.1±13.2°,伸展ROM-2.9±4.5°,10mMWS 7.9±3.4秒,屈曲時疼痛26.4±26.9mm,伸展時疼痛13.3±22mm,歩行時疼痛1.5±7.2mmであった。改善値の平均値は屈曲ROM12.4±16.0°,伸展ROM-0.02±4.7,10mMWS1.3±1.7秒,屈曲時疼痛31.8±39.2mm,伸展時疼痛9.5±32.3mm,歩行時疼痛7.6±17.2mmであった。
HE実施時間と術後2週目(退院時)~術後8週目の改善値の関連性は,屈曲ROM,伸展ROM,10mMWS,屈曲時疼痛,伸展時疼痛,歩行時疼痛と全ての項目でHE実施時間に対する改善値の相関はみられなかった。
しかしながら,身体機能の変化は,術後2週目(退院時)と術後8週目を比較した結果,屈曲ROM(p<0.01),10mMWS(p<0.01),屈曲時疼痛(p<0.01),歩行時疼痛(p<0.01)で有意な差が認められた。しかし,伸展ROMと伸展時疼痛には有意差が認められなかった。
【考察】
HEにおいては,同一疾患でも障害の程度に差があり実施されるエクササイズの質と量の個人差が大きいことや,日常生活において活動とエクササイズを明確に区分することが難しいと言われている。本研究においてもHE実施時間については個人で差が大きかった。したがって,HEの効果を客観的に判断することは容易ではないと考える。今回の研究ではHE実施時間と各評価項目の改善値との相関は認められなかった。しかし,全症例においてHEを実施しており,身体機能変化を比較すると屈曲ROM,10mMWS,屈曲時疼痛,歩行時疼痛に有意な改善を認め,HEの実施が身体機能の改善に繋がり,効果がある可能性が示唆された。アンケートにおいてHEを全く実施していない場合の回答を得ることができなかったため,今後はHEに非協力的な群と協力的な群とで,さらにHEの効果を明らかにする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究ではHE実施時間と術後の身体機能の改善に関連性が認められなかったが,HE,それ自体の実施は身体機能の改善をさせる可能性が示唆された。
現在,当院で片側の人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後症例は約2週間で退院となる。早期の社会復帰を目指し,入院中からホームエクササイズ(以下,HE)を指導し,退院後も継続的に実施するよう指導している。そこで本研究の目的は,HEがTKA術後症例における退院後の身体機能変化に及ぼす影響について明らかにすることである。
【方法】
対象者は平成25年5月~平成26年4月に当院で変形性膝関節症と診断され片側のTKAを施行した症例で,HE実施のアンケートの回答を得られた39例(男性8例,女性31例)で,平均年齢76.3±6.5歳(64-87歳)であった。また,対象者は,退院時に歩行補助具で歩行自立しているものとした。
対象者に対し,術後2週目(退院時),術後8週目に膝関節可動域(以下,ROM),運動時疼痛,10m最大歩行速度(以下,10mMWS)を測定した。また,それぞれの項目において術後2週目(退院時)から8週目の差を求め,改善値とした。膝関節ROMは他動運動での屈曲伸展最終域の値を測定した。運動時疼痛,歩行時痛はVisual Analog Scaleを用いて測定した。10mMWSは,歩行補助具の使用を許可し,2回測定し,最速値を実測値とした。HEの実施状況は記述式の評価用紙を用い,毎日実施時間を記入した。HEの内容は膝関節可動域練習(屈曲・伸展),歩行練習を指導した。
HEにおいて,膝関節屈曲練習は上肢を下腿前面で組み,後方へ引き寄せるようにして膝関節を屈曲させ最終可動域で15秒間止め,これを繰り返しゆっくりと行うように指導した。膝関節伸展練習は上肢(手掌)で膝関節前面を押すようにして膝関節を伸展させ,最終可動域で15秒間止め,これを繰り返しゆっくりと行うよう指導した。歩行練習は無理のない範囲で歩くこと,さらに日常生活動作の中でも可能な限り歩くように指導した。
統計処理はHE実施時間と術後2週目(退院時)~術後8週目の改善値の関連性にはSpearmanの順位相関係数を,術後2週目(退院時)と術後8週目の各項目の比較にはWilcoxonの符合付順位和検定を用いた。解析ソフトにはSPSS15.0を使用し,有意水準はp<0.05とした。
【結果】
HEの1日の平均実施時間は,膝関節屈曲練習で28.1±25.0分,膝関節伸展練習で25±25.9分,歩行練習で53.1±46.0分であった。各項目においてHEを全く行わなかった症例はいなかった。
身体機能として,術後2週目(退院時)の平均値は屈曲ROM118.6±15.6°,伸展ROM-2.9±3.5°,10mMWS 9.2±3.4秒,屈曲時疼痛58.2±28.1mm,伸展時疼痛22.9±29.3mm,歩行時疼痛9.1±17.9mmであった。術後8週目の平均値は屈曲ROM131.1±13.2°,伸展ROM-2.9±4.5°,10mMWS 7.9±3.4秒,屈曲時疼痛26.4±26.9mm,伸展時疼痛13.3±22mm,歩行時疼痛1.5±7.2mmであった。改善値の平均値は屈曲ROM12.4±16.0°,伸展ROM-0.02±4.7,10mMWS1.3±1.7秒,屈曲時疼痛31.8±39.2mm,伸展時疼痛9.5±32.3mm,歩行時疼痛7.6±17.2mmであった。
HE実施時間と術後2週目(退院時)~術後8週目の改善値の関連性は,屈曲ROM,伸展ROM,10mMWS,屈曲時疼痛,伸展時疼痛,歩行時疼痛と全ての項目でHE実施時間に対する改善値の相関はみられなかった。
しかしながら,身体機能の変化は,術後2週目(退院時)と術後8週目を比較した結果,屈曲ROM(p<0.01),10mMWS(p<0.01),屈曲時疼痛(p<0.01),歩行時疼痛(p<0.01)で有意な差が認められた。しかし,伸展ROMと伸展時疼痛には有意差が認められなかった。
【考察】
HEにおいては,同一疾患でも障害の程度に差があり実施されるエクササイズの質と量の個人差が大きいことや,日常生活において活動とエクササイズを明確に区分することが難しいと言われている。本研究においてもHE実施時間については個人で差が大きかった。したがって,HEの効果を客観的に判断することは容易ではないと考える。今回の研究ではHE実施時間と各評価項目の改善値との相関は認められなかった。しかし,全症例においてHEを実施しており,身体機能変化を比較すると屈曲ROM,10mMWS,屈曲時疼痛,歩行時疼痛に有意な改善を認め,HEの実施が身体機能の改善に繋がり,効果がある可能性が示唆された。アンケートにおいてHEを全く実施していない場合の回答を得ることができなかったため,今後はHEに非協力的な群と協力的な群とで,さらにHEの効果を明らかにする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究ではHE実施時間と術後の身体機能の改善に関連性が認められなかったが,HE,それ自体の実施は身体機能の改善をさせる可能性が示唆された。