第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

足部・足関節

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0605] 骨盤骨折患者の立ち上がり動作における重心移動の特徴

西脇寿弥, 河石優, 沖山努 (神戸リハビリテーション病院)

Keywords:立ち上がり, 骨盤, 重心

【はじめに,目的】
立ち上がり動作は,殿部から足部への円滑な重心移動が必要な動作であり,理学療法において,立ち上がり動作の特徴を捉えることは,有用であると考える。しかし,立ち上がり動作時の重心移動に関する研究で,整形疾患等の運動機能障害を持つ患者を対象とした研究は少ない。今回,骨盤骨折により,立ち上がり動作に異常を呈した症例を経験した。本症例について,立ち上がり動作時の重心軌跡を,重心動揺計を用いて評価し,理学療法介入による立ち上がり動作の改善に伴ったそれらの変化の過程を検討した。
【方法】
症例は,50歳代後半の女性で,身長157cm,体重42.0kg,BMI17.0%であった。平成26年8月1日に交通事故により受傷し,左恥骨・仙骨骨折の診断を受け,保存療法を行った。8月22日にリハビリテーション目的にて当院回復期病棟に入院となり,10月までの約2か月間理学療法を実施し自宅退院となった。
立ち上がりにおける重心移動の測定には,重心動揺計(ANIMA Coporationプレート式下肢荷重計ツイングラビコーダGP-6000)を使用した。立ち上がり時の座面を45cmに設定し,重心動揺計のプレートを殿部と足部に1枚ずつ計2枚設置した。そして,各プレートのデータを総合して動作時の重心(center of pressure:COP)位置を算出した。立ち上がりの方法は両上肢を使用せず,こちらから合図した後に,自分のタイミングで立ち上がりを開始するように指示した。測定は,医師より全荷重の許可が出た直後,2週間後,4週間後の計3期で実施した。重心動揺計のデータより,立ち上がり動作前の座位時におけるCOPの左右変位距離,立ち上がり動作の離殿時におけるCOPの左右変位距離,立ち上がり開始から離殿までのCOP前方移動距離,安静立位時のCOP左右変位距離をそれぞれ算出した。立ち上がり動作時のCOP測定は連続して3回実施し,各項目の値はそれらの平均値とした。また,同時期での歩行能力の指標として,10m歩行時間を測定した。
【結果】
立ち上がり動作前の座位におけるCOPは,初期では正中位に対し右側へ1.02±0.16mm,2週間後は0.86±0.39mm,4週間後は左側へ0.32±0.25mm変位していた。立ち上がり動作の離殿時COPは,初期は右側へ0.94±0.57mm,2週間後は0.60±0.34mm,4週間後は0.30±0.53mmに変位していた。立ち上がり開始から離殿時におけるCOPの前方移動距離は,初期では17.65±0.82mm,2週間後は15.96±0.43mm,4週間後は15.11±0.17mmであった。安静立位時のCOPは,初期では右側へ1.20±0.20mm,2週間後は0.21±0.18mm,4週間後は左側へ0.05±0.18mmに変位していた。10m歩行時間は,初期に90.28±1.59秒,2週間後は10.70±0.18秒,4週間後に8.58±0.17秒となった。
【考察】
立ち上がり動作前の座位時と,立ち上がり動作の離殿時におけるCOPは,初期に大きく右側に変位していたが,2週間後,4週間後と進行するにつれて,徐々に正中位へと近づいている。また,立ち上がり開始から離殿時におけるCOPの前方移動距離は,初期時に比べて,2週間後,4週間後で徐々に短くなっている。これらから,初期では立ち上がり動作時に,左坐骨への荷重が困難であった為,離殿時に左下肢の参加乏しく,これを代償する為に体幹を強く屈曲する事で,COPの前方移動距離を延長させ,推進力を増大させていたと推測できる。これに対し治療の進行に伴い,左坐骨への荷重が可能となった為,COPをより正中位に維持したまま離殿でき,体幹を強く屈曲する代償が軽減したと考える。
安静立位時のCOPは,2週間後においてほぼ正中位となっており,さらに10m歩行時間も同時期に著明な改善を認めている。しかし,立ち上がり動作前の座位時と,立ち上がり動作の離殿時におけるCOPでは,2週間後においても安静立位時と比較して,依然右側へ大きく変位している。これより,立位や歩行における正中性は,比較的早期から改善されるものの,立ち上がり動作においてはCOPの非受傷側への偏りが残存している事を表している。すなわち,立位や歩行とは異なり,立ち上がりが体重を骨盤で直接支持する動作であり,骨盤骨折としての特徴を示していると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,骨盤骨折により立ち上がり動作時の円滑な重心移動が困難となる事が明らかとなった。また,動作時における重心の非受傷側への偏りは,立位や歩行に比べて立ち上がり動作において残存する傾向がある事が示唆された。この事から,理学療法場面において,立ち上がり動作時のCOP軌跡を評価する事は,立ち上がり動作の特徴を捉えることに有用であると考える。