第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

肩関節・徒手療法

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0611] Patellofemoral Pain Syndromeに対するClinical Prediction Ruleの適応

佐々木雄大, 近良明 (こん整形外科クリニック)

Keywords:Patellofemoral Pain Syndrome, テーピング, Clinical Prediction Rule

【はじめに,目的】
Patellofemoral Pain Syndrome(PFP)は膝の痛みの中で最も多い訴えの一つであり,その数は膝の傷害全体の25%にのぼる。また先の報告によればその半数近くが変形性関節症性の変化を起こすことが報告され,年齢を問わず問題を抱えている患者が多い。PFPの治療には股関節の筋力強化や膝蓋骨へのテーピング,足底板,大腿四頭筋の再教育などが挙げられる。しかし,それぞれの治療の実施基準ははっきりしたものがないのが現状である。LesherらはPFPに対するテーピングに関するClinical Prediction Rule(CPR)を開発し,テーピングを使用した治療を行う際の一種の基準を提案している。それによれば膝の内反角5°以上またはLateral Patellar Tilt sign陽性のいずれかがあればテーピングを用いた治療の効果が期待されやすいとしている。今回,PFPを有する複数の対象者に対してテーピングを実施し治療の効果予測におけるCPRの有効性について検討を行ったので報告する。
【方法】
PFPを有する15~60歳の男女13名を対象とした。PFPの基準は,ランニングやしゃがみ込みなどの荷重動作時の膝前面の痛みを主訴として来院した者とした。また神経学的兆候,過去2~3週以内の膝外傷歴,関節裂隙または膝蓋腱の圧痛,靭帯の弛緩性,膝の手術歴,神経疾患,結合組織異常,妊娠が疑われるものは除外した。治療に先立ち対象者は上記のLesherらのCPRを満たす者を陽性群,それ以外の者を陰性群として分類した。全ての対象者にはしゃがみ込み,20cm台昇り,20cm台降りのいずれかの動作を行ってもらい,その際の痛みの程度をNumerical Pain Scale(NRS)を用いて確認した。また治療後に同様の動作を行った際の痛みの程度をNRS,変化の程度をGlobal Rating of Changing(GRC)を用いて確認を行った。治療はMcConnellの方法に従い,リジッドテープ(Leukotape®,BSN medical)を用いて膝蓋骨に内側方向へのグライドを加えるようにテーピングを行った。
【結果】
13名中CPRが陽性となったものは6名,陰性であったものは7名であった。それぞれの群のテープ実施前のNRSは陽性群4.40(±2.61),陰性群5.13(±2.64)であった。テープ実施後のNRSは陽性群2.50(±2.18),陰性群1.19(±1.35)であった。またGRCはそれぞれ陽性群2.83(±1.17),陰性群2.75(±1.98)であった。
【考察】
LesherらはPFPに対するテーピングのCPRとして膝内反角5°以上とLateral Patellar Tilt sign陽性を挙げ,いずれかが陽性な場合では52~83%の割合で治療効果が期待されるとしている。本研究ではCPR陽性群,陰性群ともにNRS,GRCが改善していた。先行研究によればGRCは2以上の変化があれば臨床上意味のある変化を示しているとされる。よって本研究で対象とした陽性群・陰性群ともに十分な治療効果が得られたと考えられる。しかし両群の効果には目立った差は観察されず,治療効果を予測するツールとしてのCPRの使用には疑問が残る結果となった。先行研究によれば,本研究で実施した膝内反角5°以上とLateral Patellar Tilt sign陽性に反する内容をPFPの関連因子として報告しているものもある。腸脛靭帯の短縮やQ角の増加などが挙げられる。よって,他の因子がPFPに対するテーピングの効果に影響を与えている可能性も考えられる。これについては今後新たな予測因子も含めた再検討が望まれる。またHinmannらの研究ではグライドを加えずに貼付したテーピングでも痛みの減少が観察された。その理由としてPFPへのテーピングは膝の運動軌道の改善よりも皮膚感覚による影響を受ける可能性があることを考察している。またMcConnellは患者の症状に応じてテープの貼付方向は修正すべきだと説明している。本研究でもこれらの因子が痛みに影響したものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
PFPに対するテーピングを用いた治療は効果的である。しかしその効果を予測するツールであるCPRは現時点では臨床適応を行うには十分ではないものと考えられた。これはPFPの原因となる身体機能因子の多様性によるものが影響しているものと推察され,今後PFPに関連すると思われるその他の因子も含めたCPRの再検討が望まれる。