第50回日本理学療法学術大会

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発達障害理学療法2

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0632] 先天性心疾患術後の血圧変動に伴う低酸素性脳症後遺症として片側性にジストニアを呈した児の症例報告

並木裕美, 北原エリ子 (順天堂大学医学部附属順天堂医院リハビリテーション室)

キーワード:小児, 低酸素性脳症, ジストニア

【はじめに,目的】
新生児期発症を除く後天性小児低酸素性脳症は窒息,心停止,呼吸停止,重篤な不整脈,著明な血圧低下などによって起こる。急性の脳虚血では,代謝活性が盛んで,興奮性神経伝達物質が豊富な基底核,視床,脳幹,海馬,皮質錐体路(中心溝)に病変を認めることが知られている。また運動機能障害はアテトーゼ型脳性麻痺,痙性四肢麻痺,弛緩性四肢麻痺,失調症が多く,また高次機能障害を有するものや,重症例では癲癇や嚥下障害も高頻度に合併するといわれている。今回,先天性心疾患術後の血圧変動に伴う低酸素性脳症後遺症として片側性の持続筋収縮を特徴とするジストニアを呈した症例を担当する機会を得た。このような片側性にジストニアを呈した症例についての報告はなく,発症から1年の経過を報告する。
【方法】
症例紹介:出生前に房室中隔欠損症,両大血管右室起始症と診断。在胎38週3日,体重3202g,Apgar score8/9,帝王切開にて出生。生後二回の心臓手術を施行。酸素投与1L/分でSpO280台後半,運動機能,精神機能共に年齢相応に発達していた。2歳8ヶ月時,心臓の根治手術(Fontan術+共通房室弁形成術)を施行。術後翌日に合併症による血圧低下を認めた。頭部MRI画像にて大脳皮質,基底核,淡蒼球及び一部脳幹に高吸収域を認め,低酸素性脳症と診断された。術後10日より理学療法を開始,術後71日退院。術後96日から5週間,リハビリテーション目的で他院に母子入園。その後当院外来リハを継続。
【結果】
初期 術後20日:HR 96,SpO2 100% 酸素1L/分投与 理学療法評価:意識清明,発話は困難。随意運動は右上肢のわずかな範囲のみで,寝返り困難。体幹低緊張及び左上下肢屈曲の持続的筋収縮を呈した。Modified Ashworth Scale(以下MAS);左肘関節屈伸3点,左足関節底背屈3点。脊柱右凸の非対称な後弓反張位。不機嫌なことが多く,睡眠障害を認めた。また筋緊張に変動があり,精神的緊張を緩める働きかけにより一時的に軽減を,不安や不快刺激で増悪を認めた。治療は座位バランス練習や両親へ四肢のマッサージや介助座位練習の指導などを行った。
中期 術後4か月:HR 96,SpO2 100% 酸素1L/分投与 理学療法評価:独歩(10m歩行速度:49秒7,歩数40歩)が可能,MAS;左肘関節屈伸3点,左足関節底背屈2点。歩容は全歩行周期を通して腰椎前弯,左上肢屈曲,左下肢内反尖足のパターンを認めた。左上肢は随意運動が末梢まで可能となったが,情動の変化や右上肢の随意活動時は固く握り非常に強い抵抗を示した。田中ビネー知能検査Vでは約半年の遅れを認めた。治療は左上肢の持続的伸張を他動的に行い,二次的障害の予防と肘の選択運動を促した。また立位バランス練習,体幹筋の活性化,歩行練習を行った。
後期 術後1年:HR 100,SpO2 100% 酸素投与なし理学療法評価:室内走行が可能。(10m歩行速度:10秒62,歩数29歩)MAS;左肘関節屈伸2点,左足関節底背屈2点。歩容は中期と同様の定型的なパターンを呈し,疲労度によって内反足が増悪しバランスを崩すなどの変動を認めた。左上肢は自発的に補助手として使用する場面が増えた。注意は断続で,行動は多動傾向であった。治療は鋏や食事動作など協調的な両手操作や集中して取り組む課題を行い,運動負荷量や環境設定に配慮をした。
術後4か月と術後1年の子供の能力低下評価表(以下PEDI)を尺度化スコアにて比較すると,(機能的スキル)セルフケア:39.6→51移動:34.7→54.8社会的機能:38.8→46.2(介護者による援助)セルフケア:29.2→41.1移動:45.8→60.3社会的機能:31.6→29.9と,特に移動の領域で改善を認めた。また術後1年の絵画語彙発達検査では語彙年齢5歳11か月であった。
【考察】
低酸素性脳症の病変は両側対称性例が多いが,本症例では術後4か月の頭部MRI画像にて脳室拡大,右基底核T1高信号域,基底核萎縮,皮質の異常信号の左右差が確認され,片側性優位に症状が出現していたと考えられる。術後初期には上肢の筋緊張亢進が痙直によるものか,ジストニアであるか評価が困難であったが,経過とともにジストニア症状であると評価された。MRI画像においても基底核病変が明らかであり,片側ジストニア症状であることが裏づけられた。項目によりばらつきのある認知機能に配慮したジストニアに対する理学療法アプローチの継続が重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
低酸素性脳症後遺症としてジストニアを呈した症例に対して,理学療法士が把握すべき情報として,易疲労と運動調節機能の関係について検討課題を示す症例報告として意義があると考える。