第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

発達障害理学療法3

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0641] 脳性麻痺者における静止立位時の注意の向け方の違いによる姿勢制御について

山本紘靖, 坂本真一, 林瑞穂, 中田和典, 田中美枝子, 増子裕介, 笠間公栄, 荒川高志, 神前智一, 田中麻香 (普門院診療所リハビリテーション科)

Keywords:注意, 重心動揺, 脳性麻痺

【はじめに】立位練習の場面において姿勢を正すような指示や正面をみるよう視線誘導することがあるが,脳性麻痺者(以下CP者)のリハビリ場面では口頭指示で余計にふらついてしまうことがしばしばみられる。逆に目標物へのタッチや落とさないようモノを持つことで立位が安定することもある。またWulfら(2007)など運動遂行中に注意を身体内部に向けるか,身体外部に向けるかによって,その運動パフォーマンスや運動学習に及ぼす影響が異なるという研究も多数ある。今回は注意の焦点化に着目し,健常成人とCP者で注意を内的及び外的に向けた静止立位での重心動揺を測定し,比較検討したので報告する。
【方法】対象は健常成人6名(年齢28.8±5.9歳),CP者6名(両麻痺,年齢14.3±3.9歳)。CP者は計測内容や指示が理解可能であった。重心動揺検査は,対象者が裸足で両足内側を接して直立し,2m前方の目の高さに固定した小さい指標を30秒間注視した状態で重心動揺計(ZEBRIS Win-PDM)用いてサンプリング周波数60Hzにて測定した。また疲労と学習効果に配慮し,各測定のインターバルは2分間とした。計測条件は①前方注視のみ,②身体ができるだけ動かないよう指示(内的焦点),③水を注いだコップを載せたお盆を把持する(外的焦点),の3つとした。計測パラメータはスタティック分析として健常成人と脳性麻痺者で課題毎に,総軌跡長及び矩形面積,実効値面積の平均値を算出した。①をコントロール群とし,それぞれ対応のないT検定(p<0.05)し,比較検討した。
【結果】健常成人において総軌跡長(mm)は①533.15±116.63,②494.75±115.79,③478.68±101.91で,①に比べどちらの条件でも有意に減少した。矩形面積(mm2)は①539.42±251.33,②504.11±119.4,③354.43±144.7で,①に比べ③で有意に減少したが②は有意差が認められなかった。実効値面積(mm2)は①140.81±55.34,②110.25±29.66,③101.46±46.75で,①に比べ②③で有意に減少した。CP者において総軌跡長(mm)は①998.63±733.21,②1343.48±1515.49,③743.85±335.06,矩形面積(mm2)は①3383.64±5304.06,②3845.85±5749.23,③1337.89±947.02,実効値面積(mm2)は①354.75±256.21,②422.6±240.37,③282.09±168.43で,全てのパラメータにおいて①に比べ②で有意に増加し③で有意に減少した。
【考察】総軌跡長は立位時の重心動揺量を示し,矩形面積は重心の移動した範囲を縦(Y軸最大値)と横(X軸最大値)の積の長方形で示す。また実効値面積は外れ値を除外した円状で重心動揺範囲を示し,減少した際にはより細やかな姿勢制御への変化を示す。健常成人において総軌跡長は②③で有意に減少し,重心動揺量の減少と立位バランスの向上を認めた。実効値面積は②③で有意に減少したことより重心動揺範囲の狭小化とより細やかな姿勢制御への変化を示した。しかし矩形面積は②で有意に減少せず,注意を身体内部に向けること自体が意識的な要素を多く含むため,制動しきれないイレギュラーな動揺の発生することが示唆された。CP者において全てのパラメータが②で有意に増加したことは身体内部に注意を向けることが重心動揺量と重心動揺範囲を増加させ,立位バランスの低下を認めた。それはCP者では立位保持すること自体に注意が配分されるため身体内部に注意を向けることが過負荷であったこと,また疾患特性や特異的な成長発達様式の影響で身体内部への注意が向きにくいこと考えた。また全てのパラメータが③で有意に減少したことは注意の外的焦点がCP者の立位バランスの安定に寄与することを示した。またCP者は健常者に比べ標準偏差値が大きかった。これは各個人でのばらつきを示し,立位保持における対応に個人差があることを示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究によりCP者は健常成人と異なった立位姿勢制御をしていることが分かった。CP者において注意を身体内部へ向けることはかえってバランスを崩すことにつながったが,その部分はリハビリでアプローチしていく必要がある課題であり,治療場面に応じて注意の焦点を使い分けてプログラムに生かしていきたい。今後は身体外部への効果的な注意の促し方の検討とともに,脳性麻痺の疾患特性を踏まえた身体内部への注意の促し方と自動的で効率的な姿勢制御へのアプローチを患者の内的表象を参考に検討していきたい。