第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0719] 若年成人における身体活動が実行機能に与える影響

―第一報―

池田翔1,2, 松田憲亮3, 小林拓3, 中原雅美3, 黒澤和生4 (1.医療法人社団高邦会高木病院, 2.国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健医療学専攻, 3.国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科, 4.国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科)

キーワード:身体活動量, 実行機能, 脳血流量

【はじめに,目的】
近年,高齢者の認知症に対する取り組みが急務となってきている。認知症は脳の非可逆的変化であり,予防が非常に重要であると考えられる。認知機能低下のひとつに前頭葉の実行機能低下がある。これまでの疫学調査においては,運動を習慣的に実施すると認知症発症の抑制や遅延に効果があることが示され,高齢者における日常生活の身体活動が認知機能に影響を与えることが報告されている。しかし,先行研究においては若年者での運動介入前の身体活動量と実行機能の関係を報告しているものは散見されない。本研究の目的は若年成人において身体活動量の違いによる実行機能と関連する脳領域の血流量を比較し,身体活動が実行機能へ与える影響を検討することとした。
【方法】
対象は健常大学生40名とした(20.4±1.1歳,男性25名,女性15名)。身体活動量はSUZUKEN社製KenzライフコーダPULSを用いて計測を行った。計測期間は1週間,計測項目は運動量,歩数,活動時間,総消費量の4項目とした。計測した平均歩数から一日7500歩以下をLOW群,7500~10000歩以下をMIDDLE群,10000歩以上をHIGH群として群別した。実行機能はStroop課題を用いて計測した。課題は2種類であり,難度の低いNeutral課題と難度の高いIncongruent課題で構成した。各課題の回答までの反応時間を計測し,Incongruent課題の反応時間からNeutral課題の反応時間を引いたStroop干渉処理時間を実行機能の値とした。Stroop課題中の脳血流量の計測は近赤外分光(NIRS)にて計測した。日立メディコ社製ETG4000を使用し,計測部位は国際10-20法に基づき左前頭前野背外側部(DLPFC)周辺(FT7)とした。Incongruent課題中のoxy-Hb変化量からNeutral課題中のoxy-Hb変化量を引いた値をStroop干渉中の脳血流量の値とした。また,視覚的注意や視覚運動協調性などの検査としての計測としてTrail Making Test(TMT)を行った。統計学的処理はSPSS Statistics 22を使用し,有意水準はすべて5%未満とした。はじめに歩数による各群の群別を行った。Stroop課題の反応時間(Neutral課題,Incongruent課題),Stroop干渉処理時間,TMT(TMT-A,TMT-B,B-A,B/A比),Stroop課題中のFT7・F3領域のoxy-Hb変化量,Stroop干渉処理中のFT7・F3領域のoxy-Hb変化量に対して一元配置分散分析を行った。各群間に有意差を認めた場合,Tukeyの多重比較検定を用いて各群間の比較検討を行った。
【結果】
歩数による群別の結果,LOW群が12名,MIDDLE群が18名,HIGH群が10名となった。一元配置分散分析の結果,Stroop課題の反応時間(Neutral課題,Incongruent課題),Stroop干渉処理時間,Stroop干渉処理中のFT7領域のoxy-Hb変化量に有意差を認めた。Tukeyの多重比較検定の結果,HIGH群はMIDDLE群よりNeutral課題・Incongruent課題の反応時間,Stroop干渉処理時間は有意に低く,FT7領域におけるNeutral課題・Incongruent課題中のoxy-Hb変化量では有意に大きな値を示した。HIGH群はLOW群よりStroop干渉処理中のFT7領域のoxy-Hb変化量において有意に大きな値を示した。
【考察】
若年成人にて身体活動量の違いとStroop干渉処理時間とStroop課題中の脳血流量を比較検討した。本研究で用いたStroop課題は特に実行機能を反映するとされている。HIGH群ではStroop干渉処理時間が短く,Stroop課題中の関連領域であるFT7のoxy-Hb変化量が有意に高かった。高い身体活動を維持することは認知機能低下,認知症リスクのオッズ比を軽減することができるとされている。NIRSにおけるoxy-Hb濃度の上昇は神経活動の活性を意味する。高い身体活動量は神経新生と血管新生の増殖を増加させ,脳内の神経伝達物質の機能を変化させることができるとされている。運動はシナプス可塑性に関連する因子の発現を増加させ,特にグルタミン酸作動システムが強化される。グルタミン酸はニューロンの活動を活発にすることや,これまで結合したことのないニューロンの結合を促進させる作用を持つ。若年成人において高い身体活動を維持することにより,脳機能ネットワークの連結を向上させ,Stroop課題の関連領域であるDLPFCと他連合野の情報処理を円滑にすることができたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,高い身体活動量の若年成人において脳内の情報処理過程を円滑に行うことができることが示唆された。身体活動が若年成人の実行機能に影響を与える可能性があり,高い身体活動量を維持することで認知機能低下予防に対する一助になると考えられる。