第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

がん

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0725] 消化器がん患者に対する周術期理学療法の実施状況

三縄智栄, 渡辺拓也, 小林寿絵, 小西聡宏, 上杉上, 水落和也 (横浜市立大学附属病院リハビリテーション科)

Keywords:癌, 開胸開腹術後, 実施状況

【はじめに,目的】

がん患者に対する開胸開腹術後のリハビリテーション(以下リハ)は,がんのリハビリテーションガイドラインにより術後早期からの介入が推奨されている。しかし,消化器がんに対する手術は侵襲が大きく,術後合併症などによる理学療法(PT)依頼の遅延や,種々の理由でPT実施を休止する場合や一定期間の中止をしばしば経験する。そこで,本研究では開胸開腹術を施行した消化器がん患者に対する術後の休止回数,休止理由を明らかにすることを目的とする。

【方法】

対象は2012年4月~2014年3月の期間に,当院の消化器・肝移植外科,一般外科で消化器がんに対して手術を行い当科に依頼のあった107名のうち,開胸開腹術を施行した61例である。緊急手術,腹腔鏡下手術を施行した例は除外した。調査方法は診療録より後方視的に調査とし,調査項目は属性,がん原発巣,在院日数,手術からPT開始の期間,PT開始から退院までの期間,転帰,PT内容(実施回数,休止回数,休止理由,プログラム,実施上の配慮点),動作・歩行能力の推移とした。また,PTを1回以上休止した対象を休止群,休止しなかった対象を非休止群とし,調査項目の差異を検討した。

【結果】

対象の属性は男性44名,女性17名,年齢は77(72-82)歳であった。がんの原発巣は,胆道13名,食道13名,肝臓12名,膵臓10名,胃6名,小腸2名,大腸5名だった。休止群(30名)/非休止群(31名)で表記する。年齢は75.5(69-79.5)歳/79(73-83)歳,癌の原発巣では胆道が10/3名,食道7/6名,膵臓6/4名,肝臓4/8名,胃2/4名,小腸0/2名,大腸1/4名だった。在院日数は60.5(32-81.25)日/30(21-52)日,手術からPT開始までは13.5(6-21)日/8(5-13)日,PT開始から退院までの期間は28(14-55.5)日/15(6-36)日,転帰は自宅退院22/26名,転院6/5名,死亡が休止群で2名であった。PT実施回数は11(4.75-21.5)回/7(4-3)回,休止群のみでの休止回数は2(1-4)回であった。休止理由は呼吸不全や急性腎不全,脳梗塞合併など全身状態の悪化によるものが22件と最も多く,次いで患者からの体調不良や疲労訴え,処置や他検査によるものがそれぞれ17件であった。熱発や消化器症状により担当PTが休止判断をしたものが10件,搬送ミスなどが9件であった。PT介入への拒否が5件あった。PTプログラムはのべ件数でストレッチングを含む関節可動域運動が739件,筋力強化693件,歩行練習507件,起居動作練習208件,バランス練習177件,座位練習134件,立位練習111件,呼吸法指導や排痰手技を含む呼吸理学療法134件,階段昇降などの応用動作練習128件,自転車エルゴメーターやトレッドミルを使用した全身持久力トレーニングが19件であった。関節可動域運動と筋力強化が多く行われており,筋力強化では,自動介助運動が154件,自動運動が281件,抵抗運動が258件と自動運動が最も多く行われていた。実施上の配慮点は,全例に対する血液データを含めた全身状態把握に加え,易疲労や倦怠感,創部痛,呼吸状態,消化器症状,精神的不安など自覚症状に合わせて負荷量を調整していた。動作,歩行能力に関しては,入院時の起き上がりは全例自立であったが,退院時は介助が3名となった。同様に,立ち上がりは1名を除いて全例自立であったが,介助が4名と増加していた。歩行能力では,入院時には自立が56名,介助が1名,不可が4名であった。PT開始時には自立が1名,監視または介助が38名,不可が22名であったが,退院時には自立43名,監視または介助が12名,不可が4名と概ね歩行の再獲得ができていた。

【考察】

急性期病院において,開胸開腹術後のがん患者は,全身状態の変化や医学的処置等の理由でPTを休止せざるを得ない現状があった。特に休止群は,手術侵襲が大きく,術後合併症のため,PTの開始が遅延する場合が多い。また,手術侵襲や安静期間の影響により,歩行能力が低下する。しかし,非休止群はPT開始から約2週で歩行を再獲得し自宅退院となり,休止群の約2/3の症例では約4週で同様の帰結が得られた。がんのリハビリテーションガイドラインでは,中等度の運動療法が推奨されているが,実際の当院でのPTプログラムでは,応用動作練習や全身持久力トレーニングの実施頻度は少ない現状があった。
【理学療法学研究としての意義】

近年がんリハの実施が推奨され,関連文献も多く存在する。しかし,周術期のがんリハの実施状況や休止理由,プログラム内容を具体的に調査した文献は少ないため,理学療法研究として意義があると考える。