[P2-C-0728] 鏡視下手術症例における周術期理学療法の介入指標に対する検討
Keywords:鏡視下手術, 理学療法, 介入指標
【はじめに,目的】
我が国での消化器外科領域における鏡視下術は,1990年の腹腔鏡下胆嚢摘出術以降,爆発的に増加し,今後も鏡視下術の施術件数は増進すると推測されている。鏡視下術の適応は胃・大腸・胆嚢・肝臓と多岐にわたる。術の利点としては,低侵襲であり痛みも少ないこと,開腹術に比べ感染のリスクが低いことなどから入院期間の短縮や早期社会復帰が可能とされている。そのため,高齢者や術前の身体状況が不良な例においても術適応となることがあり,特に術後合併症や廃用症候群を生じた場合,理学療法士(以下,PT)の介入を依頼されることがある。そこで今回,当院での腹腔鏡下術例に対し,PTの介入を依頼された症例の特性を分析し,理学療法の対象やその対処法を検討する事とした。
【方法】
対象は2012年6月から2014年5月までの2年間に当院消化器外科へ入院し,待機的に腹腔鏡視下術を施行された例とした。
方法はカルテ情報を後方視的にPT介入の有無,患者基本属性として年齢・性別・身長・体重,術前情報として術対象臓器・呼吸機能(%VC,FEV%)・術前生活レベル(Performance Status)・米国麻酔学会術前状態分類(以下,ASA-PS),術侵襲情報として手術時間・出血量,術後情報として離床開始時期・トイレ歩行開始時期・術後合併症・譫妄の有無を調査した。又,依頼箋を基に医師からのPT介入依頼契機も調査した。
統計学的手法はMann-WhitneyのU検定およびχ二乗検定を用い,統計解析ソフトSPSS(statistics19)にて検討を行った。
【結果】
対象期間内に腹腔鏡下術を施行されたのは117例であり,その中でPT介入した症例(以下,介入群)は33例,未介入症例(以下,未介入群)は84例であった。以下に調査した項目内にて有意差を認めたものを示す。患者基本属性については,年齢にて介入群72±10.6歳,未介入群61±15歳(p<0.001)と差を認めた。術前情報では術対象臓器として介入群は胆嚢48%・結腸24%・肝臓12%等の割合が多く,未介入群は胆嚢83%・虫垂10%等の臓器が対象となっていた(p<0.001)。術前の%VCは介入群86.3±19.1%,未介入群97.2±15.3%(p=0.004)であり,FEV%は介入群73.2±11.8%,未介入群78.7±6.4%(p=0.011)と呼吸機能は介入群において低値を示した。ASA-PSでは介入群I:1例・II:27例・III:5例に対し,未介入群I:25例・II:57例・III:2例であり,介入群に麻酔に対する高リスク例が多かった(p<0.001)。術侵襲情報では,手術時間が介入群で193.9±98.6分,未介入群121.6±49.8分(p<0.001),出血量が介入群47.8±87.9ml,未介入群25.9±48.4ml(p=0.005)であり,介入群で強侵襲例を多く認めた。術後情報では,トイレ歩行自立までの日数が介入群では1.4±0.2日,未介入群では1.1±0.3日と介入群が遅延していた(p=0.026)。無気肺などの呼吸器合併症やイレウスなどの消化器合併率は介入群24.2%,未介入群2.4%と介入群に発生率が高かった(p=0.001)。
医師からの介入依頼の契機として最も多かったのは,術前情報から必要と判断された者が23例(70%)であり,次いで術後経過6例(18%),その他4例(12%)であった。
【考察】
今回の調査より,PTの対象となった鏡視下手術症例は,高齢者や低呼吸機能者などの周術期リスクの高い例,術対象臓器が大きく術時間が長いような強侵襲術を施行された例,術後の離床が遷延した例であった。このようにPTが介入する症例は比較的重症例が多い為,リスク管理には十分に注意を払う必要がある。そして,鏡視下術の対象となる例に関しては術前情報や術所見,術後経過を医師や看護師と常日頃から情報共有した上で,介入の必要性やその時期を検討することが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
鏡視下術例に対するPT介入時期は明瞭化されておらず,障害が生じてから対処的に介入している現状がある。今回介入例の現状を分析できたことで,今後は具体的な情報を基に介入を検討するよう働きかける契機となるものと考える。
我が国での消化器外科領域における鏡視下術は,1990年の腹腔鏡下胆嚢摘出術以降,爆発的に増加し,今後も鏡視下術の施術件数は増進すると推測されている。鏡視下術の適応は胃・大腸・胆嚢・肝臓と多岐にわたる。術の利点としては,低侵襲であり痛みも少ないこと,開腹術に比べ感染のリスクが低いことなどから入院期間の短縮や早期社会復帰が可能とされている。そのため,高齢者や術前の身体状況が不良な例においても術適応となることがあり,特に術後合併症や廃用症候群を生じた場合,理学療法士(以下,PT)の介入を依頼されることがある。そこで今回,当院での腹腔鏡下術例に対し,PTの介入を依頼された症例の特性を分析し,理学療法の対象やその対処法を検討する事とした。
【方法】
対象は2012年6月から2014年5月までの2年間に当院消化器外科へ入院し,待機的に腹腔鏡視下術を施行された例とした。
方法はカルテ情報を後方視的にPT介入の有無,患者基本属性として年齢・性別・身長・体重,術前情報として術対象臓器・呼吸機能(%VC,FEV%)・術前生活レベル(Performance Status)・米国麻酔学会術前状態分類(以下,ASA-PS),術侵襲情報として手術時間・出血量,術後情報として離床開始時期・トイレ歩行開始時期・術後合併症・譫妄の有無を調査した。又,依頼箋を基に医師からのPT介入依頼契機も調査した。
統計学的手法はMann-WhitneyのU検定およびχ二乗検定を用い,統計解析ソフトSPSS(statistics19)にて検討を行った。
【結果】
対象期間内に腹腔鏡下術を施行されたのは117例であり,その中でPT介入した症例(以下,介入群)は33例,未介入症例(以下,未介入群)は84例であった。以下に調査した項目内にて有意差を認めたものを示す。患者基本属性については,年齢にて介入群72±10.6歳,未介入群61±15歳(p<0.001)と差を認めた。術前情報では術対象臓器として介入群は胆嚢48%・結腸24%・肝臓12%等の割合が多く,未介入群は胆嚢83%・虫垂10%等の臓器が対象となっていた(p<0.001)。術前の%VCは介入群86.3±19.1%,未介入群97.2±15.3%(p=0.004)であり,FEV%は介入群73.2±11.8%,未介入群78.7±6.4%(p=0.011)と呼吸機能は介入群において低値を示した。ASA-PSでは介入群I:1例・II:27例・III:5例に対し,未介入群I:25例・II:57例・III:2例であり,介入群に麻酔に対する高リスク例が多かった(p<0.001)。術侵襲情報では,手術時間が介入群で193.9±98.6分,未介入群121.6±49.8分(p<0.001),出血量が介入群47.8±87.9ml,未介入群25.9±48.4ml(p=0.005)であり,介入群で強侵襲例を多く認めた。術後情報では,トイレ歩行自立までの日数が介入群では1.4±0.2日,未介入群では1.1±0.3日と介入群が遅延していた(p=0.026)。無気肺などの呼吸器合併症やイレウスなどの消化器合併率は介入群24.2%,未介入群2.4%と介入群に発生率が高かった(p=0.001)。
医師からの介入依頼の契機として最も多かったのは,術前情報から必要と判断された者が23例(70%)であり,次いで術後経過6例(18%),その他4例(12%)であった。
【考察】
今回の調査より,PTの対象となった鏡視下手術症例は,高齢者や低呼吸機能者などの周術期リスクの高い例,術対象臓器が大きく術時間が長いような強侵襲術を施行された例,術後の離床が遷延した例であった。このようにPTが介入する症例は比較的重症例が多い為,リスク管理には十分に注意を払う必要がある。そして,鏡視下術の対象となる例に関しては術前情報や術所見,術後経過を医師や看護師と常日頃から情報共有した上で,介入の必要性やその時期を検討することが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
鏡視下術例に対するPT介入時期は明瞭化されておらず,障害が生じてから対処的に介入している現状がある。今回介入例の現状を分析できたことで,今後は具体的な情報を基に介入を検討するよう働きかける契機となるものと考える。