第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

人体構造・機能情報学4

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0926] 脱神経筋に対する伸張運動による組織線維化への影響

田中正二, 中川敬夫 (金沢大学医薬保健研究域保健学系)

Keywords:脱神経筋, 線維化, 伸張運動

【はじめに,目的】
末梢神経損傷は,その支配領域の骨格筋萎縮と筋線維化を引き起こす。筋線維化は関節拘縮の原因の一つでもあり,それらの変性を予防する必要がある。先行研究において,繰り返しの伸張運動が脱神経筋萎縮の抑制に効果があることが示されている。しかし一方,線維化の予防に関する知見は乏しい。そこで,本研究では,脱神経筋に対して繰り返しの伸張運動を加えた際の筋線維化に対する影響を検討した。
【方法】
8週齢Wistar系雄ラットを対象とした。ラット30匹を無作為に対照群(n=5)および右坐骨神経切除群(n=25)に振り分けた。右坐骨神経切除群は麻酔下にて右大腿外側を切開し坐骨神経をおよそ7mm切除した。坐骨神経切除群は1,3,5,7,9日後に右足底筋を採取し,mRNA解析に用いた。さらに,ラット7匹を不作為に偽処置群(n=4)および右坐骨神経切除群(n=3)に振り分けた。偽処置群は麻酔下で右坐骨神経を目視するにとどめた。両群とも2週間後に右足底筋を採取し,液体窒素で冷却したイソペンタン内で急速凍結した。組織はクリオスタットにて10μmに薄切し,Picrocirius red染色を行い,顕微鏡にて組織を観察するとともに1切片あたり5視野の画像を撮影し,画像中の濃染した面積およびその割合について組織切片定量解析ソフトウェアを用いて算出した。続いて,ラット32匹を無作為に脱神経群と12回/分,3回/分,0.5回/分の頻度で伸張運動を行う群の4群(それぞれn=8)に振り分けた。ラットはイソフルラン吸入麻酔下で右膝関節屈曲90°に保持して,足関節背屈40°~底屈50°の範囲で,脱神経処置の翌日から2週間,6回/週,20分/回,ステッピングモーターを用いて伸張運動を実施した。なお,伸張運動は底背屈最終域の停止時間のみを変数とし,底背屈の移動時間はすべて1秒間に設定した。実験期間終了後に足底筋を採取し,mRNA解析に用いた。mRNA解析はreal-time PCR法を用いて発現量を半定量した。標的遺伝子は,Transforming growth factor(TGF)-β1,α-smooth muscle actin(SMA),HIF(Hypoxia-inducible factor)-1α,Collagen type 1α2およびtype 3α1 mRNAとした。mRNA発現量はGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)mRNAに対する相対定量値として算出した。統計解析は,SteelおよびStudent’s t-testを用いて,有意水準は0.05として比較した。
【結果】
足底筋筋湿重量は脱神経後7日に対照群に対して有意に減少した(79%)。足底筋におけるTGF-β1およびCollage type 1α2 mRNA発現量は脱神経の3日後に,Collage type 3α1 mRNA発現量は5日後に,α-SMAおよびHIF-1α mRNA発現量は7日に対照群に対して有意に増加した(それぞれ3.8倍,1.6倍,3.4倍,2.3倍,3.0倍)。また,脱神経2週間後の足底筋横断面における線維化領域は偽処置群に対して有意に増加していた(4.4倍)。脱神経後に0.5回/分,20分間の伸張運動によってTGF-β1,α-SMA,Collagen type 3α1,HIF-1α mRNA発現量は脱神経のみの群に対して有意に増加していた(それぞれ1.6倍,1.8倍,1.8倍,1.5倍)。Collagen type 1α2 mRNA発現量は1.5倍に増加していたが,その差は有意ではなかった。また,脱神経後3回/分,20分間の伸張運動によってTGF-β1 mRNA発現量は脱神経のみの群に対して有意に増加していた(1.6倍)。
【考察】
脱神経後に骨格筋において酸素供給が不足状態に陥った際に誘導されるHIF-1α,線維化を誘導するTGF-β1,α-SMA,線維成分であるCollagen mRNAが増加したことは,血流減少による筋線維化形成が促進したことを示していると考えられた。脱神経筋に対して0.5回/分の繰り返しの伸張運動は,HIF-1α,TGF-β1,α-SMAおよびCollagen type 3α1 mRNAの発現を増加させた。これらの結果は,脱神経筋に対して12回/分,3回/分の伸張運動は筋線維化を促進,抑制する効果はないが,0.5回/分の繰り返しの伸張運動がさらに血流を減少させ,筋線維化を促進したことを示していると考えられた。ただ,組織の修復過程として線維化が生じている可能性があり,血流減少による筋組織の傷害についても検討していく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脱神経筋に対する理学療法の介入として,再神経支配が期待できる場合は筋萎縮予防および関節拘縮予防を目的に,不可逆的な神経損傷の場合は関節拘縮予防を目的に他動運動や可動域内での伸張運動などが行われる。本研究の結果,0.5回/分という比較的ゆっくりとした筋の伸張運動は筋の血流を阻害し,組織の線維化を引き起こす可能性が示唆された。これらの知見は,脱神経筋に対する介入方法の一助となると考えられる。