[P3-A-0932] 成熟ラットに対する14日間の後肢非荷重負荷は,運動神経伝導速度を低下させる
in vivoにおける検討
キーワード:廃用性筋萎縮, 運動神経伝導速度, 後肢非荷重
【はじめに,目的】
ヒトに対して一様の条件を課すことは困難であることから,廃用に対する生体適応に関するエビデンスは動物モデルを用いた多数の先行研究によって構築されてきた。実験動物のヒラメ筋に対して廃用性筋萎縮を生じさせるための代表的なモデルとして,げっ歯類の尾部を懸垂することで後肢を非荷重状態にして廃用を生じさせる「後肢非荷重モデル」がある。後肢非荷重モデルを用いて廃用の予防法や物理療法を含めた筋に関する様々な知見が蓄積されている一方で,末梢神経に関する知見は散見される程度である。特に,機能的な報告をした先行研究は脆弱であり,後肢非荷重後にin vivoにおいて運動神経伝導速度を測定した研究は我々が検索した限りみつからなかった。本研究の目的は,廃用がin vivoにおける運動神経伝導速度に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
本研究の対象は,10週齢の雄性Wistar系ラット(n=16)であった。ラットを無作為に8匹ずつコントロール(C)群(体重341.3±14.5g)と後肢非荷重(HU)群(338.5±19.1g)の2群に分けた。HU群は,ペントバルビタールナトリウムの腹腔麻酔処置(50mg/kg)を施した後,Moreyらの変法を用いて尾部懸垂処置を施し,後肢を14日間非荷重状態にして飼育した。尚,後肢非荷重期間中,水および食料の摂取は前肢による移動によって自由摂取とした。また,C群のラットは麻酔による種々の影響を除くため,HU群と同様の麻酔処置を施した後,14日間自由飼育を行った。
14日間の実験期間の後,各群に対して腹腔麻酔下にて,左後肢より運動神経伝導速度(MCV)の測定を行った。MCV測定には,Neuropack X1(日本光電社)を用いた。ラットの体温はヒーター機能付き実験台を用いて37℃~38℃に調節した。記録用針電極をヒラメ筋に刺入し,局所的に露出させた坐骨神経の遠位刺激部および近位刺激部に2極電極を用いて超最大刺激を加えた際のM波を導出した。遠位-近位間における刺激点間距離を,導出されたM波の潜時差で除してMCVを算出した。その後,麻酔薬のオーバードースによってラットを安楽死させ,右後肢よりヒラメ筋を採取して筋湿重量の測定を行った。ヒラメ筋湿重量およびMCVについて,対応のないt検定を用いて群間の差を検定した。有意水準はp<0.05とし,統計解析ソフトはStatView Version5.0 softwareを用いた。
【結果】
C群のヒラメ筋湿重量は0.20±0.03g,HU群のヒラメ筋湿重量は0.13±0.02gであった。HU群のヒラメ筋湿重量はC群に対して有意に低値を示した(p<0.01)。
C群のMCVは,66.5±1.8m/sec,HU群のMCVは52.5±4.7m/secであった。C群に対してHU群のMCVは有意に低値を示した(p<0.01)。
【考察】
HU群のヒラメ筋湿重量はC群と比較して有意に低かったことから,14日間の後肢非荷重は多くの先行研究と同様にヒラメ筋萎縮を生じさせたと我々は判断した。その上で,後肢非荷重による後肢の廃用は,筋組織の異常のみならず,運動能と密接に関わる末運動神経伝導速度の遅延をも生じさせることが明らかになった。
本結果は,14日間の後肢非荷重後にin vitroにおいてヒラメ筋神経のMCVが低下したとする報告(Canuら,2009)を支持する。神経伝導速度は,一般的に「ミエリン鞘の厚さ」および「ランビエ絞輪間距離」に依存すると報告されている(Brillら,1977;Shermanら,2005)ため,廃用によってそれらの組織的変性が生じた可能性が考えられる。神経伝導速度の遅延は,ベッドレスト後の理学療法において反射・反応速度の遅延が生じる原因のひとつであると考える。本研究の今後の課題としてミエリン鞘などの組織が実際に変性を示すか確認する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,廃用によってin vivoにおける運動神経伝導速度が遅延することをはじめて明らかにした。本結果より,我々は廃用がもたらす身体各所の変性にも着目する必要性を示したい。今後は,動物レベルにおける運動神経伝導速度低下の予防および治療法の検討と,ヒトを対象とした研究が必要である。
ヒトに対して一様の条件を課すことは困難であることから,廃用に対する生体適応に関するエビデンスは動物モデルを用いた多数の先行研究によって構築されてきた。実験動物のヒラメ筋に対して廃用性筋萎縮を生じさせるための代表的なモデルとして,げっ歯類の尾部を懸垂することで後肢を非荷重状態にして廃用を生じさせる「後肢非荷重モデル」がある。後肢非荷重モデルを用いて廃用の予防法や物理療法を含めた筋に関する様々な知見が蓄積されている一方で,末梢神経に関する知見は散見される程度である。特に,機能的な報告をした先行研究は脆弱であり,後肢非荷重後にin vivoにおいて運動神経伝導速度を測定した研究は我々が検索した限りみつからなかった。本研究の目的は,廃用がin vivoにおける運動神経伝導速度に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
本研究の対象は,10週齢の雄性Wistar系ラット(n=16)であった。ラットを無作為に8匹ずつコントロール(C)群(体重341.3±14.5g)と後肢非荷重(HU)群(338.5±19.1g)の2群に分けた。HU群は,ペントバルビタールナトリウムの腹腔麻酔処置(50mg/kg)を施した後,Moreyらの変法を用いて尾部懸垂処置を施し,後肢を14日間非荷重状態にして飼育した。尚,後肢非荷重期間中,水および食料の摂取は前肢による移動によって自由摂取とした。また,C群のラットは麻酔による種々の影響を除くため,HU群と同様の麻酔処置を施した後,14日間自由飼育を行った。
14日間の実験期間の後,各群に対して腹腔麻酔下にて,左後肢より運動神経伝導速度(MCV)の測定を行った。MCV測定には,Neuropack X1(日本光電社)を用いた。ラットの体温はヒーター機能付き実験台を用いて37℃~38℃に調節した。記録用針電極をヒラメ筋に刺入し,局所的に露出させた坐骨神経の遠位刺激部および近位刺激部に2極電極を用いて超最大刺激を加えた際のM波を導出した。遠位-近位間における刺激点間距離を,導出されたM波の潜時差で除してMCVを算出した。その後,麻酔薬のオーバードースによってラットを安楽死させ,右後肢よりヒラメ筋を採取して筋湿重量の測定を行った。ヒラメ筋湿重量およびMCVについて,対応のないt検定を用いて群間の差を検定した。有意水準はp<0.05とし,統計解析ソフトはStatView Version5.0 softwareを用いた。
【結果】
C群のヒラメ筋湿重量は0.20±0.03g,HU群のヒラメ筋湿重量は0.13±0.02gであった。HU群のヒラメ筋湿重量はC群に対して有意に低値を示した(p<0.01)。
C群のMCVは,66.5±1.8m/sec,HU群のMCVは52.5±4.7m/secであった。C群に対してHU群のMCVは有意に低値を示した(p<0.01)。
【考察】
HU群のヒラメ筋湿重量はC群と比較して有意に低かったことから,14日間の後肢非荷重は多くの先行研究と同様にヒラメ筋萎縮を生じさせたと我々は判断した。その上で,後肢非荷重による後肢の廃用は,筋組織の異常のみならず,運動能と密接に関わる末運動神経伝導速度の遅延をも生じさせることが明らかになった。
本結果は,14日間の後肢非荷重後にin vitroにおいてヒラメ筋神経のMCVが低下したとする報告(Canuら,2009)を支持する。神経伝導速度は,一般的に「ミエリン鞘の厚さ」および「ランビエ絞輪間距離」に依存すると報告されている(Brillら,1977;Shermanら,2005)ため,廃用によってそれらの組織的変性が生じた可能性が考えられる。神経伝導速度の遅延は,ベッドレスト後の理学療法において反射・反応速度の遅延が生じる原因のひとつであると考える。本研究の今後の課題としてミエリン鞘などの組織が実際に変性を示すか確認する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,廃用によってin vivoにおける運動神経伝導速度が遅延することをはじめて明らかにした。本結果より,我々は廃用がもたらす身体各所の変性にも着目する必要性を示したい。今後は,動物レベルにおける運動神経伝導速度低下の予防および治療法の検討と,ヒトを対象とした研究が必要である。