[P3-A-0933] 気道炎症ラットにおける有酸素運動の影響について
キーワード:気道炎症, ラット, 有酸素運動
【はじめに,目的】気道は常に外気と接する部位であり,外的因子(大気中の有害ガス・微細粒子,微生物等)と内的因子(アレルギー疾患,遺伝的素因等)によって誘発される炎症の好発部位である。炎症は肺炎の続発,気道狭窄による肺の過膨張や呼吸困難,他の基礎疾患と関連して慢性化し,重症度を増すと全身性疾患にも発展することでQOLの低下を引き起こす。気道炎症の病態は運動の強度により影響されることが報告されている。高強度運動や無酸素運動により,気道の炎症が惹起されることが知られている一方で,適度な運動を行う方が運動を行わないよりも感染のリスクや炎症の程度が低下することが報告されている。本実験は,たばこ煙水溶液(CSS:cigarette smoke solution)とリポポリサッカライド(LPS:Lipopolysaccharide)を気管に投与して作成した気道炎症ラットを作成すること,またそれらラットに低~中等度運動を行い,気道や骨格筋に与える影響を調べることを目的とした。
【方法】Wistar系雄性ラット,9週齢,20匹を無作為に3群に分け,Sham群(n=6)に生理食塩水を,CSS群(n=6)とCSS+Run群(n=8)にCSS+LPSを,28日間,連日気管内投与した。体重測定と白血球数の測定を毎週実施した。実験開始15日目からCSS+Run群には連日,走行運動(トレッドミル運動を17m/min,30分)を負荷した。この走行運動を29日目には全群に行い,運動前後の血中乳酸値を測定し,その90分後に麻酔下で呼吸量の測定,ヒラメ筋(SOL),長趾伸筋(EDL),横隔膜筋(DIA)の摘出と張力測定を実施した。安楽死処置後,肺を摘出して組織学的解析を行った。
【結果】体重と血中白血球数は各群に差は認められなかった。29日目の血中乳酸値は,Sham群,CSS群ともに運動前に比して運動後は有意に増加したが(前1.4±0.3,後2.9±0.7;前1.2±0.3,後3.2±0.3(mmol/L)),CSS+Run群では運動前後で変化が認められなかった(前1.1±0.2,後1.0±0.2(mmol/L))。筋張力においてSOL,EDL,DIAともにCSS+Run群が他の群よりも増加傾向にあったが,有意差は認められなかった。1回換気量はSham群と比べてCSS群,CSS+Run群ともに低下する傾向であった。Sham群に比してCSS群において呼気時間が有意に短縮したが,Sham群とCSS+Run群の呼気時間に有意な差は認められなかった。肺の組織像では,CSS群,CSS+Run群ともに気管支,肺胞内に炎症細胞が認められ,肺胞壁の肥厚がみられた。しかしこれらの組織所見は,CSS+Run群の方がCSS群よりも軽度であった。
【考察】CSS群,CSS+Run群ともに気管支,肺胞内に炎症細胞が認められ,1回換気量も減少したことから,今回の実験で気道炎症モデルラットを作製することができた。29日目の走行運動前後の血中乳酸値は,CSS群とSham群では運動前に比して運動後に有意に増加したが,CSS+Run群では運動前後で差が認められなかったことから,今回の運動負荷が低~中等度であったこと,また運動によりCSS+Run群はCSS群よりもSOL,EDL,DIAの張力が増したことから,CSS+Run群において持久力が増強されたことが示唆された。また,CSS+Run群はCSS群よりも肺組織の炎症像が軽度であったことから,今回の低~中等度の運動によって気道炎症が走行運動によって軽減されるとことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】気道炎症時における低~中等度運動は,肺胞壁の肥厚や,気道の炎症細胞の浸潤の程度を軽減させ,運動による筋張力増強や持久力増加などのトレーニング効果も認められることが示唆された。
【方法】Wistar系雄性ラット,9週齢,20匹を無作為に3群に分け,Sham群(n=6)に生理食塩水を,CSS群(n=6)とCSS+Run群(n=8)にCSS+LPSを,28日間,連日気管内投与した。体重測定と白血球数の測定を毎週実施した。実験開始15日目からCSS+Run群には連日,走行運動(トレッドミル運動を17m/min,30分)を負荷した。この走行運動を29日目には全群に行い,運動前後の血中乳酸値を測定し,その90分後に麻酔下で呼吸量の測定,ヒラメ筋(SOL),長趾伸筋(EDL),横隔膜筋(DIA)の摘出と張力測定を実施した。安楽死処置後,肺を摘出して組織学的解析を行った。
【結果】体重と血中白血球数は各群に差は認められなかった。29日目の血中乳酸値は,Sham群,CSS群ともに運動前に比して運動後は有意に増加したが(前1.4±0.3,後2.9±0.7;前1.2±0.3,後3.2±0.3(mmol/L)),CSS+Run群では運動前後で変化が認められなかった(前1.1±0.2,後1.0±0.2(mmol/L))。筋張力においてSOL,EDL,DIAともにCSS+Run群が他の群よりも増加傾向にあったが,有意差は認められなかった。1回換気量はSham群と比べてCSS群,CSS+Run群ともに低下する傾向であった。Sham群に比してCSS群において呼気時間が有意に短縮したが,Sham群とCSS+Run群の呼気時間に有意な差は認められなかった。肺の組織像では,CSS群,CSS+Run群ともに気管支,肺胞内に炎症細胞が認められ,肺胞壁の肥厚がみられた。しかしこれらの組織所見は,CSS+Run群の方がCSS群よりも軽度であった。
【考察】CSS群,CSS+Run群ともに気管支,肺胞内に炎症細胞が認められ,1回換気量も減少したことから,今回の実験で気道炎症モデルラットを作製することができた。29日目の走行運動前後の血中乳酸値は,CSS群とSham群では運動前に比して運動後に有意に増加したが,CSS+Run群では運動前後で差が認められなかったことから,今回の運動負荷が低~中等度であったこと,また運動によりCSS+Run群はCSS群よりもSOL,EDL,DIAの張力が増したことから,CSS+Run群において持久力が増強されたことが示唆された。また,CSS+Run群はCSS群よりも肺組織の炎症像が軽度であったことから,今回の低~中等度の運動によって気道炎症が走行運動によって軽減されるとことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】気道炎症時における低~中等度運動は,肺胞壁の肥厚や,気道の炎症細胞の浸潤の程度を軽減させ,運動による筋張力増強や持久力増加などのトレーニング効果も認められることが示唆された。