第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

運動生理学1

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0939] 反重力トレッドミルの荷重率・歩行速度の変化が酸素摂取量・心拍数に与える影響

小島尚子, 千葉健, 堀弘明, 由利真, 堀享一 (北海道大学病院リハビリテーション部)

キーワード:部分免荷トレッドミル, 酸素摂取量, 心拍数

【はじめに,目的】体重を免荷した状態で行うトレッドミル歩行は,歩行障害に対する練習として多く行われており,種々の疾患を有する患者において歩行能力が向上したことが報告されている。一方,臨床場面では,循環器疾患などの合併により運動耐容能が低下している患者も少なくない。歩行練習時のリスク管理として,体重免荷歩行時の運動生理学的影響を把握することは,適切な運動強度での安全な歩行練習を行う上で重要である。空圧式免荷トレッドミル(米Alter G社製:Anti-Gravity Treadmill(M320))は,本邦でも臨床応用されて始めているが,運動生理学的影響について検討した報告は少ない。我々は,20歳代の健常者を対象に,空圧式免荷トレッドミルを用いた同一速度での歩行中の荷重率の減少に伴う酸素摂取量の減少を認めたことを報告したが,歩行速度の変化が与える影響についての検討が課題であった。そこで,本研究の目的は,20歳代の健常者を対象に,空圧式免荷トレッドミルの荷重率および歩行速度の変化が酸素摂取量および心拍数に与える影響について検討することとした。
【方法】対象は,20歳代の健常女性8名(身長160.80±6.29cm,体重55.47±3.70kg)とした。除外基準は,外科的治療を要する整形外科的疾患を有する者,神経学的疾患,循環器疾患及び呼吸器疾患を有する者とした。酸素摂取量及び心拍数の測定には,肺運動負荷モニタリングシステム(ミナト医科学株式会社製:モバイルエアロモニタAE100i)と心拍数測定装置(ポラール・エレクトロ・ジャパン株式会社製:Polar T31トランスミッター)を用いた。各測定結果は,解析ソフトウエア(ミナト医科学株式会社製:AT for Windows)を用いて解析を行った。室温24~27度,湿度30~50%の無風で静かな室内で実施した。運動課題として,空圧式免荷トレッドミル上での歩行課題を行った。歩行時の各対象者の体重に対する荷重率を,100%,75%,50%の3種類,歩行速度を,時速4km,2kmの2種類とした。疲労の影響を考慮して実験日を2日間とし,各実験日に1種類の歩行速度で3種類の荷重率での歩行を実施した。各歩行速度の実施順序はランダム化した。対象者は,歩行課題実施前に,空圧式免荷トレッドミル上にて各荷重率での歩行練習をそれぞれ5分間実施した。歩行課題は,空圧式免荷トレッドミル上での3分間の安静立位保持の後,各荷重率での歩行を3~4分間実施,その後3分間の安静立位保持とした。各荷重率での歩行の間には荷重率100%にて3分間の安静立位保持を実施した。各荷重率の実施順序はランダム化した。各条件での歩行中の酸素摂取量及び心拍数の測定は,各歩行時間の最終30秒間に測定時間を設け,測定時間における平均値(以下:平均値)を代表値として設定した。検討項目は,各条件での歩行中の酸素摂取量及び心拍数の平均値とし,歩行速度と荷重率の影響については,二元配置分散分析,多重比較検定,post-hoc test(Bonferroni)を用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】荷重率100%,75%,50%での歩行中の酸素摂取量の平均値は,時速4kmでは12.40±3.79,10.65±2.16,9.65±1.30ml/kg/min.,時速2kmでは8.90±1.32,7.66±1.06,6.60±0.65ml/kg/min.であった。荷重率100%,75%,50%における心拍数の平均値は,時速4kmでは107.38±9.04,102.75±9.21,98.13±5.96bpm,時速2kmでは94.00±5.66,89.00±6.87,85.25±7.09bpmであった。酸素摂取量の二元配置分散分析の結果は,歩行速度と荷重率の交互作用は有意ではなかったが,歩行速度と荷重率の主効果は有意であった。荷重率についての多重比較では,100%と75%,100%と50%に有意差を認めた。心拍数の二元配置分散分析の結果は,歩行速度と荷重率の交互作用は有意ではなかったが,歩行速度と荷重率の主効果は有意であった。荷重率についての多重比較では,100%と50%に有意差を認めた。
【考察】空圧式免荷トレッドミル上での歩行において,荷重率の低下及び歩行速度の低下に伴う酸素摂取量及び心拍数の減少を認めた。運動耐容能が低下した患者に対しても,歩行速度及び荷重率を変化させることで適切な運動強度での歩行練習を提供できることが考えられた。運動耐容能が低下した対象者による検討が今後の課題と考える。
【理学療法学研究としての意義】20歳代の健常者を対象に,空圧式免荷トレッドミル歩行時の荷重率及び歩行速度の低下による酸素摂取量及び心拍数の減少を認めた。歩行練習時のリスク管理として,個々の患者の運動耐容能に合わせた運動強度を設定する際の一助となることが考えられる。