第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

体幹1

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0950] 腰部脊柱管狭窄症術後患者のQOL向上を目的とした理学療法介入の課題と可能性

西浜かすり1, 竹中裕人1, 矢口敦貴1, 鈴木惇也1, 花村俊太朗2, 神谷光広3 (1.三仁会あさひ病院, 2.三仁会あさひ病院, 3.愛知医科大学)

Keywords:腰部脊柱管狭窄症, JOABPEQ, QOL向上

【はじめに,目的】
腰部脊柱管狭窄症患者(以下LCS)は本邦の人口高齢化とともに年々増加している。しかし,LCSに対する手術は,間欠跛行の改善は良好であるものの,長期(4年以上)に渡る術後成績においては,下腿・足底の痺れ,違和感,こむら返り等の遺残頻度は70-80%と高く,患者のQOL低下の原因となっており,これらの遺残症状に対する有効な治療が無いのが現状である。そこで,我々,理学療法士が長期に渡り継続してLCS術後患者に関わることで,遺残症状を有するLCS術後患者のQOL向上の一端を担いたいと考える。今後の理学療法介入の課題と可能性について検討するための一歩として,今回,当院にて手術を行ったLCS術後患者の経過,現状を評価するため,LCS術後患者の術前から術後6ヶ月のJOABPEQとVAS,身体機能の経過を調査した。
【方法】
当院において間欠性跛行を呈し,手術を施行したLCS患者20名,うち除圧固定術群9名(平均年齢71.0±7.8才),除圧術群11名(平均年齢67.0±7.2才)を対象とした。
評価項目は,①腰椎疾患特異的QOL評価,②身体機能評価である。①は,JOABPEQ,VASを用いた。JOABPEQは患者立脚型の質問表で,疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行機能障害,社会生活障害,心理的障害の5項目をそれぞれ0~100のスコアで評価するものであり,改善の定義は,各項目20点以上の上昇とした。VASは,しびれ・下肢痛・腰痛の3項目についての評価を行った。②は,筋力評価項目である体幹屈曲筋力,体幹伸展筋力,筋タイトネス項目である指床間距離(以下FFD),下肢伸展挙上(以下SLR),踵殿部距離(HBD),トーマス法,身長,体重,全身筋肉量,体脂肪率とした。理学療法士の介入期間は術前日,入院期間(平均10日),術後1ヶ月,3ヶ月,6ヶ月とし,各項目の評価,運動指導,日常生活動作指導などを行った。術前と術後6ヶ月の各項目の比較にはウィルコクソン検定を用い,有意水準は1%未満とした。また,JOABPEQの5項目において,改善がみられた患者の割合を算出した。統計ソフトはRコマンダー2.8.1を用いた。
【結果】
JOABPEQにおいては,除圧固定術群,除圧術群ともに術前と術後6か月の比較において術後6カ月で,5項目全ての項目で有意に得点の上昇がみられた。
除圧固定術群のJOABPEQ平均は以下の通りである。疼痛関連障害は,42.8→84.8,腰椎機能障害は,59.4→78.6,歩行機能障害は,32.5→72.7,社会生活機能障害は,41.4→69.2,心理的障害は,52.4→71.4。除圧術群のJOABPEQ平均は以下の通りである。疼痛関連障害は,30.0→79.4,腰椎機能障害は,49.9→81.3,歩行機能障害は,33.2→81.0,社会生活機能障害は,30.2→71.8,心理的障害は,46.9→70.6であった。なお,術式においての差はみられなかった。次に,しびれ・下肢痛・腰痛の程度についてのVASの3項目全てにおいて,有意に改善がみられた。身体機能評価では,筋力評価,筋タイトネス,体組成全てにおいて有意な差はみられなかった。また,JOABPEQの5項目の中において,改善した患者の割合は「疼痛関連障害」が除圧固定術群78%,除圧術群82%,「腰痛機能障害」が56%,36%,「歩行機能障害」が78%,73%,「社会生活障害」が67%,73%,「心理的障害」が44%,55%であった。このことから,JOABPEQの5項目の中,「腰椎機能障害」と「心理機能障害」の2項目が改善した患者の割合が少ない傾向がみられた。
【考察】
今回の調査より,術前,術後6ヶ月のLCS術後患者では,JOABPEQは改善がみられ,身体機能は術後6ヶ月においても術前の状態が維持されることが分かった。また,JOABPEQの5項目の中でも,「腰椎機能障害」と「心理的障害」は他の項目と比較し改善とみなされるものが少ないことから,今後,遺残症状を持つLCS術後患者のQOL向上を目指す上で「腰椎機能障害」と「心理的障害」に着目することが必要であると考える。現時点で行っている理学療法介入に加え,これからの検討課題は,歩数や歩行距離を含む活動量と活動の質の評価や指導,心理機能の評価,心理面を考慮した介入などが挙げられる。今回は,術後6ヶ月という時点での現状報告だが,今後,1年以上の長期に渡り理学療法評価,介入を継続していきたいと考える。そして,これらを考慮した理学療法介入は,LCS術後患者のQOLの向上に繋がる可能性が大いにあると考える。
【理学療法学研究としての意義】
LCS術後に遺残症状が残る患者のQOL向上に対し,理学療法士が生活背景等を考慮した個別的・多角的な評価,介入を展開することで,患者の退院後の身体状態・生活を維持していく一助になると考える。