[P3-A-0959] 腰椎椎間関節症に伴う腰椎椎間板ヘルニアの検討
―神経根圧迫を伴うケースについて―
キーワード:腰椎椎間関節症, 腰椎椎間板ヘルニア, 神経根圧迫
【はじめに,目的】
腰椎椎間関節由来の特徴的な所見は,椎間関節部の圧痛,疼痛のための後屈制限,筋緊張などが挙げられる。しかし,椎間関節が腰痛の原因とするだけの信頼し得る理学所見や解剖学的な異常の裏付けは得られておらず,特徴的な画像所見も乏しいとされている。一方,腰椎椎間板ヘルニア(以下,LHNP)の特徴的な所見は,Lasegue徴候が強陽性であり,腰椎の可動域制限などが挙げられ,一般的に受傷機転が存在する。また腰椎椎間関節症(以下,LFS)は変性疾患であり,Kirkaldy Willisらの椎間板機能障害の第1期は,変性椎間板疾患となる椎間板内断裂である。それゆえLFSは他の腰椎疾患を合併することも多く,我々は他学会にてLFS患者でLHNPを伴うものが77%に確認されたことを報告した。無症候性のLHNPも報告されており,治療方針の決定には難渋するものと考える。そこで今回,LFSと診断された患者のMRIより,ヘルニア腫瘤による神経根圧迫(以下,根圧迫)を認めた患者の理学療法について検討したので報告する。
【方法】
2004年1月~2008年12月の間で腰・下肢痛を主訴に当院整形外科に来院した患者で,初診時LFSと診断され,腰椎屈曲運動療法(以下,屈曲運動)が処方されたものを選択した。対象は初診時または再来時までにMRI撮影を行い,最終診断の確認ができた141名(男性53名,女性88名),平均年齢38.1±10.4歳とした。LHNPの確認方法は,MRIの矢状断像,横断像のT2強調画像にて,ヘルニア腫瘤を確認し,脊柱管内および椎間孔部の根圧迫を確認した。次いでLHNPを認めない群(以下,A群),LHNPを有し,根圧迫の無い群(以下,B群),LHNPにより根圧迫のある群(以下,C群)に分け,屈曲運動の効果の比較を行った。治療効果の判定は前後のVAS値を用いて,腰痛が軽減または消失した患者を有効,変化なかった患者を不変,悪化した患者を悪化に分類し,3群間それぞれの比率を算出した。なお,MRIの確認は筆者を除く,経験年数5年以上の理学療法2名で屈曲運動の結果は伝えず行った。統計学的検討はR2.8.1を用い,1つ目にA群とB群,2つ目にA群とC群,3つ目にB群とC群での治療効果の比較を比率の検定を用いて行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
MRI撮像からA群30名,B群74名,C群37名に分類した。B群のヘルニア腫瘤のタイプは中心性であった。C群37名のヘルニア腫瘤のタイプは,中心性が78.3%(29名),後外側が18.9%(7名),椎間孔部が2.8%(1名)であった。屈曲運動療法の効果は,全体では有効85.8%(121名),不変11.3%(16名),悪化2.9%(4名)であった。この結果を3群間で比較すると,A群は有効90%(27名),不変10%(3名),悪化0名であった。B群は有効85.1%(63名),不変12.2%(9名),悪化2.7%(2名)であった。C群は有効83.8%(31名),不変10.8%(4名),悪化5.4%(2名)であった。それぞれの治療効果の比率の比較は,A群とB群ではP=0.29,A群とC群ではP=0.44,B群とC群ではP=0.66であり,すべての群間の比率に有意差は認められなかった。またC群におけるヘルニア腫瘤の位置の治療効果の分類では,中心性は有効82.7%(24名),不変10.3%(3名),悪化7%(2名)であった。後外側は有効6名,不変が1名,椎間孔部(椎間孔内)の1名は有効であった。
【考察】
本研究結果から実際にLHNPによる根圧迫を認めた37名中31名(83.8%)の患者には改善が得られていること,A群,B群,C群の治療効果の結果の比率に有意差は認められなかったこと,Boosらは1995年に四肢障害で入院した患者の76%に症状のないLHNPを認めたと報告し,実際の根圧迫は22%に認めていたと報告している。LFS患者の中に存在するLHNPの位置で治療効果を確認すると,数例ではあるが後外側部や椎間孔内でも屈曲運動が有効であった。以上より,画像上LHNPを認めていても,無症候性LHNPが存在している。この症状のないLHNPが,治療者を惑わしLFSの治療が難渋する理由の1つであると考えられる。今後,理学療法としてLFSのような特徴的な所見のない疾患の治療を行う際には,MRI上LHNPを認めていたとしても,LHNPの特徴的な所見が否定できた場合,LFSが主因と考えられ,治療を行うと功を奏す可能性がある。また根圧迫を認めたものの,屈曲運動が有効であった理由は,無症候性のLHNPが存在するということは,椎間板機能障害が存在することを示し,椎間関節の負荷が増大し,腰痛が発生していたと考えられた。しかし,このような症例はLHNPの炎症症状が惹起される可能性があり,長期的に経過観察や両病態に対
腰椎椎間関節由来の特徴的な所見は,椎間関節部の圧痛,疼痛のための後屈制限,筋緊張などが挙げられる。しかし,椎間関節が腰痛の原因とするだけの信頼し得る理学所見や解剖学的な異常の裏付けは得られておらず,特徴的な画像所見も乏しいとされている。一方,腰椎椎間板ヘルニア(以下,LHNP)の特徴的な所見は,Lasegue徴候が強陽性であり,腰椎の可動域制限などが挙げられ,一般的に受傷機転が存在する。また腰椎椎間関節症(以下,LFS)は変性疾患であり,Kirkaldy Willisらの椎間板機能障害の第1期は,変性椎間板疾患となる椎間板内断裂である。それゆえLFSは他の腰椎疾患を合併することも多く,我々は他学会にてLFS患者でLHNPを伴うものが77%に確認されたことを報告した。無症候性のLHNPも報告されており,治療方針の決定には難渋するものと考える。そこで今回,LFSと診断された患者のMRIより,ヘルニア腫瘤による神経根圧迫(以下,根圧迫)を認めた患者の理学療法について検討したので報告する。
【方法】
2004年1月~2008年12月の間で腰・下肢痛を主訴に当院整形外科に来院した患者で,初診時LFSと診断され,腰椎屈曲運動療法(以下,屈曲運動)が処方されたものを選択した。対象は初診時または再来時までにMRI撮影を行い,最終診断の確認ができた141名(男性53名,女性88名),平均年齢38.1±10.4歳とした。LHNPの確認方法は,MRIの矢状断像,横断像のT2強調画像にて,ヘルニア腫瘤を確認し,脊柱管内および椎間孔部の根圧迫を確認した。次いでLHNPを認めない群(以下,A群),LHNPを有し,根圧迫の無い群(以下,B群),LHNPにより根圧迫のある群(以下,C群)に分け,屈曲運動の効果の比較を行った。治療効果の判定は前後のVAS値を用いて,腰痛が軽減または消失した患者を有効,変化なかった患者を不変,悪化した患者を悪化に分類し,3群間それぞれの比率を算出した。なお,MRIの確認は筆者を除く,経験年数5年以上の理学療法2名で屈曲運動の結果は伝えず行った。統計学的検討はR2.8.1を用い,1つ目にA群とB群,2つ目にA群とC群,3つ目にB群とC群での治療効果の比較を比率の検定を用いて行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
MRI撮像からA群30名,B群74名,C群37名に分類した。B群のヘルニア腫瘤のタイプは中心性であった。C群37名のヘルニア腫瘤のタイプは,中心性が78.3%(29名),後外側が18.9%(7名),椎間孔部が2.8%(1名)であった。屈曲運動療法の効果は,全体では有効85.8%(121名),不変11.3%(16名),悪化2.9%(4名)であった。この結果を3群間で比較すると,A群は有効90%(27名),不変10%(3名),悪化0名であった。B群は有効85.1%(63名),不変12.2%(9名),悪化2.7%(2名)であった。C群は有効83.8%(31名),不変10.8%(4名),悪化5.4%(2名)であった。それぞれの治療効果の比率の比較は,A群とB群ではP=0.29,A群とC群ではP=0.44,B群とC群ではP=0.66であり,すべての群間の比率に有意差は認められなかった。またC群におけるヘルニア腫瘤の位置の治療効果の分類では,中心性は有効82.7%(24名),不変10.3%(3名),悪化7%(2名)であった。後外側は有効6名,不変が1名,椎間孔部(椎間孔内)の1名は有効であった。
【考察】
本研究結果から実際にLHNPによる根圧迫を認めた37名中31名(83.8%)の患者には改善が得られていること,A群,B群,C群の治療効果の結果の比率に有意差は認められなかったこと,Boosらは1995年に四肢障害で入院した患者の76%に症状のないLHNPを認めたと報告し,実際の根圧迫は22%に認めていたと報告している。LFS患者の中に存在するLHNPの位置で治療効果を確認すると,数例ではあるが後外側部や椎間孔内でも屈曲運動が有効であった。以上より,画像上LHNPを認めていても,無症候性LHNPが存在している。この症状のないLHNPが,治療者を惑わしLFSの治療が難渋する理由の1つであると考えられる。今後,理学療法としてLFSのような特徴的な所見のない疾患の治療を行う際には,MRI上LHNPを認めていたとしても,LHNPの特徴的な所見が否定できた場合,LFSが主因と考えられ,治療を行うと功を奏す可能性がある。また根圧迫を認めたものの,屈曲運動が有効であった理由は,無症候性のLHNPが存在するということは,椎間板機能障害が存在することを示し,椎間関節の負荷が増大し,腰痛が発生していたと考えられた。しかし,このような症例はLHNPの炎症症状が惹起される可能性があり,長期的に経過観察や両病態に対