[P3-A-1003] 大腿骨近位部骨折術後患者における転倒恐怖感と歩行立脚後期の下肢関節運動の関連性 第2報
立脚後期時間比率を指標としたForefoot Rocker機能との検討
Keywords:大腿骨近位部骨折, 転倒恐怖感, 歩行分析
【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折の発生機序の大半が転倒であり,再転倒予防は術後の理学療法の重要課題である。転倒の予測因子として,転倒経験や転倒恐怖感,歩行能力などが報告され(征矢野2009),これらの因子が相互に影響して転倒リスクを高めるとされている(Rose 2009)。近年,直立二足歩行ロボットの研究から,立脚後期における転倒回避戦略が注目されている(石井2012)。我々の先行研究においても,転倒恐怖感と立脚後期の踵挙上・足背屈・股伸展角度に相関を認め,これを,Forefoot Rockerを基盤とした転倒回避戦略を反映した結果と考察した。しかし,立脚後期の下肢関節運動とForefoot Rocker機能における直接の関連性は,検討の余地を残していた。Forefoot Rockerは,身体の回転軸を足関節から前足部へ移行することで,重心の前下方への回転軌道を上方修正し,対側下肢を前方に振り出すための時間的余裕を確保する役割を担うため,立脚後期の時間因子から,Forefoot Rocker機能との関連性を検討できる可能性がある。
本研究の目的は,立脚後期の時間因子と下肢関節運動および転倒恐怖感との関連性を検討することで,立脚後期の下肢関節運動がForefoot Rocker機能に反映する指標として転倒リスクの評価に有用であるかを明らかにすることである。
【方法】
対象は転倒により大腿骨近位部骨折を受傷し,観血的治療が行われた16名とした(女性16名,平均年齢82.0±7.3歳)。対象の選定は,杖歩行が自立または監視で可能な者とした(自立10名,監視6名)。
課題は最大速度での5mの直線歩行とし,高さ0.7m,距離3mの位置に,受傷側から歩行進行方向と直行するように設置したデジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-ZS10)で,歩行中の矢上面映像を5試行撮影した。
撮影した映像を,VirtualDub-1.9.11(VDub)を用いて静止画に変換し,ImageJ1.45を用いて関節角度を計測した。関節角度の計測点は,受傷側立脚期で,両下腿が交差する区間の50%の時点(MSt)と,対側下肢の接地直前の時点(TSt)とした。関節角度は,受傷側下肢の12箇所に貼付した直径15mmの標点マーカーを指標に,受傷側の股・膝伸展角度,足背屈角度,床面に対する踵挙上角度を計測し,MStからTStの角度変化量を算出した。角度計測は事前に計測誤差を確認した上で実施した(計測誤差3.5±3.0°)。
立脚後期の時間因子として,対側下肢を前方へ振り出すための滞空時間を評価するために,VDubを用いて,前述したMStからTStまでの所要時間を算出した。データは,歩行速度の個体差を考慮して,受傷側下肢の初期接地からTStまでの立脚期所要時間で正規化したものを,立脚後期時間比率とした。データの算出に先立ち,級内相関係数(ICC)を用いて,検者内・検者間再現性が桑原の基準で「Fair」以上であることを確認した(検者内ICC:ρ=0.96,検者間ICC:ρ=0.74)。
転倒恐怖感の評価は,征矢野らの転倒予防自己効力感(FPSE)を用いた。FPSEは動作10項目の転倒せずに行う自信の程度を,4段階で調査するもので,高い点数ほど転倒恐怖感が少ないことを示す。
統計処理は,立脚後期時間比率と下肢関節角度・FPSEの関連性を,データの正規性を確認した上で,Pearsonの積率相関係数で検討した(統計ソフト:R-2.8.1,有意水準:危険率5%未満)。
【結果】
立脚後期時間比率と股伸展角度(r=0.52),踵挙上角度(r=0.57),FPSE(r=0.61)に有意な相関を認めた(p<0.05)。関節角度の平均値は,股伸展角度8.5±2.9°,踵挙上角度5.7±4.7°で,計測誤差の範囲外であった。
【考察】
TStの踵挙上と股伸展運動は立脚後期時間比率との関連性から,Forefoot Rocker機能を反映する因子と推測される。踵の挙上は前足部を支点とした重心の回転軌道の上方修正に貢献し,股伸展運動は前方への推進に際しての上体の保持と対側下肢の歩幅調節に貢献することで立脚後期の滞空時間に影響を及ぼすと考えられる。また,立脚後期時間比率と転倒恐怖感との関連性から,Forefoot Rocker機能が転倒恐怖感に影響を与えることが推測される。
以上の事から,大腿骨近位部骨折術後患者のTStの踵挙上角度と股伸展角度はForefoot Rocker機能を反映する指標として,転倒リスクの評価に有用であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,理学療法に直結した歩容の問題に関して,立脚後期の下肢関節運動がForefoot Rocker機能を反映する指標として転倒恐怖感に影響を及ぼすことを明らかにしたことである。これらのデータを,ビデオ画像を用いて定量的に捉えることは,有用な評価として臨床応用できる可能性がある。
大腿骨近位部骨折の発生機序の大半が転倒であり,再転倒予防は術後の理学療法の重要課題である。転倒の予測因子として,転倒経験や転倒恐怖感,歩行能力などが報告され(征矢野2009),これらの因子が相互に影響して転倒リスクを高めるとされている(Rose 2009)。近年,直立二足歩行ロボットの研究から,立脚後期における転倒回避戦略が注目されている(石井2012)。我々の先行研究においても,転倒恐怖感と立脚後期の踵挙上・足背屈・股伸展角度に相関を認め,これを,Forefoot Rockerを基盤とした転倒回避戦略を反映した結果と考察した。しかし,立脚後期の下肢関節運動とForefoot Rocker機能における直接の関連性は,検討の余地を残していた。Forefoot Rockerは,身体の回転軸を足関節から前足部へ移行することで,重心の前下方への回転軌道を上方修正し,対側下肢を前方に振り出すための時間的余裕を確保する役割を担うため,立脚後期の時間因子から,Forefoot Rocker機能との関連性を検討できる可能性がある。
本研究の目的は,立脚後期の時間因子と下肢関節運動および転倒恐怖感との関連性を検討することで,立脚後期の下肢関節運動がForefoot Rocker機能に反映する指標として転倒リスクの評価に有用であるかを明らかにすることである。
【方法】
対象は転倒により大腿骨近位部骨折を受傷し,観血的治療が行われた16名とした(女性16名,平均年齢82.0±7.3歳)。対象の選定は,杖歩行が自立または監視で可能な者とした(自立10名,監視6名)。
課題は最大速度での5mの直線歩行とし,高さ0.7m,距離3mの位置に,受傷側から歩行進行方向と直行するように設置したデジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-ZS10)で,歩行中の矢上面映像を5試行撮影した。
撮影した映像を,VirtualDub-1.9.11(VDub)を用いて静止画に変換し,ImageJ1.45を用いて関節角度を計測した。関節角度の計測点は,受傷側立脚期で,両下腿が交差する区間の50%の時点(MSt)と,対側下肢の接地直前の時点(TSt)とした。関節角度は,受傷側下肢の12箇所に貼付した直径15mmの標点マーカーを指標に,受傷側の股・膝伸展角度,足背屈角度,床面に対する踵挙上角度を計測し,MStからTStの角度変化量を算出した。角度計測は事前に計測誤差を確認した上で実施した(計測誤差3.5±3.0°)。
立脚後期の時間因子として,対側下肢を前方へ振り出すための滞空時間を評価するために,VDubを用いて,前述したMStからTStまでの所要時間を算出した。データは,歩行速度の個体差を考慮して,受傷側下肢の初期接地からTStまでの立脚期所要時間で正規化したものを,立脚後期時間比率とした。データの算出に先立ち,級内相関係数(ICC)を用いて,検者内・検者間再現性が桑原の基準で「Fair」以上であることを確認した(検者内ICC:ρ=0.96,検者間ICC:ρ=0.74)。
転倒恐怖感の評価は,征矢野らの転倒予防自己効力感(FPSE)を用いた。FPSEは動作10項目の転倒せずに行う自信の程度を,4段階で調査するもので,高い点数ほど転倒恐怖感が少ないことを示す。
統計処理は,立脚後期時間比率と下肢関節角度・FPSEの関連性を,データの正規性を確認した上で,Pearsonの積率相関係数で検討した(統計ソフト:R-2.8.1,有意水準:危険率5%未満)。
【結果】
立脚後期時間比率と股伸展角度(r=0.52),踵挙上角度(r=0.57),FPSE(r=0.61)に有意な相関を認めた(p<0.05)。関節角度の平均値は,股伸展角度8.5±2.9°,踵挙上角度5.7±4.7°で,計測誤差の範囲外であった。
【考察】
TStの踵挙上と股伸展運動は立脚後期時間比率との関連性から,Forefoot Rocker機能を反映する因子と推測される。踵の挙上は前足部を支点とした重心の回転軌道の上方修正に貢献し,股伸展運動は前方への推進に際しての上体の保持と対側下肢の歩幅調節に貢献することで立脚後期の滞空時間に影響を及ぼすと考えられる。また,立脚後期時間比率と転倒恐怖感との関連性から,Forefoot Rocker機能が転倒恐怖感に影響を与えることが推測される。
以上の事から,大腿骨近位部骨折術後患者のTStの踵挙上角度と股伸展角度はForefoot Rocker機能を反映する指標として,転倒リスクの評価に有用であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,理学療法に直結した歩容の問題に関して,立脚後期の下肢関節運動がForefoot Rocker機能を反映する指標として転倒恐怖感に影響を及ぼすことを明らかにしたことである。これらのデータを,ビデオ画像を用いて定量的に捉えることは,有用な評価として臨床応用できる可能性がある。