[P3-A-1015] 脳卒中片麻痺者に対するブリッジ運動評価の有用性について
Keywords:脳卒中片麻痺者, ブリッジ運動, 股関節伸展能力
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺者(片麻痺者)に対し,選択的な股関節伸展運動を再獲得するトレーニングとしてブリッジ運動が用いられる。また,その可否により片麻痺者の股関節伸展能力を評価することも少なくない。そこで我々は,片麻痺者でのブリッジ運動能力が動作能力と関連する定量評価になり得るかを検討し,第48回本学会にてブリッジ運動時の足底にかかる荷重率と股関節伸展角度が起立と移動動作能力に関連することを報告した。しかし,片麻痺者の起立や歩行には麻痺側下肢の伸展筋力および片麻痺機能検査の結果(Brunnstrom stage;BRS)が強く影響を及ぼすとの報告が散見され,ブリッジ運動評価の有用性は明確ではない。本研究の目的は,ブリッジ運動時の足底への荷重率,股関節伸展角度,膝関節伸展筋力,BRSが片麻痺者の起立と移動動作能力に与える影響の違いについて検討し,その基準値を得ることである。
【方法】
対象は片麻痺者56名(平均年齢76.7歳,体重52.2kg)とし,動作能力の違いで,起立が上肢の支持がなくても可能であるフリー群と上肢の支持や介助を必要とする非フリー群に,している移動が歩行群と車いす群に,できる移動が独歩群と杖や歩行器を使用することで歩行が可能な補助具群に各々群分けした。なお,除外基準は重度認知症や高次脳機能障害を呈し,運動の理解が困難なものとした。課題運動は,再現性を確認されている高橋ら(2014)の先行研究に準じて,背臥位,両上肢腕組み,両膝関節110度屈曲位から殿部を挙上する両脚でのブリッジ運動と,殿部非挙上側下肢伸展位での麻痺側下肢および非麻痺側下肢での片脚ブリッジ運動とした。評価測定項目として,両脚および片脚ブリッジ時の足底部に体重計(System303,タニタ社)を設置し,各ブリッジ運動時の最大荷重値を体重で除した荷重率(荷重率)と,ブリッジ運動時の最大股関節伸展角度(角度)をゴニオメーターで計測した。徒手筋力計(Mobie,酒井医療)を用いて得られた膝関節伸展筋力を体重で除し,膝伸展筋力値(N/kg)を求めた。また,麻痺側下肢のBRSを評価した。検討項目は,両脚・麻痺側・非麻痺側ブリッジの荷重率と角度,および膝伸展筋力値,BRSを起立,している移動,できる移動での能力の違いで各々群間比較を行った。有意差を認めた項目を独立変数,動作能力を従属変数とし,各動作において多重ロジスティック回帰分析を行った。また,有意に選択された独立変数のROC曲線を求めcut-off値を算出した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
多重ロジスティック回帰分析の結果,各動作に影響を及ぼす有意な独立変数として,起立では麻痺側の角度(odds比:1.19,95%CI:1.04-1.38)とBRS(odds比:3.83,95%CI:1.72-8.53)が,している移動では麻痺側の荷重率(odds比:1.30,95%CI:1.04-1.64)とBRS(odds比:7.05,95%CI:1.97-25.21)が,できる移動では麻痺側の荷重率(odds比:1.48,95%CI:1.12-1.95)とBRS(odds比:4.40,95%CI:1.50-12.93)が選択された。cut-off値は,起立がフリーとなる麻痺側の角度が-34度(感度81.5%,特異度79.3%),している移動が歩行となる麻痺側の荷重率が17%(感度83.3%,特異度75.0%),できる移動が独歩となる麻痺側の荷重率が18%(感度90.5%,特異度80.0%)であった。
【考察】
本結果では,起立,移動動作能力に影響する因子として麻痺側ブリッジ能力とBRSが有意に選択された。先行研究では膝伸展筋力との関連が報告されているが,片麻痺者の起立や歩行の獲得には分離した股関節伸展運動も重要な要素となる。今回検討した麻痺側での片脚ブリッジ運動は,下肢の分離性と股関節伸展筋力の要素を必要とする運動であるため,動作能力との関連を認めたと考える。また,選択されたBRSはその手法や判定に専門的知識を要する。しかし,本研究で用いたブリッジ運動評価は家族も含めて簡便に実施ができる点で,在宅や訪問リハにおいて動作能力の変化をスクリーニングする手法として活用できる可能性がある。今後,縦断的研究にてブリッジ運動評価による片麻痺者の獲得動作の予後予測について検討し,臨床的意義を深めて行きたい。
【理学療法学研究としての意義】
動作能力との関連を有する麻痺側のブリッジ運動評価は,簡便に定量評価が可能であり片麻痺者の股関節伸展能力を捉える一指標として有用である。
脳卒中片麻痺者(片麻痺者)に対し,選択的な股関節伸展運動を再獲得するトレーニングとしてブリッジ運動が用いられる。また,その可否により片麻痺者の股関節伸展能力を評価することも少なくない。そこで我々は,片麻痺者でのブリッジ運動能力が動作能力と関連する定量評価になり得るかを検討し,第48回本学会にてブリッジ運動時の足底にかかる荷重率と股関節伸展角度が起立と移動動作能力に関連することを報告した。しかし,片麻痺者の起立や歩行には麻痺側下肢の伸展筋力および片麻痺機能検査の結果(Brunnstrom stage;BRS)が強く影響を及ぼすとの報告が散見され,ブリッジ運動評価の有用性は明確ではない。本研究の目的は,ブリッジ運動時の足底への荷重率,股関節伸展角度,膝関節伸展筋力,BRSが片麻痺者の起立と移動動作能力に与える影響の違いについて検討し,その基準値を得ることである。
【方法】
対象は片麻痺者56名(平均年齢76.7歳,体重52.2kg)とし,動作能力の違いで,起立が上肢の支持がなくても可能であるフリー群と上肢の支持や介助を必要とする非フリー群に,している移動が歩行群と車いす群に,できる移動が独歩群と杖や歩行器を使用することで歩行が可能な補助具群に各々群分けした。なお,除外基準は重度認知症や高次脳機能障害を呈し,運動の理解が困難なものとした。課題運動は,再現性を確認されている高橋ら(2014)の先行研究に準じて,背臥位,両上肢腕組み,両膝関節110度屈曲位から殿部を挙上する両脚でのブリッジ運動と,殿部非挙上側下肢伸展位での麻痺側下肢および非麻痺側下肢での片脚ブリッジ運動とした。評価測定項目として,両脚および片脚ブリッジ時の足底部に体重計(System303,タニタ社)を設置し,各ブリッジ運動時の最大荷重値を体重で除した荷重率(荷重率)と,ブリッジ運動時の最大股関節伸展角度(角度)をゴニオメーターで計測した。徒手筋力計(Mobie,酒井医療)を用いて得られた膝関節伸展筋力を体重で除し,膝伸展筋力値(N/kg)を求めた。また,麻痺側下肢のBRSを評価した。検討項目は,両脚・麻痺側・非麻痺側ブリッジの荷重率と角度,および膝伸展筋力値,BRSを起立,している移動,できる移動での能力の違いで各々群間比較を行った。有意差を認めた項目を独立変数,動作能力を従属変数とし,各動作において多重ロジスティック回帰分析を行った。また,有意に選択された独立変数のROC曲線を求めcut-off値を算出した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
多重ロジスティック回帰分析の結果,各動作に影響を及ぼす有意な独立変数として,起立では麻痺側の角度(odds比:1.19,95%CI:1.04-1.38)とBRS(odds比:3.83,95%CI:1.72-8.53)が,している移動では麻痺側の荷重率(odds比:1.30,95%CI:1.04-1.64)とBRS(odds比:7.05,95%CI:1.97-25.21)が,できる移動では麻痺側の荷重率(odds比:1.48,95%CI:1.12-1.95)とBRS(odds比:4.40,95%CI:1.50-12.93)が選択された。cut-off値は,起立がフリーとなる麻痺側の角度が-34度(感度81.5%,特異度79.3%),している移動が歩行となる麻痺側の荷重率が17%(感度83.3%,特異度75.0%),できる移動が独歩となる麻痺側の荷重率が18%(感度90.5%,特異度80.0%)であった。
【考察】
本結果では,起立,移動動作能力に影響する因子として麻痺側ブリッジ能力とBRSが有意に選択された。先行研究では膝伸展筋力との関連が報告されているが,片麻痺者の起立や歩行の獲得には分離した股関節伸展運動も重要な要素となる。今回検討した麻痺側での片脚ブリッジ運動は,下肢の分離性と股関節伸展筋力の要素を必要とする運動であるため,動作能力との関連を認めたと考える。また,選択されたBRSはその手法や判定に専門的知識を要する。しかし,本研究で用いたブリッジ運動評価は家族も含めて簡便に実施ができる点で,在宅や訪問リハにおいて動作能力の変化をスクリーニングする手法として活用できる可能性がある。今後,縦断的研究にてブリッジ運動評価による片麻痺者の獲得動作の予後予測について検討し,臨床的意義を深めて行きたい。
【理学療法学研究としての意義】
動作能力との関連を有する麻痺側のブリッジ運動評価は,簡便に定量評価が可能であり片麻痺者の股関節伸展能力を捉える一指標として有用である。