[P3-A-1018] 回復期脳卒中片麻痺患者の体幹回旋筋力と筋パワーの検討
―歩行能力との関係について―
Keywords:脳卒中片麻痺, 歩行能力, 体幹機能
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者の歩行には下肢機能に加え体幹機能が重要とされている。体幹機能を評価する場合,脳卒中片麻痺の陰性症状には機敏さの喪失もあり,筋力測定のみでは機能評価として不十分と考える。機敏さの喪失は単位時間内に行われる仕事の低下と捉えられ,いわゆる瞬発力を指す筋パワーの低下が一つの原因であると考えられる。そこで脳卒中片麻痺患者の体幹機能と歩行能力の関係を筋力と筋パワーの双方から検討した。
【方法】
対象は当院回復期病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者で,監視以上の歩行能力を有する13名とした。杖や短下肢装具の使用は認めた。測定や歩行の障害となる整形外科的既往がある者は除外した。測定項目は体幹回旋筋力,体幹筋パワーの評価として体幹回旋スピードテスト(以下,体幹ST),Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)の下肢運動機能,下肢筋緊張,下肢感覚機能,体幹機能,麻痺側および非麻痺側下肢の体重比脚伸展筋力(三菱電機社ストレングスエルゴ240にて測定),10m最速歩行時間(以下,10mMWT)とした。その歩数からケイデンス,重複歩距離を身長で除した重複歩距離身長比を算出した。体幹回旋筋力の測定は治療台上にて行い,測定肢位は両上肢を胸部の前で組んだ足底非接地の端座位で,測定方向に15度体幹回旋した肢位と,下腿後面と座面前縁は2横指離した。下肢運動麻痺の影響を排除するために大腿近位部と遠位部をそれぞれベルトで固定し,骨盤は徒手で固定した。HHDはμ-Tas F-1(アニマ社製)を用いた。抵抗は検者が徒手にてセンサーを上腕近位前面に当て,測定方向に30度回旋した方向から徒手抵抗を加えた。事前に十分な説明と練習を行ったのち,回旋方向へ等尺性体幹回旋運動を5秒間行い,最大筋力を測定した。片側3回-反対側3回の順で測定し,最大値を左右それぞれの代表値とした。測定順序は無作為とし,全ての測定間隔は30秒以上空けた。体幹STは,測定肢位は体幹回旋筋力測定と同様とし,30秒間に左右交互に体幹回旋運動を行った回数を測定した。一側の体幹回旋角度は30度とし,指標として器具を被験者の前方と後方に設置した。前方の器具に非麻痺側の上腕近位部が,また後方の器具に非麻痺側の肩甲骨が触れることで1回の回旋と認めた。被験者には事前に極力素早くかつ正確に運動を行うように説明した。測定は3回実施し,全ての測定間隔は30秒以上空けた。3回の測定の中で最多の回旋回数を採用した。統計学的分析については,体幹STと体幹回旋筋力との関係をピアソンの積率相関係数にて求めた。体幹回旋筋力は麻痺側と非麻痺側間に有意差が無かったため,左右平均値を体重で除したものを使用した。スピアマンの順位相関係数にて10mMWT,重複歩距離身長比,ケイデンスのそれぞれに有意な相関のある測定項目の相関係数を求めた。また歩行能力と各評価項目との関係性をステップワイズ重回帰分析にて検討した。統計解析ソフトはR2.8.1を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
体幹STと体幹回旋筋力の間に有意な相関を認めた(r=0.822)。スピアマンの順位相関係数の結果は,10mMWTとは,SIAS下肢運動合計(ρ=-0.587),SIAS体幹合計(ρ=-0.569),麻痺側脚伸展筋力(ρ=-0.725),非麻痺側脚伸展筋力(ρ=-0.648),体幹ST(ρ=-0.643),重複歩距離身長比とは,麻痺側脚伸展筋力(ρ=0.741),非麻痺側脚伸展筋力(ρ=0.670),体幹ST(ρ=0.696)であった。ケイデンスと有意な相関のある項目は無かった。ステップワイズ重回帰分析の結果(括弧内は標準化偏回帰係数,自由度調整済み決定係数の順に表記)は,10mMWTはSIAS下肢運動合計(-0.629,0.340),重複歩距離身長比は体幹ST(0.623,0.333),ケイデンスは麻痺側脚伸展筋力(0.621,0.330)が採択された。
【考察】
先行研究では下肢運動機能や麻痺側膝伸展筋力が歩行速度や歩幅に関係しており,本研究でも類似した結果となった。加えて重回帰分析において,重複歩距離身長比に対して体幹STが採択されたことから,体幹機能も歩幅と関係すると考えられる。また重複歩距離身長比と体幹回旋筋力に相関が無かったことから,体幹STは体幹筋力だけでなく体幹の協調性や柔軟性などの影響も受けると考えられ,それらの要因も歩幅に関係すると推察される。そうしたことから脳卒中片麻痺患者の歩行には下肢機能が重要であるが,体幹機能も関与すると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者の体幹筋力や歩行能力に関連する評価として体幹STは有用である可能性が示唆された。また体幹機能の改善が歩幅の拡大に繋がる可能性が示唆された。
脳卒中片麻痺患者の歩行には下肢機能に加え体幹機能が重要とされている。体幹機能を評価する場合,脳卒中片麻痺の陰性症状には機敏さの喪失もあり,筋力測定のみでは機能評価として不十分と考える。機敏さの喪失は単位時間内に行われる仕事の低下と捉えられ,いわゆる瞬発力を指す筋パワーの低下が一つの原因であると考えられる。そこで脳卒中片麻痺患者の体幹機能と歩行能力の関係を筋力と筋パワーの双方から検討した。
【方法】
対象は当院回復期病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者で,監視以上の歩行能力を有する13名とした。杖や短下肢装具の使用は認めた。測定や歩行の障害となる整形外科的既往がある者は除外した。測定項目は体幹回旋筋力,体幹筋パワーの評価として体幹回旋スピードテスト(以下,体幹ST),Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)の下肢運動機能,下肢筋緊張,下肢感覚機能,体幹機能,麻痺側および非麻痺側下肢の体重比脚伸展筋力(三菱電機社ストレングスエルゴ240にて測定),10m最速歩行時間(以下,10mMWT)とした。その歩数からケイデンス,重複歩距離を身長で除した重複歩距離身長比を算出した。体幹回旋筋力の測定は治療台上にて行い,測定肢位は両上肢を胸部の前で組んだ足底非接地の端座位で,測定方向に15度体幹回旋した肢位と,下腿後面と座面前縁は2横指離した。下肢運動麻痺の影響を排除するために大腿近位部と遠位部をそれぞれベルトで固定し,骨盤は徒手で固定した。HHDはμ-Tas F-1(アニマ社製)を用いた。抵抗は検者が徒手にてセンサーを上腕近位前面に当て,測定方向に30度回旋した方向から徒手抵抗を加えた。事前に十分な説明と練習を行ったのち,回旋方向へ等尺性体幹回旋運動を5秒間行い,最大筋力を測定した。片側3回-反対側3回の順で測定し,最大値を左右それぞれの代表値とした。測定順序は無作為とし,全ての測定間隔は30秒以上空けた。体幹STは,測定肢位は体幹回旋筋力測定と同様とし,30秒間に左右交互に体幹回旋運動を行った回数を測定した。一側の体幹回旋角度は30度とし,指標として器具を被験者の前方と後方に設置した。前方の器具に非麻痺側の上腕近位部が,また後方の器具に非麻痺側の肩甲骨が触れることで1回の回旋と認めた。被験者には事前に極力素早くかつ正確に運動を行うように説明した。測定は3回実施し,全ての測定間隔は30秒以上空けた。3回の測定の中で最多の回旋回数を採用した。統計学的分析については,体幹STと体幹回旋筋力との関係をピアソンの積率相関係数にて求めた。体幹回旋筋力は麻痺側と非麻痺側間に有意差が無かったため,左右平均値を体重で除したものを使用した。スピアマンの順位相関係数にて10mMWT,重複歩距離身長比,ケイデンスのそれぞれに有意な相関のある測定項目の相関係数を求めた。また歩行能力と各評価項目との関係性をステップワイズ重回帰分析にて検討した。統計解析ソフトはR2.8.1を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
体幹STと体幹回旋筋力の間に有意な相関を認めた(r=0.822)。スピアマンの順位相関係数の結果は,10mMWTとは,SIAS下肢運動合計(ρ=-0.587),SIAS体幹合計(ρ=-0.569),麻痺側脚伸展筋力(ρ=-0.725),非麻痺側脚伸展筋力(ρ=-0.648),体幹ST(ρ=-0.643),重複歩距離身長比とは,麻痺側脚伸展筋力(ρ=0.741),非麻痺側脚伸展筋力(ρ=0.670),体幹ST(ρ=0.696)であった。ケイデンスと有意な相関のある項目は無かった。ステップワイズ重回帰分析の結果(括弧内は標準化偏回帰係数,自由度調整済み決定係数の順に表記)は,10mMWTはSIAS下肢運動合計(-0.629,0.340),重複歩距離身長比は体幹ST(0.623,0.333),ケイデンスは麻痺側脚伸展筋力(0.621,0.330)が採択された。
【考察】
先行研究では下肢運動機能や麻痺側膝伸展筋力が歩行速度や歩幅に関係しており,本研究でも類似した結果となった。加えて重回帰分析において,重複歩距離身長比に対して体幹STが採択されたことから,体幹機能も歩幅と関係すると考えられる。また重複歩距離身長比と体幹回旋筋力に相関が無かったことから,体幹STは体幹筋力だけでなく体幹の協調性や柔軟性などの影響も受けると考えられ,それらの要因も歩幅に関係すると推察される。そうしたことから脳卒中片麻痺患者の歩行には下肢機能が重要であるが,体幹機能も関与すると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者の体幹筋力や歩行能力に関連する評価として体幹STは有用である可能性が示唆された。また体幹機能の改善が歩幅の拡大に繋がる可能性が示唆された。