[P3-A-1030] Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)を用いた急性期脳血管疾患患者の失調症における歩行能力の検討
Keywords:脳血管障害, 失調, SARA
【はじめに,目的】
脊髄小脳変性による失調症の定量的な評価法としてScale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)が国際的に提唱されており,簡便で検者間信頼性,妥当性ともに優れていると報告されている。今回我々は急性期の脳血管疾患患者で失調症を呈した者に対しSARAを用いて評価を行い,同時に従来から用いられている失調に対する評価法と歩行能力の関連を検討したので報告する。
【方法】
初発の脳血管疾患により失調症を呈した患者を対象とした。小脳梗塞4名,小脳出血が1名,脳幹梗塞3名,小脳脳幹に散在する脳梗塞が1名の計9名とした。年齢は56歳から86歳,平均年齢は72.3歳であった。評価は,脳血管疾患発症後7病日にSARA,立野らの失調の重症度評価(以下 重症度分類),内山らの体幹失調の評価(以下 下肢体幹協調試験)を行った。SARAはKimらの報告を参考に8点をカットオフ値とし,8点以下を独歩可能群,8点を上回った者を移動介助群とした。他の評価として,ADL能力の指標にはFIMを用いた。
評価法について
SARA:歩行,立位,座位,言語障害,手の回内外,鼻指試験,指追い試験,膝踵試験の8項目を評価する。40点満点で得点が高いほうがより失調が重症となる。
重症度分類:stageI;スキップができる,stageII;その場でジャンプができる,stageIII;歩行,立ち止まりができる,stageIV;1分間に1.8m移動できる,stageV;座位ができる,stageVI;寝たきり状態の6段階評価である。
下肢体幹協調試験:stageI;失調なし,stageII;試験肢位で軽度の失調症状を認める,stageIII;試験肢位で中等度の失調症状を認め,通常の座位で軽度の失調症状を認める,stageIV;通常の座位で中等度失調症状を認める,の4段階評価である。
【結果】
SARAの点数は平均8.8点(4~17点)であった。独歩可能群は5人,移動介助群は4人であった。独歩可能群の重症度分類はstageII:1人,stageIII:2人,stageIV:2人,下肢体幹協調試験ではstageI:2人,stage;II:2人,stageIII;1人であった。FIMは116.2±11.9点であった。移動介助群の重症度分類はstageIV:3人,stageV:1人であった。下肢体幹協調試験はstageII:3人,stageIII:1人であった。FIMは79.3±25.1点であった。
独歩可能群には重症度分類がIVでも歩行可能な者が2人みられた。この症例のSARAの点数はそれぞれ7点,8点でSARAの歩行の項目は4点で著しいふらつきがあり,時々壁を伝うレベルであった。移動介助群では全例重症度分類ではIV以下で,下肢体幹協調試験で失調症状ありと判定されていた。
【考察】
重症度分類はSARAの得点と比較すると,運動課題の難易度順に概ね一致する傾向であった。独歩可能群で重症度分類IVの者が2人みられたが,SARAの歩行項目は4点で動揺しながらも時々壁を伝う程度で歩ける症例であった。重症度分類IIIの歩行,立ち止まりの運動課題は満たせないがSARA8点以下で独歩可能と判定されたことはバランス能力の改善で独歩獲得しうることを示唆していると考えた。
移動介助群では下肢体幹協調試験で失調なしと判定されるものはいなかった。
独歩可能群と移動介助群ではFIMの点数は独歩可能群が大きい傾向であった。独歩不能となる程度の失調症では立位バランスや歩行のバランス障害によって着替え動作や清拭,移動面で制限されている事が考えられた。SARAは,重症度や体幹失調,ADLを反映することができ,定量化できる評価として,有用であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本邦において脳血管疾患後の失調を定量化した報告はまだ少なく,失調症に対する理学療法の効果判定は十分になされていない。本研究の結果からSARAは従来から失調の評価に用いられている重症度分類や,下肢体幹協調試験と概ね一致し,ADL能力と関連する可能性が示唆された。このことからSARAは理学療法の効果判定や重症度の認識を共有するのに用いやすい評価であると考えた。
脊髄小脳変性による失調症の定量的な評価法としてScale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)が国際的に提唱されており,簡便で検者間信頼性,妥当性ともに優れていると報告されている。今回我々は急性期の脳血管疾患患者で失調症を呈した者に対しSARAを用いて評価を行い,同時に従来から用いられている失調に対する評価法と歩行能力の関連を検討したので報告する。
【方法】
初発の脳血管疾患により失調症を呈した患者を対象とした。小脳梗塞4名,小脳出血が1名,脳幹梗塞3名,小脳脳幹に散在する脳梗塞が1名の計9名とした。年齢は56歳から86歳,平均年齢は72.3歳であった。評価は,脳血管疾患発症後7病日にSARA,立野らの失調の重症度評価(以下 重症度分類),内山らの体幹失調の評価(以下 下肢体幹協調試験)を行った。SARAはKimらの報告を参考に8点をカットオフ値とし,8点以下を独歩可能群,8点を上回った者を移動介助群とした。他の評価として,ADL能力の指標にはFIMを用いた。
評価法について
SARA:歩行,立位,座位,言語障害,手の回内外,鼻指試験,指追い試験,膝踵試験の8項目を評価する。40点満点で得点が高いほうがより失調が重症となる。
重症度分類:stageI;スキップができる,stageII;その場でジャンプができる,stageIII;歩行,立ち止まりができる,stageIV;1分間に1.8m移動できる,stageV;座位ができる,stageVI;寝たきり状態の6段階評価である。
下肢体幹協調試験:stageI;失調なし,stageII;試験肢位で軽度の失調症状を認める,stageIII;試験肢位で中等度の失調症状を認め,通常の座位で軽度の失調症状を認める,stageIV;通常の座位で中等度失調症状を認める,の4段階評価である。
【結果】
SARAの点数は平均8.8点(4~17点)であった。独歩可能群は5人,移動介助群は4人であった。独歩可能群の重症度分類はstageII:1人,stageIII:2人,stageIV:2人,下肢体幹協調試験ではstageI:2人,stage;II:2人,stageIII;1人であった。FIMは116.2±11.9点であった。移動介助群の重症度分類はstageIV:3人,stageV:1人であった。下肢体幹協調試験はstageII:3人,stageIII:1人であった。FIMは79.3±25.1点であった。
独歩可能群には重症度分類がIVでも歩行可能な者が2人みられた。この症例のSARAの点数はそれぞれ7点,8点でSARAの歩行の項目は4点で著しいふらつきがあり,時々壁を伝うレベルであった。移動介助群では全例重症度分類ではIV以下で,下肢体幹協調試験で失調症状ありと判定されていた。
【考察】
重症度分類はSARAの得点と比較すると,運動課題の難易度順に概ね一致する傾向であった。独歩可能群で重症度分類IVの者が2人みられたが,SARAの歩行項目は4点で動揺しながらも時々壁を伝う程度で歩ける症例であった。重症度分類IIIの歩行,立ち止まりの運動課題は満たせないがSARA8点以下で独歩可能と判定されたことはバランス能力の改善で独歩獲得しうることを示唆していると考えた。
移動介助群では下肢体幹協調試験で失調なしと判定されるものはいなかった。
独歩可能群と移動介助群ではFIMの点数は独歩可能群が大きい傾向であった。独歩不能となる程度の失調症では立位バランスや歩行のバランス障害によって着替え動作や清拭,移動面で制限されている事が考えられた。SARAは,重症度や体幹失調,ADLを反映することができ,定量化できる評価として,有用であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本邦において脳血管疾患後の失調を定量化した報告はまだ少なく,失調症に対する理学療法の効果判定は十分になされていない。本研究の結果からSARAは従来から失調の評価に用いられている重症度分類や,下肢体幹協調試験と概ね一致し,ADL能力と関連する可能性が示唆された。このことからSARAは理学療法の効果判定や重症度の認識を共有するのに用いやすい評価であると考えた。