[P3-A-1036] 高齢急性期脳卒中患者における回復期病院退院時の歩行自立度予測モデルの作成
~決定木を利用した予後予測の試み~
キーワード:後期高齢者, 屋内歩行自立, 予後予測
【はじめに,目的】我が国の高齢化率は25.1%を占め,2025年には総人口の4人に1人が後期高齢者の時代になると言われている。脳卒中のリハビリテーション(以下リハ)においても後期高齢者を治療対象とする機会が増加すると予測される。これらの社会的問題を踏まえ急性期から機能予後を長期経過の観点から把握し,患者の生活の質を見据えたリハアプローチの実践が必要であると考える。しかし,高齢者の長期機能予後に関する縦断研究は少ない。そこで本研究では決定木分析を用いて,理学療法開始時評価から高齢脳卒中患者が回復期病院退院時に屋内歩行が自立する予測モデルを提示することを目的とする。
【方法】2011年4月~2013年12月までに当院に入院した75歳以上の一側テント上病変で発症から3日以内にリハを施行した初発の急性期脳卒中患者(クモ膜下出血は除く)250名のうち,入院前mRS4・5,リハ開始時に既にFunctional Independence Measure(以下FIM)の歩行項目が6点以上,入院中死亡例,欠損値を含んだ症例を除外した123名を対象とした。回復期病院退院時の屋内歩行自立の定義は二木の分類に準じて最低限1人で日中トイレへ行くことが出来るとした。研究デザインは後ろ向き観察研究で下記の項目を診療録と回復期リハ病院転帰時に当院へ返還される施設間連絡表を用い後方視的に調査した。調査項目は,基本属性として年齢,性別,半球,疾患,入院前mRS,理学療法評価項目としてJapan Stroke Scale(以下JSS),National Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS),上肢BRS,下肢BRS,運動FIM,認知FIM,15秒間座位保持の可否,半側空間無視の有無,失行の有無,失語の有無,リハ治療経過項目として急性期病院入院時の治療時間,急性期病院在院日数,回復期病院在院日数,全(急性期+回復期)在院日数,回復期病院退院時転帰を独立変数とし回復期病院退院時の屋内歩行自立の可否(自立群・非自立群)を従属変数とした。解析は独立変数に関して二群間で比較を行い,次に理学療法評価項目で有意差を認めた項目に関して多重共有線を考慮しspearmanの順位相間係数を用いた。相間係数の絶対値が0.7以上となった場合,臨床的に有意義と考える変数を採用し決定木分析をCHAIDを用いて実施した。分析に際し親ノードの最小値を15,子ノードの最小値を8,ツリーの最大深度は3と定めた。統計ソフトは,SPSS22.0Jを用い有意水準を5%未満とした。
【結果】単変量解析では疾患,JSS,NIHSS,15秒間座位保持の可否,運動FIM,認知FIM,半側空間無視の有無,急性期病院在院日数,回復期病院在院日数,全在院日数,回復期病院退院時転帰がP<0.01で,上肢BRS,下肢BRS,失行の有無はP<0.05で有意差を認めた。次にCHAIDによる分析結果,モデルの精度は判別的中率は75.6%,感度100%,特異度53.1%,陽性的中率66.3%,陰性的中率100%,交差検証誤差率は0.043であった。回復期病院退院時に屋内歩行自立するための因子として,下肢BRSとJSSの2つが採択された。本モデルは,第1層で下肢BRSが3以下と4以上を境に2群に分かれた。下肢BRSが3以下の群では第2層でJSSが11.85を境に2群に分かれた。下肢BRSが3以下かつJSSが11.85より大きい場合歩行自立は不可能である結果となった。ただし,BRSが3以下でもJSSが11.85以下の場合屋内歩行自立の割合は半数認めた。一方,下肢BRSが4以上の群では第2層でJSSが7.97を境に2群に分かれる結果となった。下肢BRSが4以上かつJSSが7.97以下では歩行自立の割合は87.1%であった。
【考察】決定木分析の結果,作成された回復期病院退院時の屋内歩行自立予測モデルでは下肢BRSを最初の判断基準とし,その重症度(下肢BRS≦3 or 4≦下肢BRS)によってJSSを次の判断基準にするというモデルが得られた。このモデルの感度・陰性的中率が良好なことから判断し,回復期病院退院時に屋内歩行自立が不可能となる因子の客観的な基準値(下肢BRS≦3かつJSS>11.85)が明確となった。この予測を基に屋内歩行不可能群つまり二木の分類のベッド上動作自立~全介助群には身体機能の回復だけでなく,家族の介護負担の軽減やdeconditioning・老年症候群の予防を目的としたアプローチ等,老化現象に対応できる柔軟なアプローチを考慮する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症から回復期病院退院時までの縦断研究における屋内歩行自立の可否の予測には下肢BRSとJSSが有益であった。脳卒中を呈した後期高齢者において,理学療法開始時評価から客観的な予後予測が行え,予測に基づく理学療法アプローチの立案や患者・家族・他職種間との長期目標の共有を行う一助になり得ると考えた。
【方法】2011年4月~2013年12月までに当院に入院した75歳以上の一側テント上病変で発症から3日以内にリハを施行した初発の急性期脳卒中患者(クモ膜下出血は除く)250名のうち,入院前mRS4・5,リハ開始時に既にFunctional Independence Measure(以下FIM)の歩行項目が6点以上,入院中死亡例,欠損値を含んだ症例を除外した123名を対象とした。回復期病院退院時の屋内歩行自立の定義は二木の分類に準じて最低限1人で日中トイレへ行くことが出来るとした。研究デザインは後ろ向き観察研究で下記の項目を診療録と回復期リハ病院転帰時に当院へ返還される施設間連絡表を用い後方視的に調査した。調査項目は,基本属性として年齢,性別,半球,疾患,入院前mRS,理学療法評価項目としてJapan Stroke Scale(以下JSS),National Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS),上肢BRS,下肢BRS,運動FIM,認知FIM,15秒間座位保持の可否,半側空間無視の有無,失行の有無,失語の有無,リハ治療経過項目として急性期病院入院時の治療時間,急性期病院在院日数,回復期病院在院日数,全(急性期+回復期)在院日数,回復期病院退院時転帰を独立変数とし回復期病院退院時の屋内歩行自立の可否(自立群・非自立群)を従属変数とした。解析は独立変数に関して二群間で比較を行い,次に理学療法評価項目で有意差を認めた項目に関して多重共有線を考慮しspearmanの順位相間係数を用いた。相間係数の絶対値が0.7以上となった場合,臨床的に有意義と考える変数を採用し決定木分析をCHAIDを用いて実施した。分析に際し親ノードの最小値を15,子ノードの最小値を8,ツリーの最大深度は3と定めた。統計ソフトは,SPSS22.0Jを用い有意水準を5%未満とした。
【結果】単変量解析では疾患,JSS,NIHSS,15秒間座位保持の可否,運動FIM,認知FIM,半側空間無視の有無,急性期病院在院日数,回復期病院在院日数,全在院日数,回復期病院退院時転帰がP<0.01で,上肢BRS,下肢BRS,失行の有無はP<0.05で有意差を認めた。次にCHAIDによる分析結果,モデルの精度は判別的中率は75.6%,感度100%,特異度53.1%,陽性的中率66.3%,陰性的中率100%,交差検証誤差率は0.043であった。回復期病院退院時に屋内歩行自立するための因子として,下肢BRSとJSSの2つが採択された。本モデルは,第1層で下肢BRSが3以下と4以上を境に2群に分かれた。下肢BRSが3以下の群では第2層でJSSが11.85を境に2群に分かれた。下肢BRSが3以下かつJSSが11.85より大きい場合歩行自立は不可能である結果となった。ただし,BRSが3以下でもJSSが11.85以下の場合屋内歩行自立の割合は半数認めた。一方,下肢BRSが4以上の群では第2層でJSSが7.97を境に2群に分かれる結果となった。下肢BRSが4以上かつJSSが7.97以下では歩行自立の割合は87.1%であった。
【考察】決定木分析の結果,作成された回復期病院退院時の屋内歩行自立予測モデルでは下肢BRSを最初の判断基準とし,その重症度(下肢BRS≦3 or 4≦下肢BRS)によってJSSを次の判断基準にするというモデルが得られた。このモデルの感度・陰性的中率が良好なことから判断し,回復期病院退院時に屋内歩行自立が不可能となる因子の客観的な基準値(下肢BRS≦3かつJSS>11.85)が明確となった。この予測を基に屋内歩行不可能群つまり二木の分類のベッド上動作自立~全介助群には身体機能の回復だけでなく,家族の介護負担の軽減やdeconditioning・老年症候群の予防を目的としたアプローチ等,老化現象に対応できる柔軟なアプローチを考慮する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症から回復期病院退院時までの縦断研究における屋内歩行自立の可否の予測には下肢BRSとJSSが有益であった。脳卒中を呈した後期高齢者において,理学療法開始時評価から客観的な予後予測が行え,予測に基づく理学療法アプローチの立案や患者・家族・他職種間との長期目標の共有を行う一助になり得ると考えた。