[P3-A-1059] 片麻痺者における体幹機能の違いが歩行中の体幹の動きに及ぼす影響
―症例検討―
Keywords:片麻痺, 体幹機能, 歩行
【はじめに,目的】脳血管障害患者の歩行能力や日常生活動作の向上には,下肢機能と体幹機能が重要と報告されている。下肢機能と歩行能力の関係については,既存の下肢機能評価と歩行スピードと関係があるとの報告や,下肢筋力と歩行能力との関係が示されている。体幹機能については,日常生活動作との関係が深いと報告されていることが多いと感じる。体幹機能に関しては脳血管障害者の動作向上に重要と認識されているが,どのような機能が必要とされているかは明確ではない。そこで今回は歩行に着目し,体幹機能の違いが歩行中の体幹の動きに与える影響について,症例検討を実施した。症例の比較から,必要とされる体幹機能について考察したので報告する。
【方法】対象者の身体機能は,Fugl-Meyer Assessment Scaleの下肢項目(FMA下肢)とTrunk Impairment Scale(TIS)を用い評価をした。TISに関しては,すべての項目に関して評価を実施したが,歩行に関与が大きいと思われる動的項目を今回は採用した。対象者は,対象者A:FMA下肢項目14点・TIS動的項目1点の者,対象者B:FMA下肢項目28点・TIS動的項目10点の者,対象者C:FMA下肢項目34点・TIS動的項目10点の者の3名であった。対象者はすべて男性であり,対象者Aは視床出血右麻痺で発症から210日経過,対象者Bは脳梗塞(内包後脚)左麻痺で発症から76日経過,対象者Cは脳梗塞(内頚動脈)右麻痺で発症から74日経過していた。また感覚障害の程度は,FMA感覚項目の点数において,対象者Aは1点,対象者Bで6点,対象者Cで12点であった。歩行計測に使用した計測機器は,三次元動作解析システム(VICON MX,カメラ8台,VICON MOTION SYSTEMS co.)と床反力計6枚(AMTI社製)とした。体幹には,烏口突起,第2胸椎棘突起,第10胸椎棘突起,胸骨上切痕,剣状突起,上前腸骨棘,上後腸骨棘に赤外線反射マーカを貼付し,上部体幹,中部体幹,骨盤セグメントの3つの体幹セグメントをVICON付属のソフト(Body Builder ver3.7)で作成した。対象者には,普段用いている歩行補助具を使用し,至適速度で歩行をするよう指示した。歩行は麻痺側の1歩行周期が5回得られるよう,計測空間を最低でも5往復するよう指示した。得られたデータから,麻痺側1歩行周期を100%正規化し,5周期分の平均波形を分析に使用した。
【結果】下肢機能と体幹機能が低い対象者Aは,骨盤に対し中部体幹と上部体幹が前傾位であり,体幹が屈曲位となっていた。とくに骨盤と中部体幹の間の屈曲が著名に観察された。また,回旋角度については,対象者Aで,骨盤・中部体幹・上部体幹が一体となって回旋しており,対象者B・Cでは骨盤と中部体幹・上部体幹は反位相的な回旋を示した。
【考察】体幹機能が向上すると,体幹の屈曲肢位は小さくなっており,体幹を抗重力伸展保持させておける能力が高いと推察できる。特に骨盤と中部体幹間との抗重力伸展保持能力が低いと考えられる。また,体幹機能が明らかに異なる対象者Aと対象者B・Cの間では,骨盤と中部体幹・上部体幹の回旋が特徴的であり,骨盤と中部体幹間の抗重力伸展を伴う,分節的な回旋運動が片麻痺者の体幹機能に差を生じていると考えられる。片麻痺者では,この動きに貢献する多裂筋や腹横筋などの協調した働きが低いと考えられる。しかし,筋の働きに関しては推察に過ぎず,筋電計,あるいは超音波計を用いた裏付けが今後必須である。また今回の対象者は,疾患や発症からの経過日数,感覚障害の有無などの違いを生じてしまった。今後は,対象者の統一を図るとともに人数を増やし,詳細に検討を重ねる必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】脳血管障害患者に必要とされる体幹機能とは何かを明確にするための研究の序章とすること,また臨床での体幹機能評価の一助となり得ると考える。
【方法】対象者の身体機能は,Fugl-Meyer Assessment Scaleの下肢項目(FMA下肢)とTrunk Impairment Scale(TIS)を用い評価をした。TISに関しては,すべての項目に関して評価を実施したが,歩行に関与が大きいと思われる動的項目を今回は採用した。対象者は,対象者A:FMA下肢項目14点・TIS動的項目1点の者,対象者B:FMA下肢項目28点・TIS動的項目10点の者,対象者C:FMA下肢項目34点・TIS動的項目10点の者の3名であった。対象者はすべて男性であり,対象者Aは視床出血右麻痺で発症から210日経過,対象者Bは脳梗塞(内包後脚)左麻痺で発症から76日経過,対象者Cは脳梗塞(内頚動脈)右麻痺で発症から74日経過していた。また感覚障害の程度は,FMA感覚項目の点数において,対象者Aは1点,対象者Bで6点,対象者Cで12点であった。歩行計測に使用した計測機器は,三次元動作解析システム(VICON MX,カメラ8台,VICON MOTION SYSTEMS co.)と床反力計6枚(AMTI社製)とした。体幹には,烏口突起,第2胸椎棘突起,第10胸椎棘突起,胸骨上切痕,剣状突起,上前腸骨棘,上後腸骨棘に赤外線反射マーカを貼付し,上部体幹,中部体幹,骨盤セグメントの3つの体幹セグメントをVICON付属のソフト(Body Builder ver3.7)で作成した。対象者には,普段用いている歩行補助具を使用し,至適速度で歩行をするよう指示した。歩行は麻痺側の1歩行周期が5回得られるよう,計測空間を最低でも5往復するよう指示した。得られたデータから,麻痺側1歩行周期を100%正規化し,5周期分の平均波形を分析に使用した。
【結果】下肢機能と体幹機能が低い対象者Aは,骨盤に対し中部体幹と上部体幹が前傾位であり,体幹が屈曲位となっていた。とくに骨盤と中部体幹の間の屈曲が著名に観察された。また,回旋角度については,対象者Aで,骨盤・中部体幹・上部体幹が一体となって回旋しており,対象者B・Cでは骨盤と中部体幹・上部体幹は反位相的な回旋を示した。
【考察】体幹機能が向上すると,体幹の屈曲肢位は小さくなっており,体幹を抗重力伸展保持させておける能力が高いと推察できる。特に骨盤と中部体幹間との抗重力伸展保持能力が低いと考えられる。また,体幹機能が明らかに異なる対象者Aと対象者B・Cの間では,骨盤と中部体幹・上部体幹の回旋が特徴的であり,骨盤と中部体幹間の抗重力伸展を伴う,分節的な回旋運動が片麻痺者の体幹機能に差を生じていると考えられる。片麻痺者では,この動きに貢献する多裂筋や腹横筋などの協調した働きが低いと考えられる。しかし,筋の働きに関しては推察に過ぎず,筋電計,あるいは超音波計を用いた裏付けが今後必須である。また今回の対象者は,疾患や発症からの経過日数,感覚障害の有無などの違いを生じてしまった。今後は,対象者の統一を図るとともに人数を増やし,詳細に検討を重ねる必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】脳血管障害患者に必要とされる体幹機能とは何かを明確にするための研究の序章とすること,また臨床での体幹機能評価の一助となり得ると考える。