第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

支援工学理学療法1

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1091] 車椅子バスケットボール用車椅子のシート高と加速度・速度の関係について

松浦和文1, 山出宏一1, 久保田未希1, 高宮萌2, 加藤圭彦3 (1.山口リハビリテーション病院, 2.医療法人社団青寿会武久病院, 3.山口平成会山口平成病院)

キーワード:車椅子バスケットボール, シート高, 速度

【はじめに,目的】
近年,障がい者スポーツの競技性向上に伴い,パフォーマンスの向上が重要となってきている。障がい者スポーツの中でも車椅子を用いた競技は多く,それらのスポーツにおいて車椅子操作のパフォーマンスが競技成績に及ぼす影響は大きい。そのため障がい者スポーツに関わる理学療法士は,スポーツ用車椅子に関する知識を持ち,適合に関してアドバイスできることが求められる。例として,車椅子のシート高はそのパフォーマンスに影響を与えると言われているが,シート高に関する報告は少ない。
本研究では,車椅子バスケットボール用車椅子のシート高が,加速度と速度に与える影響を検討し,車椅子バスケットボールのパフォーマンス向上の一助になることを目的とする。
【方法】
対象は本研究の内容を説明し同意を得られた,脊髄もしくは下肢の障害により体幹や下肢の筋力が低下し,上肢機能に問題のない車椅子バスケットボール選手17名とした。内訳は胸髄損傷完全麻痺群(以下,胸損群)7名(年齢31.7±8.8歳,男:女=6:1)と,腰髄損傷不全麻痺や他の疾患による下肢の機能障害の群(以下,腰損群)が9名(44.6±12.7歳,男:女=8:1)であった。
方法は,胸損群と腰損群に対して,2条件の異なるシート高にて車椅子を駆動する際の加速度,速度を計測し,その変化の違いを反復測定による分散分析を用いて検討した。シート高の条件は,対象者がハンドリムの頂点を把持した際の肘の屈曲角度が105°となる高さを「低シート」,75°となる高さを「高シート」とした。その際,背シートとフットプレートの高さが影響を受けないように,シート高に合わせて調整した。
加速度,速度については,それぞれのシート高で,できるだけ速く直進駆動するように指示し,スタート地点から3mと14mに達する時間をストップウォッチで測定した。測定した時間と距離から,0mから3m間の加速度と,3mから14m間の平均速度を計算した。
さらに,各群内において「低シート」と「高シート」の差を対応のあるt検定にて検討した。有意水準は5%未満とし,検定にはSPSS12.0Jを用いた。
【結果】
分散分析の結果,加速度に有意差を認めた(p=0.047)。また速度においても有意差を認めた(p=0.007)。次に,胸損群のシート高の違いによる加速度の比較において,「低シート」に比べて「高シート」は有意に低下した(p=0.001)。さらに速度の比較でも,「低シート」に比べて「高シート」は有意に低下した(p=0.002)。腰損群の加速度の比較では,「低シート」と「高シート」の有意差を認めなかった(p=0.70)。また,速度の比較においても,有意差を認めなかった(p=0.69)。
【考察】
本研究結果より,胸損群は,車椅子駆動の加速度,速度にシート高の影響を受けやすく,シート高が高くなることで,加速度,速度共に有意に低下することがわかった。一般的に,胸髄損傷完全麻痺者は,股関節伸展筋力がないため,車椅子上で体幹前傾に伴う股関節屈曲姿勢をとると,すぐに元の姿勢に戻ることができない。このことが,ハンドリムに推進力を加える手の運動軌跡を小さくし,加速度や速度を低下させる原因と考えられた。腰髄の不全麻痺者や下肢障害者の場合,股関節伸展筋力が残存しているため,車椅子上で体幹前傾に伴う股関節屈曲姿勢をとった後,すぐに元の姿勢に戻り,再び車椅子を駆動しやすい姿勢をとることができる。このことがシート高の違いによる差が少なくなる原因であると推測した。
しかしながら,本研究の限界として,完全麻痺,不全麻痺が混在し,下肢の筋力の影響を詳細に検討できていないことが挙げられる。今後は,下肢筋力を考慮に入れて,本研究で得られた結果の再検討を行っていく必要があると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によって,車椅子使用スポーツにおけるシート高と,加速度・速度の関係に関する知見を得た。このことは,理学療法士が対象者の最適な車椅子を考える上で,1つの判断基準にできることに意義があると考える。