[P3-A-1097] 視線入力装置The Eye Tribe Trackerを用いた意思伝達装置の試み
―「しのびクリック」の応用によるクリック操作の改善―
Keywords:ALS, 意思伝達装置, Eye Tracker
【はじめに,目的】
筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)をはじめとする神経難病においては,筋力低下の進行が発声器官におよび,コミュニケーションに大きな問題をもたらす症例が少なくない。また進行に伴い通常のスイッチが押せなくなるなどの障害が頻繁にありうるため,様々なスイッチや意思伝達装置を再検討し,身体状況に合わせて使用しているのが現状である。2013年末,パーソナルコンピューター(以下PC)のマウスカーソルを視線で操作出来る装置The Eye Tribe Tracker(以下EyeTracker)が開発された。
我々は第68回国立病院総合医学会に於いて,EyeTrackerをALS患者に試用し,臨床での有用性を検討した。その際,マウスカーソルは眼球運動にて動かし,クリックは右足関節底屈による空気圧スイッチにて行う方法であった。今回は注視によりクリックが可能となるソフトウェア「しのびクリック」(吉村隆樹作)を使用し,眼球運動および注視によって意思伝達装置を操作出来るようにした。このEyeTrackerをALS患者1名と演者にて試用し有用性を検討したので報告する。
【方法】
対象者はALSにて意思伝達装置を使用している60歳代女性1名(以下,症例)と演者で,症例はADL全介助,右足関節底屈にて空気圧スイッチを操作している。使用機器はEyeTracker(Eye Tribe社製)およびEyeTracker用専用ソフトウェア,意思伝達装置としてHeartyLadder,クリックするソフトウェアとして「しのびクリック」,それらをインストールしたPC(OS:Widows7)である。環境設定として,Bedの背上げ角度は15~30°,アーム式PC固定具およびHeartyLadderCD付属のワンタッチ短文入力画面を使用した。
方法は眼球運動および注視によって同一の短文(17文字)入力を行った。評価としては,1)利用の適否,2)試行した時間,3)入力に要した時間,4)生じ易いミス・誤作動,5)眼球運動・瞬目・開閉眼など,6)要望・感想とした。
【結果】
1)演者は利用可能,症例では入力が不安定。2)演者は30分程度,ALS患者は一週間に一度30分程度を3ヶ月程度実施。3)演者は32秒,症例はミスが多く不可。4)マウスカーソルが,見ている場所と若干ズレることにより正確な入力が難しい。クリックまでの時間設定が難しく,選んでいない文字を選択し易い。5)症例の眼球運動はゆっくりでも速い動きでも特に問題なし。瞬目・開閉眼は上下眼瞼部の動きが不十分で努力を要す。連続5分程度使用すると,上眼瞼部の軽度下垂が認められる。6)一文字に焦点を合わせること,注視すること,それを短時間でも継続することが疲労をもたらしやすい。
【考察】
演者では文章作成可能であったが,症例では困難であった。この問題点を大きく分類すると「目でマウスを動かすこと」と「目でクリックすること」の2点に分けられる。
「目でマウスを動かすこと」はPCとEyeTrackerと目との位置関係を適切に設定すること,視線をEyeTrackerがしっかり認識することが必要不可欠である。その際,眼瞼下垂によって瞳孔に上眼瞼が近づきすぎるとEyeTrackerが上手く認識出来ないことが多いと思われる。
「目でクリックすること」はしのびクリックを使用して可能であるが,文字を一定時間注視し,視線を固定することが必要となる。この一定時間注視し視線を固定することが症例では難しく,ミスが多くなり文章が作成できなかった要因と思われる。また瞬きでクリックできるような改善も望まれる。
よって現時点での最もよい適応としては,上眼瞼部の下垂が少なく,連続で注視しても目の疲労が少ない人であると考えられる。また現在,使い易くするためには個人でプログラミングする必要があるため,技術を持った人間が多く関わることで,より適応範囲が広がると思われる。以上から,現時点での(ソフト開発を自在に行わない範囲)EyeTrackerの臨床適応範囲が明確となり,症例を選べば極めて有用である可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
EyeTrackerにより視線入力を可能にすることで,更なる症状の進行にも対応出来る可能性が広がり,コミュニケーションの継続が期待できる。また,世界中でIT及びプログラミング教育の必要性が叫ばれており,日本に於いても国策として「産業競争力の源泉となるハイレベルなIT人材の育成・確保」という項目が挙げられている。
今後はrehabilitationとITはより密接な関係が必要であり,我々の活動分野の拡大にもつながるため,非常に意義がある。
筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)をはじめとする神経難病においては,筋力低下の進行が発声器官におよび,コミュニケーションに大きな問題をもたらす症例が少なくない。また進行に伴い通常のスイッチが押せなくなるなどの障害が頻繁にありうるため,様々なスイッチや意思伝達装置を再検討し,身体状況に合わせて使用しているのが現状である。2013年末,パーソナルコンピューター(以下PC)のマウスカーソルを視線で操作出来る装置The Eye Tribe Tracker(以下EyeTracker)が開発された。
我々は第68回国立病院総合医学会に於いて,EyeTrackerをALS患者に試用し,臨床での有用性を検討した。その際,マウスカーソルは眼球運動にて動かし,クリックは右足関節底屈による空気圧スイッチにて行う方法であった。今回は注視によりクリックが可能となるソフトウェア「しのびクリック」(吉村隆樹作)を使用し,眼球運動および注視によって意思伝達装置を操作出来るようにした。このEyeTrackerをALS患者1名と演者にて試用し有用性を検討したので報告する。
【方法】
対象者はALSにて意思伝達装置を使用している60歳代女性1名(以下,症例)と演者で,症例はADL全介助,右足関節底屈にて空気圧スイッチを操作している。使用機器はEyeTracker(Eye Tribe社製)およびEyeTracker用専用ソフトウェア,意思伝達装置としてHeartyLadder,クリックするソフトウェアとして「しのびクリック」,それらをインストールしたPC(OS:Widows7)である。環境設定として,Bedの背上げ角度は15~30°,アーム式PC固定具およびHeartyLadderCD付属のワンタッチ短文入力画面を使用した。
方法は眼球運動および注視によって同一の短文(17文字)入力を行った。評価としては,1)利用の適否,2)試行した時間,3)入力に要した時間,4)生じ易いミス・誤作動,5)眼球運動・瞬目・開閉眼など,6)要望・感想とした。
【結果】
1)演者は利用可能,症例では入力が不安定。2)演者は30分程度,ALS患者は一週間に一度30分程度を3ヶ月程度実施。3)演者は32秒,症例はミスが多く不可。4)マウスカーソルが,見ている場所と若干ズレることにより正確な入力が難しい。クリックまでの時間設定が難しく,選んでいない文字を選択し易い。5)症例の眼球運動はゆっくりでも速い動きでも特に問題なし。瞬目・開閉眼は上下眼瞼部の動きが不十分で努力を要す。連続5分程度使用すると,上眼瞼部の軽度下垂が認められる。6)一文字に焦点を合わせること,注視すること,それを短時間でも継続することが疲労をもたらしやすい。
【考察】
演者では文章作成可能であったが,症例では困難であった。この問題点を大きく分類すると「目でマウスを動かすこと」と「目でクリックすること」の2点に分けられる。
「目でマウスを動かすこと」はPCとEyeTrackerと目との位置関係を適切に設定すること,視線をEyeTrackerがしっかり認識することが必要不可欠である。その際,眼瞼下垂によって瞳孔に上眼瞼が近づきすぎるとEyeTrackerが上手く認識出来ないことが多いと思われる。
「目でクリックすること」はしのびクリックを使用して可能であるが,文字を一定時間注視し,視線を固定することが必要となる。この一定時間注視し視線を固定することが症例では難しく,ミスが多くなり文章が作成できなかった要因と思われる。また瞬きでクリックできるような改善も望まれる。
よって現時点での最もよい適応としては,上眼瞼部の下垂が少なく,連続で注視しても目の疲労が少ない人であると考えられる。また現在,使い易くするためには個人でプログラミングする必要があるため,技術を持った人間が多く関わることで,より適応範囲が広がると思われる。以上から,現時点での(ソフト開発を自在に行わない範囲)EyeTrackerの臨床適応範囲が明確となり,症例を選べば極めて有用である可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
EyeTrackerにより視線入力を可能にすることで,更なる症状の進行にも対応出来る可能性が広がり,コミュニケーションの継続が期待できる。また,世界中でIT及びプログラミング教育の必要性が叫ばれており,日本に於いても国策として「産業競争力の源泉となるハイレベルなIT人材の育成・確保」という項目が挙げられている。
今後はrehabilitationとITはより密接な関係が必要であり,我々の活動分野の拡大にもつながるため,非常に意義がある。