[P3-B-1086] 中津川市介護予防施策における高齢者の運動機能と日常活動の変化
キーワード:介護予防, 地域包括ケアシステム, 二次予防高齢者
【はじめに】
域包括ケアシステムの構築に伴い,理学療法士の職域に拡がりが期待される中,行政担当者との良好な関係作りは私たちの喫緊課題の一つとなっている。当院は岐阜県中津川市における高齢者施策に関わりを持ち,地域高齢者の介護予防に注力している。今回,当事業に参加した地域高齢者の運動機能の変化,および日常生活の主観的変化について調査したので報告する。
【対象】
平成25年度に,中津川市内5つの地区において開催された,高齢者介護予防運動教室(二次予防高齢者施策)に参加した地域高齢者49名(男性17名,女性32名,78.6±4.7歳)。
【教室内用】
教室は各地区とも週1回,約90分間の内容で3ヶ月間(全12回)開催され,フィットネスクラブのインストラクターや,柔道整復師,保健師,看護師などが運動指導にあたった。運動プログラムの内容は,ストレッチ体操,椅子座位での自動運動,プールを利用した水中運動など,地区の実情に合わせたものであった。理学療法士は現場のスタッフに対する運動実施の要点やリスク管理の指導に関わり,事業アドバイザーの立場を取った。
【評価】
全ての対象者に対する運動機能評価として,握力,長座位体前屈,開眼片足立ち,timed up&go,5m速歩タイムを事業実施前後に測定した。また日常活動における主観的変化を,市が作成した「中津川市日常生活評価シート」を用い,歩ける時間(持久力)と日常的な行動空間(活動範囲)のスコアを集計した。
【検討方法】
運動機能の前後変化については,Wilcoxonの符号付き順位検定を用い,項目ごとにTukeyの差平均プロットを作成し比較した。主観的スコアの変化については,事業前後それぞれにおける各項目を,chi-square testおよび,Correspondence分析によるポジショニングデータを作成後,布置図にプロットし,原点からの距離,方向の近似性を確認した。また項目ごとにヒストグラムを作成し,データの個別追求によるヒストグラムマーキング手法にて,項目内変化の移行先を視覚化した。統計処理はSAS社製JMP9を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
事業参加前の主観的変化では,「30分くらいなら歩ける」人における「部屋は出るが家の中にいることが多い」割合は50%であった(p<0.05)。また事業前「部屋は出るが家の中にいることが多い」人たちの中で,70%は30分以上歩ける方であった。運動機能の前後変化においては,timed up & goと5m速歩タイムにおいて有意な向上が認められた(p<0.01)。また前後の持久力のポジショニングデータ配置では,布置図において「5分も歩けない」および「15分くらいなら歩ける」の近似性が崩れていた。また事業前30分以上歩けていた人における,事業後の活動範囲のスコアが向上していた。
【考察】
まず始めに今回対象であった二次予防高齢者の多くは,事業開始前より日常の活動性が低いことが確認された。また運動機能の向上でtimed up & go,5m速歩タイムに有意差が得られたことからは,二次予防地域高齢者への運動介入では独立した機能の向上よりも,総合的な動作能力(パフォーマンス能力)において変化が表出されやすいことが示唆された。さらにCorrespondence分析の布置図から,15分程度までしか歩けない人の活動に変化が生まれた可能性が示されると共に,ヒストグラムマーキングから,30分以上歩ける人において活動性の向上が認められた事実も勘案すると,今回の介護予防施策が地域高齢者の体力レベルに関わらず,一定の改善効果をもたらしたことが明らかとなった。こうしたことは同時に,ICF分類における「心身機能」と「活動」への働きかけであったとも言え,介護予防の命題に貢献する取り組みであったと考えられた。なお今回の事業では,理学療法士は運営に対するアドバイザー的な立場をとったが,こうした指導的立場としてのセラピストの関わり方が,自治体の介護予防施策を成功に導く牽引力となり得ることも経験した。このような形での事業効果への寄与は,今後の地域包括ケアシステムにおいて,より注目されるスタイルになると思われる。
【理学療法としての意義】
理学療法士が行なう適正な評価と結果の集約は,地域包括ケアシステムの構築における自治体行政への有用なアピールとなり,他職種や一般市民からの信頼を得るための取り組みに繋がると考える。
域包括ケアシステムの構築に伴い,理学療法士の職域に拡がりが期待される中,行政担当者との良好な関係作りは私たちの喫緊課題の一つとなっている。当院は岐阜県中津川市における高齢者施策に関わりを持ち,地域高齢者の介護予防に注力している。今回,当事業に参加した地域高齢者の運動機能の変化,および日常生活の主観的変化について調査したので報告する。
【対象】
平成25年度に,中津川市内5つの地区において開催された,高齢者介護予防運動教室(二次予防高齢者施策)に参加した地域高齢者49名(男性17名,女性32名,78.6±4.7歳)。
【教室内用】
教室は各地区とも週1回,約90分間の内容で3ヶ月間(全12回)開催され,フィットネスクラブのインストラクターや,柔道整復師,保健師,看護師などが運動指導にあたった。運動プログラムの内容は,ストレッチ体操,椅子座位での自動運動,プールを利用した水中運動など,地区の実情に合わせたものであった。理学療法士は現場のスタッフに対する運動実施の要点やリスク管理の指導に関わり,事業アドバイザーの立場を取った。
【評価】
全ての対象者に対する運動機能評価として,握力,長座位体前屈,開眼片足立ち,timed up&go,5m速歩タイムを事業実施前後に測定した。また日常活動における主観的変化を,市が作成した「中津川市日常生活評価シート」を用い,歩ける時間(持久力)と日常的な行動空間(活動範囲)のスコアを集計した。
【検討方法】
運動機能の前後変化については,Wilcoxonの符号付き順位検定を用い,項目ごとにTukeyの差平均プロットを作成し比較した。主観的スコアの変化については,事業前後それぞれにおける各項目を,chi-square testおよび,Correspondence分析によるポジショニングデータを作成後,布置図にプロットし,原点からの距離,方向の近似性を確認した。また項目ごとにヒストグラムを作成し,データの個別追求によるヒストグラムマーキング手法にて,項目内変化の移行先を視覚化した。統計処理はSAS社製JMP9を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
事業参加前の主観的変化では,「30分くらいなら歩ける」人における「部屋は出るが家の中にいることが多い」割合は50%であった(p<0.05)。また事業前「部屋は出るが家の中にいることが多い」人たちの中で,70%は30分以上歩ける方であった。運動機能の前後変化においては,timed up & goと5m速歩タイムにおいて有意な向上が認められた(p<0.01)。また前後の持久力のポジショニングデータ配置では,布置図において「5分も歩けない」および「15分くらいなら歩ける」の近似性が崩れていた。また事業前30分以上歩けていた人における,事業後の活動範囲のスコアが向上していた。
【考察】
まず始めに今回対象であった二次予防高齢者の多くは,事業開始前より日常の活動性が低いことが確認された。また運動機能の向上でtimed up & go,5m速歩タイムに有意差が得られたことからは,二次予防地域高齢者への運動介入では独立した機能の向上よりも,総合的な動作能力(パフォーマンス能力)において変化が表出されやすいことが示唆された。さらにCorrespondence分析の布置図から,15分程度までしか歩けない人の活動に変化が生まれた可能性が示されると共に,ヒストグラムマーキングから,30分以上歩ける人において活動性の向上が認められた事実も勘案すると,今回の介護予防施策が地域高齢者の体力レベルに関わらず,一定の改善効果をもたらしたことが明らかとなった。こうしたことは同時に,ICF分類における「心身機能」と「活動」への働きかけであったとも言え,介護予防の命題に貢献する取り組みであったと考えられた。なお今回の事業では,理学療法士は運営に対するアドバイザー的な立場をとったが,こうした指導的立場としてのセラピストの関わり方が,自治体の介護予防施策を成功に導く牽引力となり得ることも経験した。このような形での事業効果への寄与は,今後の地域包括ケアシステムにおいて,より注目されるスタイルになると思われる。
【理学療法としての意義】
理学療法士が行なう適正な評価と結果の集約は,地域包括ケアシステムの構築における自治体行政への有用なアピールとなり,他職種や一般市民からの信頼を得るための取り組みに繋がると考える。