第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1149] 運動器領域における退院時リハビリテーション指導システムの開発

―TQM活動による医療・患者サービスの改善―

田中正則1, 小田洋子2, 稲富真理恵1, 本多有紗1, 山口みずほ1, 岡村武3 (1.国立病院機構佐賀病院リハビリテーション科, 2.国立病院機構嬉野医療センターリハビリテーション科, 3.国立病院機構福岡病院リハビリテーション科)

キーワード:TQM活動, 退院時リハビリテーション指導, 人材育成

【はじめに,目的】急性期リハビリテーション対象患者が自宅退院する場合に,在宅での日常生活や身体状況の変化に不安を抱えている。このような状況を踏まえて退院時リハビリテーション指導を口頭あるいは文書で行ってきたが,急な退院に対応できない場合や指導忘れのミスも散見され,セラピストの個人力量に負うところが多かった。今回,人材育成の専門家の指導によるTQM(Total Quality Management)活動の取り組みを経験して,スタッフが退院時リハビリテーション指導の必要性に気づくことによる診療の質の改善を検討したので報告する。
【方法】対象は平成25年5月から平成26年10月まで当科に在職した理学療法士6名作業療法士2名と,同時期に当院整形外科・形成外科病棟入院中にリハビリテーションサービスを受けた患者とした。TQM活動はまず第1段階として現状の把握のため1ヶ月間実態調査を行った後,第2段階としてTQM活動の目標値を専門家による1回目のヒヤリングを経験して,自宅退院患者に対する書面での退院時指導実施率100%と設定した。第3段階で原因の究明として各スタッフに5分間で意見を挙げてもらい,各因子に収束した項目の内容からKJ法を参考にして,その因子を解釈しやすい命名を行った。次に,専門家による2回目ヒヤリングを受けながら因子構造に基づくフィッシュボーン図を作成する確認的因子分析を行った。第4段階として対策の検討の必要度を協力性・連携性・継続性・実現性・効果性の5項目3点満点で評価し合計点を算出した。第5段階として改善の実施は,運動器の肩・手・腰部・股・膝・足関節について6種類のA4版指導書の作成と,週1回のカンファレンス時に主治医へ退院時指導の処方確認と,看護師から退院予定者の連絡体制を整えた段階で,平成26年1月にTQM活動が確立した。TQM活動前後の退院時リハビリテーション指導月別実施件数の平均値の差の検定には,ウェルチの検定を用いて有意水準を5%とした。
【結果】実態調査後の原因究明の段階で作成したフィッシュボーン図には7領域19因子が採用された。その因子の中で対策の検討が高かった因子は,①日常患者と話しをしているのでよいと思う15点,②退院時指導に時間がかかる15点,③急な退院がある15点,④医師からの指示がない10点であった。TQM活動前9ヶ月間の退院時リハビリテーション指導件数は23件で月平均値と標準偏差は2.6±1.1,TQM活動後9ヶ月間は145件で月平均値と標準偏差は16.1±5.1となり,両群の間には統計的有意差を認めなかった。またTQM活動後の自宅退院患者に占める退院時リハビリテーション指導患者数の割合は月平均83.8%(最小値68.2%最大値100%)となった。
【考察】スタッフが「指導しなくてもよい」「面倒くさい」などと自己中心的な行動規範では,患者満足度向上には結びつかないことに気づいたことは,TQM活動が人材育成として有効なツールであると示唆された。また,運動器6関節について自宅退院後のプログラムの標準化をスタッフが協働して取り組んだことで治療手技の妥当性を検討するに至った。更に,実行と評価と改善を繰り返す無形効果として,自宅退院決定後の入院中プログラムに不要なものは削除されて必要な個別的治療内容が,退院後も継続されるようにコメント欄に記載されるようになったことと,自宅退院の可否を専門家として判断を求められた時に,プ標準化したログラムの遂行状況で在宅での療養が可能かどうか判断できるようになった。
【理学療法研究としての意義】運動器領域における退院時リハビリテーション指導を,関節別の指導書をA4版1枚に標準化することで,各スタッフが効率よく働けるようになると共に,指導内容に準じて退院直前のプログラムが実施されることで患者の自宅退院への自覚が高まり,在宅生活を積極的にデザインするように意識が変わった。PDCAサイクルを継続することで1年後には指導書の改訂に取り組むなど自己啓発が高まったことは人材育成の文化が職場内で醸成されたであろう。