[P3-C-0897] 長内転筋の作用に与える形態的個体差に関する検討
キーワード:長内転筋, 個体差, 筋作用
【はじめに,目的】
股関節内転筋群は,歩行や走行などの身体活動に関与するが,その作用は十分には解明されてはいない。なぜなら股関節は,非常に自由度の高い関節であるとともに可動域が大きく,関節角度により筋の作用も大きく変化するからである。近年,内転筋に関する股関節角度と筋の作用変化に関しては,モーメントアームを用いた検討が散見されるが,統一した見解は得られていない。統一した見解が得られていない理由の一つに,これまでは形態的個体差に関する検討がなされていないことが考えられる。本研究の目的は,骨の形状および長内転筋付着部などの形態的個体差を測定し,個体差が長内転筋の作用にどの様な影響を与えるか検討することである。
【方法】
対象は,平成26年度の北海道医療大学(以下,大学)人体解剖学実習に用いた通常固定遺体(以下,献体)9体(男性5体,女性4体)とした。献体の右股関節の屈曲伸展運動が屈曲120°~伸展15°まで可能となるよう関節唇を切開し,靭帯や筋などの周囲組織を切除した。形態的測定は,献体からの直接的な計測を行った。関節運動の測定は,献体が左側臥位となるように測定台に固定し,両側の上前腸骨棘,恥骨結合,大腿骨大転子(以下,大転子),大腿骨外側上顆,長内転筋起始部,長内転筋近位停止部,長内転筋遠位停止部と股関節運動中心を投影する9点に反射マーカーを装着し,屈曲伸展運動を4台のデジタルカメラで撮影し,三次元動作解析ソフト(ディケイエイチ社製,Frame Dias V)を用いて解析を行った。測定項目は,頚体角,前捻角,大腿長,大転子と長内転筋付着部の距離(近位停止部と遠位停止部),解剖学的基本肢位で矢状面上で右上前腸骨棘から下ろした垂線と大転子の距離(以下,上前腸骨棘~大転子間距離),同様に矢状面上の恥骨結合と大転子の距離(以下,恥骨結合~大転子間距離),そして股関節屈曲伸展運動に関し長内転筋の作用が変化する角度の8項目とした。測定した形態的個体差の各測定項目と股関節屈曲伸展運動に関して長内転筋の作用が変化する角度との関連性に関して検討を行った。統計学的解析は,Spearmanの順位相関係数を用い,有意水準5%とした。
【結果】
測定結果の平均値は,大腿長343±24mm,頚体角134.9±6.1度,前捻角24.1±7.8度,大転子と長内転筋近位停止部の距離133±26mm,大転子と長内転筋遠位停止部の距離244±20mm,上前腸骨棘~大転子間距離115.9±24.4mm,恥骨結合~大転子間距離100.4±22.5mmであった。検討の結果,長内転筋の作用が変化する平均角度は,近位停止部で77.4±20.1度,遠位停止部で66.8±8.3度であった。作用が変化する角度と形態的個体差の関連性については,上前腸骨棘~大転子間距離と近位停止部の作用が変化する角度においてのみ有意な相関を認め,それ以外の測定項目には相関は認められなかった。また,測定項目同士の相関を求めたところ,前捻角と恥骨結合~大転子間距離に相関を認めた。
【考察】
測定の結果,大腿骨の形態的個体差と長内転筋の作用変化との相関は,上前腸骨~大転子間距離の1項目のみにしか認められなかった。大腿骨の前捻角は,上前腸骨棘~大転子間距離や恥骨結合~大転子間距離と関連性が高いと考えられたが,上前腸骨棘~大転子間距離には相関は認められず,恥骨結合~大転子間距離にのみ相関が認められた。以上の結果から,筋の作用が変化する角度については,複数の形態的個体差が複雑に関与していると考えられた。股関節屈曲角度が77.4±20.1度の範囲で長内転筋の作用が変化することから,身体活動に関する動作分析を行う際には,筋作用の変化も考慮の上で分析を行うことが必要と考えられた。また,今回の検討では十分な見解を得るには至らず,今後も継続的に更に多くのデータを採取し,検討していく必要があると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
股関節における長内転筋作用と形態的個体差の関係を明確にすることで,臨床におけるきめ細かい動作分析や,より効率的な筋力トレーニングの処方の一助になると考える。
股関節内転筋群は,歩行や走行などの身体活動に関与するが,その作用は十分には解明されてはいない。なぜなら股関節は,非常に自由度の高い関節であるとともに可動域が大きく,関節角度により筋の作用も大きく変化するからである。近年,内転筋に関する股関節角度と筋の作用変化に関しては,モーメントアームを用いた検討が散見されるが,統一した見解は得られていない。統一した見解が得られていない理由の一つに,これまでは形態的個体差に関する検討がなされていないことが考えられる。本研究の目的は,骨の形状および長内転筋付着部などの形態的個体差を測定し,個体差が長内転筋の作用にどの様な影響を与えるか検討することである。
【方法】
対象は,平成26年度の北海道医療大学(以下,大学)人体解剖学実習に用いた通常固定遺体(以下,献体)9体(男性5体,女性4体)とした。献体の右股関節の屈曲伸展運動が屈曲120°~伸展15°まで可能となるよう関節唇を切開し,靭帯や筋などの周囲組織を切除した。形態的測定は,献体からの直接的な計測を行った。関節運動の測定は,献体が左側臥位となるように測定台に固定し,両側の上前腸骨棘,恥骨結合,大腿骨大転子(以下,大転子),大腿骨外側上顆,長内転筋起始部,長内転筋近位停止部,長内転筋遠位停止部と股関節運動中心を投影する9点に反射マーカーを装着し,屈曲伸展運動を4台のデジタルカメラで撮影し,三次元動作解析ソフト(ディケイエイチ社製,Frame Dias V)を用いて解析を行った。測定項目は,頚体角,前捻角,大腿長,大転子と長内転筋付着部の距離(近位停止部と遠位停止部),解剖学的基本肢位で矢状面上で右上前腸骨棘から下ろした垂線と大転子の距離(以下,上前腸骨棘~大転子間距離),同様に矢状面上の恥骨結合と大転子の距離(以下,恥骨結合~大転子間距離),そして股関節屈曲伸展運動に関し長内転筋の作用が変化する角度の8項目とした。測定した形態的個体差の各測定項目と股関節屈曲伸展運動に関して長内転筋の作用が変化する角度との関連性に関して検討を行った。統計学的解析は,Spearmanの順位相関係数を用い,有意水準5%とした。
【結果】
測定結果の平均値は,大腿長343±24mm,頚体角134.9±6.1度,前捻角24.1±7.8度,大転子と長内転筋近位停止部の距離133±26mm,大転子と長内転筋遠位停止部の距離244±20mm,上前腸骨棘~大転子間距離115.9±24.4mm,恥骨結合~大転子間距離100.4±22.5mmであった。検討の結果,長内転筋の作用が変化する平均角度は,近位停止部で77.4±20.1度,遠位停止部で66.8±8.3度であった。作用が変化する角度と形態的個体差の関連性については,上前腸骨棘~大転子間距離と近位停止部の作用が変化する角度においてのみ有意な相関を認め,それ以外の測定項目には相関は認められなかった。また,測定項目同士の相関を求めたところ,前捻角と恥骨結合~大転子間距離に相関を認めた。
【考察】
測定の結果,大腿骨の形態的個体差と長内転筋の作用変化との相関は,上前腸骨~大転子間距離の1項目のみにしか認められなかった。大腿骨の前捻角は,上前腸骨棘~大転子間距離や恥骨結合~大転子間距離と関連性が高いと考えられたが,上前腸骨棘~大転子間距離には相関は認められず,恥骨結合~大転子間距離にのみ相関が認められた。以上の結果から,筋の作用が変化する角度については,複数の形態的個体差が複雑に関与していると考えられた。股関節屈曲角度が77.4±20.1度の範囲で長内転筋の作用が変化することから,身体活動に関する動作分析を行う際には,筋作用の変化も考慮の上で分析を行うことが必要と考えられた。また,今回の検討では十分な見解を得るには至らず,今後も継続的に更に多くのデータを採取し,検討していく必要があると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
股関節における長内転筋作用と形態的個体差の関係を明確にすることで,臨床におけるきめ細かい動作分析や,より効率的な筋力トレーニングの処方の一助になると考える。