[P3-C-0900] THAを施行した変形性股関節症患者の術前大腰筋量と退院時歩行速度との関連
Keywords:大腰筋, 変形性股関節症, 人工股関節置換術
【はじめに】大腰筋は,歩行の主動作筋として重要であり,全身の骨格筋量と相関のある筋肉であることも報告されている。大腰筋量に関して,健常者やがん患者,腰椎疾患患者などの報告は散見されるが,変形性股関節症患者の報告はない。今回,人工股関節置換術(以下THA)を施行された変形性股関節症患者の術前大腰筋量を調査した。本研究の目的は,大腰筋量を年代別に分類し,その特徴を観察すること,大腰筋量と退院時歩行速度との関連について検討することである。
【対象】2007年4月~2013年3月に変形性股関節症で片側THAを施行され,術前骨盤CTを行った女性124例のうち,50歳未満,反対側のTHAの既往,術後合併症を有したものを除いた115例を対象とした。年齢分布は50歳代22例,60歳代37例,70歳代44例,80歳代12例で平均年齢は68.1歳であった。平均術後入院期間は19.7日で,年代間で有意差を認めなかった。転帰は自宅退院112例,転院3例であった。
【方法】大腰筋の横断面積を筋量推定の指標とし,CT画像上の第4腰椎レベルの非術側,術側大腰筋の筋肉面積を,医用画像解析ソフトウエア「スライスオマティック」にて測定した。また,手術時の年齢,身長,体重,BMI,術後入院期間,膝伸筋,股屈筋の退院時徒手筋力検査値(以下MMT値),退院時歩行速度(快適)をカルテから後方視的に抽出した。統計学的分析には,SPSSstatics22を用いた。年代別の比較には,Kruskal-Wallis検定後にBonferroni法にて多重比較を行った。術側と非術側との大腰筋量の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた。退院時歩行速度と年齢,身長,体重,術後入院期間,膝伸筋,股屈筋の退院時MMT値との関連性は,Spearmanの順位相関係数を用い検討した。
【結果】大腰筋面積(非術側,術側)は,50歳代(6.81cm2,5.33cm2),60歳代(6.52cm2,4.73cm2),70歳代(5.97cm2,4.79cm2),80歳代(5.74cm2,5.16cm2)で,50歳代~70歳代までは,非術側と術側間で有意差を認めた(P<0.01)。各年代間では非術側,術側共に有意差を認めなかったが,いずれも加齢に伴い縮小傾向を示した。退院時歩行速度は,50歳代0.81m/sec,60歳代0.74m/sec,70歳代0.57m/sec,80歳代0.51m/secで,年齢と中等度の負の相関を認めた(R=-0.427;P<0.01)。大腰筋量と退院時歩行速度との関連は,非術側大腰筋量と弱い正の相関を示し(R=0.307;P<0.01),術側大腰筋量とは相関を示さなかった。退院時歩行速度とその他の項目の関連は,術側股屈筋MMT値に中等度の相関を認め(R=0.402;P<0.01),身長(R=0.377;P<0.01),術後日数(R=-0.327;P<0.01),非術側膝伸筋MMT値(R=0.281;P<0.01)とそれぞれ弱い相関を示した。
【考察】過去の報告における50歳代,60歳代,70歳代の健常女性の大腰筋面積に比べ,本研究の対象者の非術側大腰筋面積は,各年代とも低値を示した。健常人に比べて変形性股関節症患者は,機能障害により活動量低下をきたし,全身的な筋萎縮を呈することが示唆された。また,今回の調査では,非術側大腰筋量と退院時歩行速度に弱い正の相関を認めた。近年の入院期間短縮化により,退院時,術側下肢の機能改善が不十分な患者が多いため,非術側大腰筋量が歩行速度に影響を与える一因となったと考えられる。特に,加齢に伴い退院時歩行速度が低下していたことから,高齢者には,術前からの積極的な大腰筋トレーニングが退院時歩行能力向上の一助となると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本調査により,変形性股関節症女性患者の大腰筋面積の指標が示されると考える。また,大腰筋量とTHA術後の退院時歩行能力との関係性を調査したことで,今後のTHA術前後の理学療法内容検討の一助となると考える。
【対象】2007年4月~2013年3月に変形性股関節症で片側THAを施行され,術前骨盤CTを行った女性124例のうち,50歳未満,反対側のTHAの既往,術後合併症を有したものを除いた115例を対象とした。年齢分布は50歳代22例,60歳代37例,70歳代44例,80歳代12例で平均年齢は68.1歳であった。平均術後入院期間は19.7日で,年代間で有意差を認めなかった。転帰は自宅退院112例,転院3例であった。
【方法】大腰筋の横断面積を筋量推定の指標とし,CT画像上の第4腰椎レベルの非術側,術側大腰筋の筋肉面積を,医用画像解析ソフトウエア「スライスオマティック」にて測定した。また,手術時の年齢,身長,体重,BMI,術後入院期間,膝伸筋,股屈筋の退院時徒手筋力検査値(以下MMT値),退院時歩行速度(快適)をカルテから後方視的に抽出した。統計学的分析には,SPSSstatics22を用いた。年代別の比較には,Kruskal-Wallis検定後にBonferroni法にて多重比較を行った。術側と非術側との大腰筋量の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた。退院時歩行速度と年齢,身長,体重,術後入院期間,膝伸筋,股屈筋の退院時MMT値との関連性は,Spearmanの順位相関係数を用い検討した。
【結果】大腰筋面積(非術側,術側)は,50歳代(6.81cm2,5.33cm2),60歳代(6.52cm2,4.73cm2),70歳代(5.97cm2,4.79cm2),80歳代(5.74cm2,5.16cm2)で,50歳代~70歳代までは,非術側と術側間で有意差を認めた(P<0.01)。各年代間では非術側,術側共に有意差を認めなかったが,いずれも加齢に伴い縮小傾向を示した。退院時歩行速度は,50歳代0.81m/sec,60歳代0.74m/sec,70歳代0.57m/sec,80歳代0.51m/secで,年齢と中等度の負の相関を認めた(R=-0.427;P<0.01)。大腰筋量と退院時歩行速度との関連は,非術側大腰筋量と弱い正の相関を示し(R=0.307;P<0.01),術側大腰筋量とは相関を示さなかった。退院時歩行速度とその他の項目の関連は,術側股屈筋MMT値に中等度の相関を認め(R=0.402;P<0.01),身長(R=0.377;P<0.01),術後日数(R=-0.327;P<0.01),非術側膝伸筋MMT値(R=0.281;P<0.01)とそれぞれ弱い相関を示した。
【考察】過去の報告における50歳代,60歳代,70歳代の健常女性の大腰筋面積に比べ,本研究の対象者の非術側大腰筋面積は,各年代とも低値を示した。健常人に比べて変形性股関節症患者は,機能障害により活動量低下をきたし,全身的な筋萎縮を呈することが示唆された。また,今回の調査では,非術側大腰筋量と退院時歩行速度に弱い正の相関を認めた。近年の入院期間短縮化により,退院時,術側下肢の機能改善が不十分な患者が多いため,非術側大腰筋量が歩行速度に影響を与える一因となったと考えられる。特に,加齢に伴い退院時歩行速度が低下していたことから,高齢者には,術前からの積極的な大腰筋トレーニングが退院時歩行能力向上の一助となると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本調査により,変形性股関節症女性患者の大腰筋面積の指標が示されると考える。また,大腰筋量とTHA術後の退院時歩行能力との関係性を調査したことで,今後のTHA術前後の理学療法内容検討の一助となると考える。