[P3-C-0903] バルーン排出訓練における直腸圧の検討
姿勢の違いによる比較
Keywords:排便姿勢, 直腸圧, 息み時間
【背景】
我々は,大腸肛門病の専門病院として,第42回当学会より,理学療法士の視点で直腸肛門機能についての研究を継続している。研究結果から得られた知識を基に,治療の質向上を図っている。今年度は,大腸肛門リハビリテーション科による便秘外来の開設に伴い,理学療法士も排便障害を主訴として受診された方に対して,バルーン排出訓練を行っている。特に,ROMEIIIF3領域の症例に対して介入し,排便姿勢や骨盤底筋群の弛緩方法,腹圧の加え方などを指導して,快適な排便を目指して治療を行っている。今回,医師から指示された症例に対して,バルーン排出訓練をポータブルトイレで実施し,訓練の際に直腸内の圧変化と息み時間を評価したので以下に報告する。
【対象と方法】
バルーン排出訓練を理学療法士も介入して実施した女性6例(平均年齢77.7±9.6歳)を対象とした。バルーン排出訓練では,患者はシムス体位で臥床し,シリコン製のバルーンを肛門から挿入する。肛門管を過ぎて直腸内にバルーンを留置し,airを50ml送気したものを疑似便に見立て,通常の排便のごとく息んで排出する。訓練中には,一連の圧変化をスターメディカル社製直腸肛門機能検査キットGMMS-200で評価する。訓練は下記の方法で行い,1.から5.を比較検討した。患者は,1.airを送気して便意を感じた状態で起き上がり,ポータブルトイレへ移動する。移動が完了したら,2.背筋の伸ばした伸展座位で排出する。3.排出ができなければ前屈座位で排出する。4.伸展座位で排出できた症例も前屈座位での排出を同じように実施する。訓練終了後に,パソコンのモニターを用いて,5.排出までの息み時間を計測した。また,一連の排便動作における圧の変化を説明し,腹圧の加え方や骨盤底筋群の弛緩を促した。
【結果】
1.臥位からポータブルトイレへ着座した時点で,直腸圧が21.8±6.9cmH2O上昇した。2.伸展座位での排出では,2例が可能(94.9±161cmH2O)であり,4例は不可能(90.5±44.1cmH2O)であった。不可能な4例は,直腸圧が高まっていても排出ができない症例が2例,直腸圧が高まっていない症例が2例であった。3.前屈座位での排出では,4例が可能(120.8±22.5cmH2O)であり,2例が不可能(73.1±28.1cmH2O)であった。伸展座位で直腸圧が高まっても排出できなかった2例は排出可能であった。また,排出不可能であった2例のうち,1例は伸展座位でも排出できない症例であり,1例は普段から伸展座位でしか排出できない症例であった。臥位,伸展座位,前屈座位の全ての姿勢で排出できた症例の息み時間は,臥位10.5秒,伸展座位5秒,前屈座位3秒でバルーンの排出が可能であった。5.伸展座位と前屈座位で,排出までに息んだ時間は,排出が可能な場合は9.0±5.7秒,9.5±4.4秒,不可能な場合は15.1±10.5秒,9.8±3.2秒であった。全体で排出可能な場合は,9.5±4.4秒,不可能な場合は13.3±8.7秒であった。
【考察】
今回,バルーン排出訓練での直腸圧の変化と息み時間を比較した。まず,着目したことは,臥位と座位では直腸圧が変化している点である。臥位よりも座位では,直腸圧つまり腹圧が21.8±6.9cmH2O上昇した。このことは,オムツを着用したままの臥位での排便ではなく,便意を逃さずトイレへ誘導し,便座へ着座してから排便を促すことが重要であることの根拠になると考える。また,伸展座位では排出可能,不可能にかかわらず同程度の直腸圧であったが,前屈座位では排出が可能な例で直腸圧が高く,不可能な例では低い傾向であった。排出までに息んだ時間は,排出可能な場合は9秒,不可能な場合は伸展座位で15秒,前屈座位では10秒と伸展座位で排出できない場合は長く息んでいた。我々の過去の研究では,肛門内圧は骨盤前傾位で高く,後傾位で低くなること。前屈座位では伸展座位よりも肛門直腸角が鈍角になりやすいことを報告しており,出口である骨盤底筋群は伸展座位で弛緩が困難なため息みが長くなり,前屈座位では弛緩し易いために息みが短かったと考えられる。これらの結果から,前屈座位では腹圧が適度に上昇し,骨盤底は弛緩するため排出が行い易くなったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士が排泄についての生理を知識として持つことで,在宅生活を送るための支援につながり,生活の質を高めることが出来ると考えている。
我々は,大腸肛門病の専門病院として,第42回当学会より,理学療法士の視点で直腸肛門機能についての研究を継続している。研究結果から得られた知識を基に,治療の質向上を図っている。今年度は,大腸肛門リハビリテーション科による便秘外来の開設に伴い,理学療法士も排便障害を主訴として受診された方に対して,バルーン排出訓練を行っている。特に,ROMEIIIF3領域の症例に対して介入し,排便姿勢や骨盤底筋群の弛緩方法,腹圧の加え方などを指導して,快適な排便を目指して治療を行っている。今回,医師から指示された症例に対して,バルーン排出訓練をポータブルトイレで実施し,訓練の際に直腸内の圧変化と息み時間を評価したので以下に報告する。
【対象と方法】
バルーン排出訓練を理学療法士も介入して実施した女性6例(平均年齢77.7±9.6歳)を対象とした。バルーン排出訓練では,患者はシムス体位で臥床し,シリコン製のバルーンを肛門から挿入する。肛門管を過ぎて直腸内にバルーンを留置し,airを50ml送気したものを疑似便に見立て,通常の排便のごとく息んで排出する。訓練中には,一連の圧変化をスターメディカル社製直腸肛門機能検査キットGMMS-200で評価する。訓練は下記の方法で行い,1.から5.を比較検討した。患者は,1.airを送気して便意を感じた状態で起き上がり,ポータブルトイレへ移動する。移動が完了したら,2.背筋の伸ばした伸展座位で排出する。3.排出ができなければ前屈座位で排出する。4.伸展座位で排出できた症例も前屈座位での排出を同じように実施する。訓練終了後に,パソコンのモニターを用いて,5.排出までの息み時間を計測した。また,一連の排便動作における圧の変化を説明し,腹圧の加え方や骨盤底筋群の弛緩を促した。
【結果】
1.臥位からポータブルトイレへ着座した時点で,直腸圧が21.8±6.9cmH2O上昇した。2.伸展座位での排出では,2例が可能(94.9±161cmH2O)であり,4例は不可能(90.5±44.1cmH2O)であった。不可能な4例は,直腸圧が高まっていても排出ができない症例が2例,直腸圧が高まっていない症例が2例であった。3.前屈座位での排出では,4例が可能(120.8±22.5cmH2O)であり,2例が不可能(73.1±28.1cmH2O)であった。伸展座位で直腸圧が高まっても排出できなかった2例は排出可能であった。また,排出不可能であった2例のうち,1例は伸展座位でも排出できない症例であり,1例は普段から伸展座位でしか排出できない症例であった。臥位,伸展座位,前屈座位の全ての姿勢で排出できた症例の息み時間は,臥位10.5秒,伸展座位5秒,前屈座位3秒でバルーンの排出が可能であった。5.伸展座位と前屈座位で,排出までに息んだ時間は,排出が可能な場合は9.0±5.7秒,9.5±4.4秒,不可能な場合は15.1±10.5秒,9.8±3.2秒であった。全体で排出可能な場合は,9.5±4.4秒,不可能な場合は13.3±8.7秒であった。
【考察】
今回,バルーン排出訓練での直腸圧の変化と息み時間を比較した。まず,着目したことは,臥位と座位では直腸圧が変化している点である。臥位よりも座位では,直腸圧つまり腹圧が21.8±6.9cmH2O上昇した。このことは,オムツを着用したままの臥位での排便ではなく,便意を逃さずトイレへ誘導し,便座へ着座してから排便を促すことが重要であることの根拠になると考える。また,伸展座位では排出可能,不可能にかかわらず同程度の直腸圧であったが,前屈座位では排出が可能な例で直腸圧が高く,不可能な例では低い傾向であった。排出までに息んだ時間は,排出可能な場合は9秒,不可能な場合は伸展座位で15秒,前屈座位では10秒と伸展座位で排出できない場合は長く息んでいた。我々の過去の研究では,肛門内圧は骨盤前傾位で高く,後傾位で低くなること。前屈座位では伸展座位よりも肛門直腸角が鈍角になりやすいことを報告しており,出口である骨盤底筋群は伸展座位で弛緩が困難なため息みが長くなり,前屈座位では弛緩し易いために息みが短かったと考えられる。これらの結果から,前屈座位では腹圧が適度に上昇し,骨盤底は弛緩するため排出が行い易くなったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士が排泄についての生理を知識として持つことで,在宅生活を送るための支援につながり,生活の質を高めることが出来ると考えている。