[P3-C-0977] 呼吸時における下位胸郭周径変化量の左右差の検討
Keywords:呼吸, 胸郭運動, 左右差
【はじめに,目的】
呼吸運動は,横隔膜と胸郭の運動である。安定した呼吸のためには,横隔膜をはじめ肋間筋や腹部周囲筋の協調的な活動が重要であり,特に腹部深層筋の活動は重要である。臨床においては,呼吸時における胸郭周囲径の拡大と縮小の差を評価指標とする事が多いが,呼吸器疾患に限らず腰部の不安定性を呈する患者で呼吸時の胸郭拡張性左右差が認められることを経験する。下位胸郭には脊柱分節での安定性を高める腹横筋や多裂筋,横隔膜などが付着するため,機能低下にて体幹表層筋が優位に作用すると予測される。体幹表層筋は,表在に位置する大きな体幹筋で,脊柱の方向性をコントロールし,剛性を高めることができるが,脊椎分節の安定性を高める事は出来ない。よって,日常生活の不良姿勢や歩行動作での左右の不均衡な体幹筋活動は胸郭形状や呼吸時の拡張性に左右差を生じさせると考えられる。先行研究では,上下の胸郭拡張差と腹横筋厚の関連性や体幹回旋動作と胸郭拡張性の関連性など胸郭における上下での拡張性に対して述べている研究が多い。しかし,胸郭拡張性の左右差については報告がされていない。そこで今回は,呼吸時の下位胸郭周径変化量の左右差を比較したところ興味ある知見が得られたので報告する。
【方法】
対象者は,健常成人男性10名(平均年齢28.5±7.12)。測定肢位は座位姿勢とし,座位姿勢の定義は,足底全面接地にて股関節,膝関節90°屈曲位,骨盤傾斜角0°とした。骨盤傾斜角は,矢状面におけるASISとPSISを結ぶ線分が水平面となす角度と定義し,角度計を用いて姿勢設定を行った。出来るだけ両上肢の影響を除くために両上肢を肩関節90°屈曲位,肘関節屈曲位,前腕回内位の楽な姿勢でスリングした。測定中,目線を一定にするため,被験者に目の高さに設置した前方の指標を注視するように指示した。呼吸時の計測する胸郭高位は,座位にて第10肋骨レベル高(下位胸郭)とし,安静呼気と最大呼気,最大吸気の各周径を左右の胸郭それぞれについてテープメジャーで3回計測した。剣状突起から腹壁に沿った垂線を,胸郭を左右に二分する基準とし,第10肋骨レベル高での床への平行線と脊柱の交点までの右側周径を右胸郭周径,左側周径を左胸郭周径として平均値を算出した。安静呼気の周径値から最大呼気の周径値を引いた値(最大呼気変化量)と最大吸気の周径値から安静呼気の周径値を引いた値(最大吸気変化量)を左右ともそれぞれ算出した。統計処理は,最大呼気変化量と最大吸気変化量の左右差についての比較は,対応のないt検定を実施した。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
右下位胸郭の最大呼気変化量(2.44±0.91cm)は左下位胸郭の最大呼気変化量(1.62±0.62cm)に対し有意差(p<0.05)があり,有意に大きくなった。左下位胸郭の最大吸気変化量(1.16±0.70cm)と右下位胸郭の最大吸気変化量(1.11±0.96cm)の間には有意な差が認められなかった(p>0.05)。
【考察】
本研究の結果,最大呼気変化量は左下位胸郭に比べて右下位胸郭で有意に大きいことが示された。これに対し,最大吸気変化量に関して左右差がないことが分かった。最大呼気の際,胸腔内容量の急速な減少には下位胸郭に直接または連結を介して付着する強制呼気筋である腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋が作用し,これらは左右両側に起始,停止をもち胸郭全体を下方へ運動させる。胸郭形状の左右差の存在は,腰椎アライメントに影響を与え,多裂筋機能を低下させ,腰部の不安定性を招くとの報告がある。したがって,本研究結果で見られた下位胸郭の呼気変化量の左右差は,体幹機能に何らかの影響を及ぼすと考えられる。また,最大吸気変化量にて左右差が認められなかったのは,強制呼気筋に比べて強制吸気筋は上位,中位肋骨に付着する筋が多いことから胸郭運動パターンが被検者内で異なったためであると考えられる。今回の研究では,最大吸気に比べて最大呼気において周径変化量は,左右差が生じやすい事が示唆された。今後の課題としては,最大呼気変化量の左右差の機序について体幹深層筋群の筋厚との関係性について検討を加え,検証していく。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果より,下位胸郭における左最大呼気変化量と右最大呼気変化量において差がみられることが示された。胸郭の動きが問題となっているケースでは,上位胸郭,下位胸郭の動きのみならず,左下位胸郭と右下位胸郭の動きを評価することで,有用な評価を行える可能性があると考える。
呼吸運動は,横隔膜と胸郭の運動である。安定した呼吸のためには,横隔膜をはじめ肋間筋や腹部周囲筋の協調的な活動が重要であり,特に腹部深層筋の活動は重要である。臨床においては,呼吸時における胸郭周囲径の拡大と縮小の差を評価指標とする事が多いが,呼吸器疾患に限らず腰部の不安定性を呈する患者で呼吸時の胸郭拡張性左右差が認められることを経験する。下位胸郭には脊柱分節での安定性を高める腹横筋や多裂筋,横隔膜などが付着するため,機能低下にて体幹表層筋が優位に作用すると予測される。体幹表層筋は,表在に位置する大きな体幹筋で,脊柱の方向性をコントロールし,剛性を高めることができるが,脊椎分節の安定性を高める事は出来ない。よって,日常生活の不良姿勢や歩行動作での左右の不均衡な体幹筋活動は胸郭形状や呼吸時の拡張性に左右差を生じさせると考えられる。先行研究では,上下の胸郭拡張差と腹横筋厚の関連性や体幹回旋動作と胸郭拡張性の関連性など胸郭における上下での拡張性に対して述べている研究が多い。しかし,胸郭拡張性の左右差については報告がされていない。そこで今回は,呼吸時の下位胸郭周径変化量の左右差を比較したところ興味ある知見が得られたので報告する。
【方法】
対象者は,健常成人男性10名(平均年齢28.5±7.12)。測定肢位は座位姿勢とし,座位姿勢の定義は,足底全面接地にて股関節,膝関節90°屈曲位,骨盤傾斜角0°とした。骨盤傾斜角は,矢状面におけるASISとPSISを結ぶ線分が水平面となす角度と定義し,角度計を用いて姿勢設定を行った。出来るだけ両上肢の影響を除くために両上肢を肩関節90°屈曲位,肘関節屈曲位,前腕回内位の楽な姿勢でスリングした。測定中,目線を一定にするため,被験者に目の高さに設置した前方の指標を注視するように指示した。呼吸時の計測する胸郭高位は,座位にて第10肋骨レベル高(下位胸郭)とし,安静呼気と最大呼気,最大吸気の各周径を左右の胸郭それぞれについてテープメジャーで3回計測した。剣状突起から腹壁に沿った垂線を,胸郭を左右に二分する基準とし,第10肋骨レベル高での床への平行線と脊柱の交点までの右側周径を右胸郭周径,左側周径を左胸郭周径として平均値を算出した。安静呼気の周径値から最大呼気の周径値を引いた値(最大呼気変化量)と最大吸気の周径値から安静呼気の周径値を引いた値(最大吸気変化量)を左右ともそれぞれ算出した。統計処理は,最大呼気変化量と最大吸気変化量の左右差についての比較は,対応のないt検定を実施した。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
右下位胸郭の最大呼気変化量(2.44±0.91cm)は左下位胸郭の最大呼気変化量(1.62±0.62cm)に対し有意差(p<0.05)があり,有意に大きくなった。左下位胸郭の最大吸気変化量(1.16±0.70cm)と右下位胸郭の最大吸気変化量(1.11±0.96cm)の間には有意な差が認められなかった(p>0.05)。
【考察】
本研究の結果,最大呼気変化量は左下位胸郭に比べて右下位胸郭で有意に大きいことが示された。これに対し,最大吸気変化量に関して左右差がないことが分かった。最大呼気の際,胸腔内容量の急速な減少には下位胸郭に直接または連結を介して付着する強制呼気筋である腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋が作用し,これらは左右両側に起始,停止をもち胸郭全体を下方へ運動させる。胸郭形状の左右差の存在は,腰椎アライメントに影響を与え,多裂筋機能を低下させ,腰部の不安定性を招くとの報告がある。したがって,本研究結果で見られた下位胸郭の呼気変化量の左右差は,体幹機能に何らかの影響を及ぼすと考えられる。また,最大吸気変化量にて左右差が認められなかったのは,強制呼気筋に比べて強制吸気筋は上位,中位肋骨に付着する筋が多いことから胸郭運動パターンが被検者内で異なったためであると考えられる。今回の研究では,最大吸気に比べて最大呼気において周径変化量は,左右差が生じやすい事が示唆された。今後の課題としては,最大呼気変化量の左右差の機序について体幹深層筋群の筋厚との関係性について検討を加え,検証していく。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果より,下位胸郭における左最大呼気変化量と右最大呼気変化量において差がみられることが示された。胸郭の動きが問題となっているケースでは,上位胸郭,下位胸郭の動きのみならず,左下位胸郭と右下位胸郭の動きを評価することで,有用な評価を行える可能性があると考える。