[P3-C-1014] 脳卒中片麻痺者の非麻痺側握力は他の非麻痺側筋力を反映するか
キーワード:脳卒中, 握力, 筋力評価
【はじめに,目的】
握力の測定は,文部科学省が国民の体力把握のために実施している「新体力テスト」の項目の一つであり,リハビリテーション場面においても,筋力評価としてよく用いられている。先行研究において,握力は様々な上下肢筋力との相関関係が示され,年齢別においても若年者から高齢者対象と幅広く報告がみられる。しかしながら,脳卒中片麻痺者に関して,非麻痺側の握力がその他の非麻痺側筋力と相関するかについての報告はみられない。そこで本研究の目的は脳卒中片麻痺者において,非麻痺側の握力が非麻痺側筋力の指標になり得るかを検討することである。
【方法】
対象は,病院に入院中の脳卒中片麻痺者31名(男性12名女性19名,平均年齢73.6±7.4歳,平均発症後日数73.8±41.1日)とした。取り込み基準は,座位姿勢が安定していること,意思疎通が可能なこととした。
方法は,対象者の非麻痺側の握力ならびに筋力測定を行った。握力はスメドレー式握力計を用い,その他の筋力は,徒手筋力計(μ-tasF1)を用いて測定した。筋力測定は,肩関節屈曲・伸展,肘関節屈曲・伸展,股関節屈曲,膝関節伸展,足関節背屈の計7動作の等尺性筋力を測定した。筋力測定の肢位はBohannonの方法に準じ,背臥位もしくは座位姿勢でベルトを使用しながら実施した。握力は3回測定し最大値を採用した。他の筋力は,各3回測定した際の最大値(N)とモーメントアームの積を求め,関節トルク(N・m)を算出した。
統計解析は,非麻痺側の握力と関節トルクとの相関関係を,Pearsonの積率相関係数を求めて検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者全員の握力は平均17.3±6.5kgであった。
統計解析の結果,非麻痺側握力と他の7筋群間すべてにおいて有意な正の相関が認められた。各関節トルク値および握力との相関係数は,肩関節屈曲20.0±8.3 N・m(r=.68),肩関節伸展25.0±8.7 N・m(r=.75)肘関節屈曲25.8±11.0 N・m(r=.77)肘関節伸展24.0±9.2 N・m(r=.78),股関節屈曲34.5±8.8N・m(r=.51),膝関節伸展49.1±18.3 N・m(r=.55),足関節背屈18.1±6.4 N・m(r=.71)であった。
【考察】
握力と他の筋力には中等度の相関が認められ,とくに下肢筋よりも上肢筋との相関係数が高値を示した。また,本研究で得られた握力の値は,文部科学省が発表している同年代の平均握力と比較し低値であった(70歳代男性36.6kg,女性23.3kg)。これらのことから,脳卒中発症後の廃用症候群などにより筋力が低下している場合においても,非麻痺側の握力は非麻痺側筋力,特に上肢筋力と相関関係が成り立つことが示唆された。
また,本研究結果の相関係数は,健常者を対象とした先行研究とほぼ同様の結果となり,疾患の有無によって違いが無いことが示唆された。このことから,脳卒中片麻痺者においても,簡便な筋力評価である握力を測定することによって,非麻痺側筋力の把握がある程度可能であると推察される。しかしながら,本研究は対象者が限られており,年齢も高齢であったため,今後は対象者数を増やし,年齢や性差などを区分することで,脳卒中片麻痺者のより詳細な非麻痺側筋力データを提示していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺者の非麻痺側の握力を測定することは,全身の非麻痺側筋力を把握する際に比較的有用な方法である事が示唆された。これにより,より簡便な身体機能の評価が実施可能になり,本研究がさらに効果的な理学療法を行う上での一助となるものと考える。
握力の測定は,文部科学省が国民の体力把握のために実施している「新体力テスト」の項目の一つであり,リハビリテーション場面においても,筋力評価としてよく用いられている。先行研究において,握力は様々な上下肢筋力との相関関係が示され,年齢別においても若年者から高齢者対象と幅広く報告がみられる。しかしながら,脳卒中片麻痺者に関して,非麻痺側の握力がその他の非麻痺側筋力と相関するかについての報告はみられない。そこで本研究の目的は脳卒中片麻痺者において,非麻痺側の握力が非麻痺側筋力の指標になり得るかを検討することである。
【方法】
対象は,病院に入院中の脳卒中片麻痺者31名(男性12名女性19名,平均年齢73.6±7.4歳,平均発症後日数73.8±41.1日)とした。取り込み基準は,座位姿勢が安定していること,意思疎通が可能なこととした。
方法は,対象者の非麻痺側の握力ならびに筋力測定を行った。握力はスメドレー式握力計を用い,その他の筋力は,徒手筋力計(μ-tasF1)を用いて測定した。筋力測定は,肩関節屈曲・伸展,肘関節屈曲・伸展,股関節屈曲,膝関節伸展,足関節背屈の計7動作の等尺性筋力を測定した。筋力測定の肢位はBohannonの方法に準じ,背臥位もしくは座位姿勢でベルトを使用しながら実施した。握力は3回測定し最大値を採用した。他の筋力は,各3回測定した際の最大値(N)とモーメントアームの積を求め,関節トルク(N・m)を算出した。
統計解析は,非麻痺側の握力と関節トルクとの相関関係を,Pearsonの積率相関係数を求めて検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者全員の握力は平均17.3±6.5kgであった。
統計解析の結果,非麻痺側握力と他の7筋群間すべてにおいて有意な正の相関が認められた。各関節トルク値および握力との相関係数は,肩関節屈曲20.0±8.3 N・m(r=.68),肩関節伸展25.0±8.7 N・m(r=.75)肘関節屈曲25.8±11.0 N・m(r=.77)肘関節伸展24.0±9.2 N・m(r=.78),股関節屈曲34.5±8.8N・m(r=.51),膝関節伸展49.1±18.3 N・m(r=.55),足関節背屈18.1±6.4 N・m(r=.71)であった。
【考察】
握力と他の筋力には中等度の相関が認められ,とくに下肢筋よりも上肢筋との相関係数が高値を示した。また,本研究で得られた握力の値は,文部科学省が発表している同年代の平均握力と比較し低値であった(70歳代男性36.6kg,女性23.3kg)。これらのことから,脳卒中発症後の廃用症候群などにより筋力が低下している場合においても,非麻痺側の握力は非麻痺側筋力,特に上肢筋力と相関関係が成り立つことが示唆された。
また,本研究結果の相関係数は,健常者を対象とした先行研究とほぼ同様の結果となり,疾患の有無によって違いが無いことが示唆された。このことから,脳卒中片麻痺者においても,簡便な筋力評価である握力を測定することによって,非麻痺側筋力の把握がある程度可能であると推察される。しかしながら,本研究は対象者が限られており,年齢も高齢であったため,今後は対象者数を増やし,年齢や性差などを区分することで,脳卒中片麻痺者のより詳細な非麻痺側筋力データを提示していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺者の非麻痺側の握力を測定することは,全身の非麻痺側筋力を把握する際に比較的有用な方法である事が示唆された。これにより,より簡便な身体機能の評価が実施可能になり,本研究がさらに効果的な理学療法を行う上での一助となるものと考える。