[P3-C-1048] 脳卒中片麻痺患者の歩行自立を判定する際の重要項目に関するアンケート調査
Keywords:脳卒中, 歩行自立度, アンケート
【はじめに,目的】
歩行自立を判定するものとして機能障害面だけでなく生活環境,転倒歴など様々な関連要因が存在する。今までに運動機能テストの数値と歩行自立度の関連性についての研究は多いが,臨床場面において理学療法士が様々な関連要因の中から重要視している項目を調査した研究は少ない。そこで,本研究は理学療法士が歩行自立を判定する際に,重要視する項目およびそれらの項目の経験年数による違いについて調査した。
【方法】
急性期,回復期,生活期の患者に関わる当法人理学療法士の59名を対象に質問紙法による無記名アンケート調査を実施した。対象者は経験年数1~30年目で平均6.7±6.1年である。質問内容は経験年数,機能テストの参考度合,歩行自立判定する際の重要項目について重みづけを行ってもらった。項目の抽出については,先行研究から植松らの報告と中川らが開発した転倒リスクアセスメントシートを参考にした。今回は歩行を構成する要素と情報に焦点を当て,歩行能力そのものに関する項目は挙げなかった。項目は①運動機能面・②認知機能面・③情報/意見・④その他(以下番号表記)の4項目を上位項目として設定した。それぞれの下位項目は①[筋力/麻痺・耐久性・感覚・循環動態・バランス],②[失行・失認(注意機能等)・認知(記憶,判断力等)・視力・聴覚],③[看護師/介護士・ご家族・ご本人・他の療法士・主治医(許可ではなく検討)],④[環境・使用薬物・性格・年齢・転倒歴]とし5項目毎とした。それぞれの重み付けは各項目の重要度合いを10mの線分上に割合配分し,それぞれの長さを用いた。各項目の長さを数値化したものについて1元配置分散分析を行い多重比較を行った。また機能テストはBerg Balance Scale(以下BBS),Timed Up and Go(以下TUG)の数値を歩行自立判定にどの程度参考にするかを10cmの線上に示してもらった。経験年数別には1~4年目(29名)若手理学療法士と5年目以降(28名)経験者で分け,それぞれの項目の差の検定を行った。統計処理に関しては統計処理ソフトRコマンダーを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
アンケート回収率は98.3%,有効回答率は98.3%であった。一元配置分散分析の結果,上位項目,下位項目すべてに有意差が認められた。多重比較においては上位項目の運動機能面,認知機能面が高値を示し,これら以外の2項目との間に有意差を認めた。下位項目に関して運動機能面は[麻痺/筋力・バランス]が高値を示し,それぞれがこれら以外の3項目との間に有意差を認めた。認知機能面は[聴覚],情報は[主治医],その他は[年齢]が低値を示し,それぞれがこれら以外の4項目との間に有意差を認めた。経験年数別の項目の差の検定では,経験者に関して上位項目の認知機能面が有意に高く,下位項目の聴覚が有意に低く,若手理学療法士に関して他の療法士,BBS,TUGが有意に高かった。
【考察】
千葉らは70%以上の理学療法士は,脳卒中片麻痺患者の歩行自立を判定する際,テストバッテリーを用いず機能的側面や歩行能力,高次脳機能障害等から主観的に判断していると報告している。本研究でも上位項目として運動機能面,認知機能面を重視する傾向が見られた。一方,下位項目で見ると聴覚,主治医,年齢についてあまり参考にしない傾向が見られ,特に主治医は検討ではなく許可を得る形が多いと考える。また,経験年数別に見ると経験者の方が認知機能面を重視し,聴覚を参考にしていない傾向が伺えた。これは経験者が若手理学療法士に比べ重視する項目とそうでない項目を明確に分けていると考える。次に若手理学療法士の方がBBS,TUG,他の療法士の意見を重視する傾向が見られ,経験値の少なさの補填として他者の意見も判断の一助にしていると考える。結果から見ると若手理学療法士は運動機能面や認知機能面も加味しながら機能テストの数値と他の療法士の意見をより重視しながら判断し,一方,経験者は機能テストより高次能機能障害や認知面の問題などをより重視し,必要な情報と必要でない情報を明確に取捨選択しながら判断をしていると考える。若手理学療法士も様々な関連要因を加味し総合的に判断していると思われるが,経験と伴に重視する項目が取捨選択されてくると考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行自立を判定するものとして様々な関連要因が存在する。それらのどの要素を理学療法士は重要視しているかを調査した研究は少ない。特に経験者の歩行自立を決定する因子を明確にする事が,経験の浅い理学療法士の歩行自立判定の一助になると考える。
歩行自立を判定するものとして機能障害面だけでなく生活環境,転倒歴など様々な関連要因が存在する。今までに運動機能テストの数値と歩行自立度の関連性についての研究は多いが,臨床場面において理学療法士が様々な関連要因の中から重要視している項目を調査した研究は少ない。そこで,本研究は理学療法士が歩行自立を判定する際に,重要視する項目およびそれらの項目の経験年数による違いについて調査した。
【方法】
急性期,回復期,生活期の患者に関わる当法人理学療法士の59名を対象に質問紙法による無記名アンケート調査を実施した。対象者は経験年数1~30年目で平均6.7±6.1年である。質問内容は経験年数,機能テストの参考度合,歩行自立判定する際の重要項目について重みづけを行ってもらった。項目の抽出については,先行研究から植松らの報告と中川らが開発した転倒リスクアセスメントシートを参考にした。今回は歩行を構成する要素と情報に焦点を当て,歩行能力そのものに関する項目は挙げなかった。項目は①運動機能面・②認知機能面・③情報/意見・④その他(以下番号表記)の4項目を上位項目として設定した。それぞれの下位項目は①[筋力/麻痺・耐久性・感覚・循環動態・バランス],②[失行・失認(注意機能等)・認知(記憶,判断力等)・視力・聴覚],③[看護師/介護士・ご家族・ご本人・他の療法士・主治医(許可ではなく検討)],④[環境・使用薬物・性格・年齢・転倒歴]とし5項目毎とした。それぞれの重み付けは各項目の重要度合いを10mの線分上に割合配分し,それぞれの長さを用いた。各項目の長さを数値化したものについて1元配置分散分析を行い多重比較を行った。また機能テストはBerg Balance Scale(以下BBS),Timed Up and Go(以下TUG)の数値を歩行自立判定にどの程度参考にするかを10cmの線上に示してもらった。経験年数別には1~4年目(29名)若手理学療法士と5年目以降(28名)経験者で分け,それぞれの項目の差の検定を行った。統計処理に関しては統計処理ソフトRコマンダーを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
アンケート回収率は98.3%,有効回答率は98.3%であった。一元配置分散分析の結果,上位項目,下位項目すべてに有意差が認められた。多重比較においては上位項目の運動機能面,認知機能面が高値を示し,これら以外の2項目との間に有意差を認めた。下位項目に関して運動機能面は[麻痺/筋力・バランス]が高値を示し,それぞれがこれら以外の3項目との間に有意差を認めた。認知機能面は[聴覚],情報は[主治医],その他は[年齢]が低値を示し,それぞれがこれら以外の4項目との間に有意差を認めた。経験年数別の項目の差の検定では,経験者に関して上位項目の認知機能面が有意に高く,下位項目の聴覚が有意に低く,若手理学療法士に関して他の療法士,BBS,TUGが有意に高かった。
【考察】
千葉らは70%以上の理学療法士は,脳卒中片麻痺患者の歩行自立を判定する際,テストバッテリーを用いず機能的側面や歩行能力,高次脳機能障害等から主観的に判断していると報告している。本研究でも上位項目として運動機能面,認知機能面を重視する傾向が見られた。一方,下位項目で見ると聴覚,主治医,年齢についてあまり参考にしない傾向が見られ,特に主治医は検討ではなく許可を得る形が多いと考える。また,経験年数別に見ると経験者の方が認知機能面を重視し,聴覚を参考にしていない傾向が伺えた。これは経験者が若手理学療法士に比べ重視する項目とそうでない項目を明確に分けていると考える。次に若手理学療法士の方がBBS,TUG,他の療法士の意見を重視する傾向が見られ,経験値の少なさの補填として他者の意見も判断の一助にしていると考える。結果から見ると若手理学療法士は運動機能面や認知機能面も加味しながら機能テストの数値と他の療法士の意見をより重視しながら判断し,一方,経験者は機能テストより高次能機能障害や認知面の問題などをより重視し,必要な情報と必要でない情報を明確に取捨選択しながら判断をしていると考える。若手理学療法士も様々な関連要因を加味し総合的に判断していると思われるが,経験と伴に重視する項目が取捨選択されてくると考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行自立を判定するものとして様々な関連要因が存在する。それらのどの要素を理学療法士は重要視しているかを調査した研究は少ない。特に経験者の歩行自立を決定する因子を明確にする事が,経験の浅い理学療法士の歩行自立判定の一助になると考える。