[P3-C-1078] 要介護高齢者の歩行自立度の違いに関わる要因の検討
Keywords:歩行自立度, Berg Balance Scale, MMSE
【はじめに,目的】歩行動作の獲得は日常生活の活動範囲を拡大する上で重要であり,臨床においても,歩行自立度の改善を目標とした理学療法プログラムの立案を行うことが多い。先行研究では年齢,運動および知的機能などが歩行自立度に影響を与えると報告されているが,歩行自立度の段階区分が少なく,歩行補助具の違いを加味した検討は行われていない。要介護状態の高齢者では,一人で外出することは少なく,むしろ屋内での安定した歩行や介助量の軽減を望むことが多い。したがって各対象が必要とする歩行自立度に応じた理学療法を考慮すべきであると考えられる。今回我々は,歩行自立度を数段階に分け,年齢,運動および知的機能との関連について検討した。
【方法】2012年4月から2014年10月までにA病院および関連の介護老人保健施設にてデイケアサービスを利用している者のうち,以下の評価が可能であった234名を本研究の対象とした。年齢の中央値は83歳,性別は女性159名,男性75名,要介護状態区分の内訳は要支援1が19名,要支援2が48名,要介護1が58名,要介護2が72名,要介護3が27名,要介護4が8名,要介護5が2名であった。歩行自立度は来所時の施設内移動手段に基づき,車いすで移動している「車いす群」,歩行に介助または監視が必要な「介助歩行群」,歩行器またはシルバーカーを用いて自立している「歩行器群」,杖を用いて自立している「杖歩行群」,杖を使用せずに自立している「独歩群」の5段階で評価した。運動機能の評価にはBerg Balance Scale(BBS)を用いた。これは支持基底面や視覚条件の違いを伴う静的および動的バランス評価であり,14課題により構成されている。各項目が0から4点で判定され,満点は56点となる。認知機能の評価にはMini Mental State Examination(MMSE)を用いた。これは見当識,即時記憶,計算などの11項目から構成され,満点は30点となる。また臨床業務において,BBSとMMSEを定期的に評価しているため,データが複数存在する対象者については,最新のデータを使用した。分析方法は,まず対象を歩行自立度により5群に分類し,年齢,BBS合計得点および下位項目,MMSEについてクラスカルワーリス検定および多重比較検定を用いて群間比較した。次に上記の検定で有意差の認められた項目を独立変数,歩行自立度を従属変数として累積ロジスティック回帰分析を行い,歩行自立度に対する各項目の影響の強さを求めた。統計学的分析にはSPSS version 22を用い,有意水準を5%とした。
【結果】歩行自立度の内訳は,車いす群18名,介助歩行群14名,歩行器群42名,杖歩行群98名,独歩群62名であった。群間比較の結果,各群の年齢の中央値は上述の順に,80歳,84歳,80歳,84歳,81歳,MMSEは25.5点,26.5点,26点,27点,26点と群間差を認めなかったが,BBS合計得点は同様の順に25点,38点,39.5点,49点,51.5点と群間差を認めた。BBS下位項目もすべての項目で有意差を認めた。多重比較検定における各項目の成績は,車いす群,介助歩行群および歩行器群,杖歩行群および独歩群の3段階に大別され,この段階間で有意差を認めた。BBS合計得点とBBS下位項目は相関が強かったため,BBS下位項目のみを独立変数として累積ロジスティック回帰分析を行った結果,移乗と一回転が有意な項目となり,寄与率は0.485であった。
【考察】本研究では年齢やMMSEは歩行自立度による違いを認めず,BBSのみに有意差を認め,累積ロジスティック回帰分析では移乗と一回転が有意な変数であった。すなわち要介護高齢者の歩行自立度には,年齢や知的機能よりも運動機能の影響が強く関与していることが示唆された。以上より,要介護高齢者の歩行自立度を改善するためには,BBS下位項目の要素を含んだ練習を行い,下位項目の最高得点の基準を目指すのではなく,各対象が必要とする歩行自立度に応じた基準の動作獲得練習を考慮することが有用であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】要介護高齢者を対象とした理学療法では,対象者の機能レベルや生活環境により,目標とする歩行自立度は様々である。本研究では,歩行自立度にはバランス能力の関与が強く,必要なバランス能力は歩行自立度の違いにより異なることが示された。この結果を用いることにより,対象者の到達目標に応じた具体的なバランス練習の立案が可能となると考えられ,臨床研究として意義が高いと思われる。
【方法】2012年4月から2014年10月までにA病院および関連の介護老人保健施設にてデイケアサービスを利用している者のうち,以下の評価が可能であった234名を本研究の対象とした。年齢の中央値は83歳,性別は女性159名,男性75名,要介護状態区分の内訳は要支援1が19名,要支援2が48名,要介護1が58名,要介護2が72名,要介護3が27名,要介護4が8名,要介護5が2名であった。歩行自立度は来所時の施設内移動手段に基づき,車いすで移動している「車いす群」,歩行に介助または監視が必要な「介助歩行群」,歩行器またはシルバーカーを用いて自立している「歩行器群」,杖を用いて自立している「杖歩行群」,杖を使用せずに自立している「独歩群」の5段階で評価した。運動機能の評価にはBerg Balance Scale(BBS)を用いた。これは支持基底面や視覚条件の違いを伴う静的および動的バランス評価であり,14課題により構成されている。各項目が0から4点で判定され,満点は56点となる。認知機能の評価にはMini Mental State Examination(MMSE)を用いた。これは見当識,即時記憶,計算などの11項目から構成され,満点は30点となる。また臨床業務において,BBSとMMSEを定期的に評価しているため,データが複数存在する対象者については,最新のデータを使用した。分析方法は,まず対象を歩行自立度により5群に分類し,年齢,BBS合計得点および下位項目,MMSEについてクラスカルワーリス検定および多重比較検定を用いて群間比較した。次に上記の検定で有意差の認められた項目を独立変数,歩行自立度を従属変数として累積ロジスティック回帰分析を行い,歩行自立度に対する各項目の影響の強さを求めた。統計学的分析にはSPSS version 22を用い,有意水準を5%とした。
【結果】歩行自立度の内訳は,車いす群18名,介助歩行群14名,歩行器群42名,杖歩行群98名,独歩群62名であった。群間比較の結果,各群の年齢の中央値は上述の順に,80歳,84歳,80歳,84歳,81歳,MMSEは25.5点,26.5点,26点,27点,26点と群間差を認めなかったが,BBS合計得点は同様の順に25点,38点,39.5点,49点,51.5点と群間差を認めた。BBS下位項目もすべての項目で有意差を認めた。多重比較検定における各項目の成績は,車いす群,介助歩行群および歩行器群,杖歩行群および独歩群の3段階に大別され,この段階間で有意差を認めた。BBS合計得点とBBS下位項目は相関が強かったため,BBS下位項目のみを独立変数として累積ロジスティック回帰分析を行った結果,移乗と一回転が有意な項目となり,寄与率は0.485であった。
【考察】本研究では年齢やMMSEは歩行自立度による違いを認めず,BBSのみに有意差を認め,累積ロジスティック回帰分析では移乗と一回転が有意な変数であった。すなわち要介護高齢者の歩行自立度には,年齢や知的機能よりも運動機能の影響が強く関与していることが示唆された。以上より,要介護高齢者の歩行自立度を改善するためには,BBS下位項目の要素を含んだ練習を行い,下位項目の最高得点の基準を目指すのではなく,各対象が必要とする歩行自立度に応じた基準の動作獲得練習を考慮することが有用であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】要介護高齢者を対象とした理学療法では,対象者の機能レベルや生活環境により,目標とする歩行自立度は様々である。本研究では,歩行自立度にはバランス能力の関与が強く,必要なバランス能力は歩行自立度の違いにより異なることが示された。この結果を用いることにより,対象者の到達目標に応じた具体的なバランス練習の立案が可能となると考えられ,臨床研究として意義が高いと思われる。